IEA、仏国の政策レビューで原子力の削減時期を見極めるよう勧告
02 Dec 2021
IEA報告書の表紙写真©IEA
国際エネルギー機関(IEA)は11月30日、加盟国のエネルギー政策をレビューした報告書のフランス版「France 2021 – Energy Policy Review」を公表し、同国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するには、原子力や再生可能エネルギー、およびエネルギーの効率化に一層投資する必要があると勧告した。
原子力については特に、2035年までに発電シェアを50%まで引き下げるにあたり、これを定めた法制上の要件について、地球温暖化にともなう緊急性や気候中立の重要性、再エネの開発状況等とも照らし合わせて条件を精査し、明確にすべきだとしている。
IEAによれば、フランスは地球温暖化問題への取り組みで国際的なリーダーシップを発揮しており、最も顕著な例として、2015年の国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP21)におけるパリ協定の締結交渉や、これに先立ち仏国内で「緑の成長に向けたエネルギー移行法案」を可決成立させたことなどを挙げた。
しかし近年、同国における低炭素エネルギー技術の開発やエネルギーの効率化対策は、温暖化防止目標を達成できるほど迅速に進んでおらず、フランス政府は将来のエネルギーミックスをどのようにすべきか、極めて重要な判断を下さねばならない状況に直面している。IEAとしては、フランスにはクリーンエネルギーに移行する長期目標の達成の促進で、政策面の一層の努力や関係投資の増額が求められるとしており、将来の電力供給設備の開発については特に、同国政府が明確な戦略を立てる必要があると強調している。
報告書によると、フランス政府は高経年化した商業炉の改修工事計画など、2050年までのCO2排出量実質ゼロ化を確実に軌道に乗せるための決定を2022年に下す予定。同政府はまた、欧州連合(EU)全体で目標としている「2030年までにCO2排出量の55%削減」に歩調を合わせ、今後数年間に国内経済全般でクリーンエネルギー化の促進方策や誘導方策を強化する必要がある。
このような背景からIEAはフランス政府に対する具体的な勧告事項として、(原子力発電シェアを削減するための法制要件の精査に加えて)以下の点を表明した。すなわち、
・電力供給の脱炭素化、および2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する観点から、既存炉の運転期間延長と新規の原子炉建設の割合に関して、様々な調査や社会経済分析、および関係協議等の結果に基づき、2035年以降に原子力が果たす役割についてタイムリーに判断を下す。
・電力市場における競争原理を維持しながら、既存炉の改修や安全性向上、および2023年以降の新規原子炉建設に向けた資金調達など、原子力発電に対する長期的かつ持続可能な財政支援を確実なものにする。
・原子力研究の中でも、エネルギーの移行に関するものを特に強化する。具体的には、小型モジュール炉(SMR)を活用した柔軟性のある電力供給、熱電併給や水素製造への活用、運転の長期化を見据えた材料試験の実施、などである。
IEAのF.ビロル事務局長は、「将来のエネルギーシステムでCO2排出量のゼロ化を確実にするため、フランス政府は近々、重要な判断を下すことになっており、大きな岐路に差し掛かっている」と指摘。地球温暖化の防止対策に集中する一方で、エネルギーの供給保証についても引き続き対策を取っていく必要があり、新たなクリーンエネルギーに関しては必要な時期に市場に出すことを念頭に、技術革新のための研究開発支援を強化しなければならない。このような支援はまた、風力タービンや電気自動車の製造に不可欠なレアメタルの確保対策につながるほか、新しいエネルギーとの相性が良く、異常気象やサイバー攻撃にも耐えうるエネルギー・インフラの構築に向けた投資にもなると指摘している。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)