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英国の超党派議員連盟、原子力で少なくとも1,500万kWの新設が必要と訴える

24 Mar 2022

©APPG

英国原子力産業協会(NIA)の3月17日付けの発表によると、英国議会における超党派議員連盟(APPG)の原子力推進派(原子力APPG)が同日、「英国がエネルギーの供給保証を強化するには、大小様々な規模の原子炉で2035年までに少なくとも1,500万kWの設備が新たに必要」と政府に訴える声明文を発表した。

折しも、英国のB.ジョンソン首相は3月15日付けのThe Daily Telegraph紙で、「今こそ新たに原子力で大きな賭けに出るべきだ」との原稿を寄稿。労働党政権時代の歴史的な過ちを正し、ベースロード用電源として天候に左右されない原子力発電を大幅に拡大、ロシアのプーチン大統領の脅迫に翻弄されることのない盤石なエネルギー供給保証を英国内で確立すべきたと述べていた。

英国政府は近々、ジョンソン首相のこのような方針を盛り込んだ国家エネルギー供給保証戦略を公表する予定である。このため原子力APPGは、同戦略に原子力を含めるという政府の方針を全面的にサポートしていくと表明。英国が天然ガスの輸入依存を断ち切り、国内の原子力再生に向けて必要とする5つのステップは以下の通りだと説明している。

・「原子力発電開発に意欲的であれ」:政府の原子力開発ロードマップに、2035年までに新たに1,500万kW、2050年までに少なくとも3,000万kWの原子力発電設備を開発するとの目標を明記する。これにより、英国が先進的原子炉や大小様々な規模の原子炉を複数建設していく覚悟であることを明確に示す。

・「原子力に投資する権利を獲得する」:4月の復活祭(イースター)までに、環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資対象(英国タクソノミー)に原子力を含め、英国財務省が2021年6月に公表した「グリーン事業に対する資金調達の枠組み」の中で原子力を有資格の事業とする。

・「原子力発電所の新設プロジェクトを加速する」:EDFエナジー社のサイズウェルC原子力発電所建設計画について、1年以内に最終投資判断が下されるよう促すほか、ウェールズ北部のウィルファ地点で大型炉の建設を提案している米ベクテル社とウェスチングハウス社のJVに対し、今日にも開発前段階の財政支援を与える。また、現政権期間中に小型モジュール炉(SMR)を10基発注するほか、その他の様々な規模の原子炉開発プロジェクトを前進させる。

・「開発事業者に建設候補地へのアクセスを許可する」:使われていない原子力サイトの管理者である原子力廃止措置機構(NDA)に権限を与えて、これらのサイトを有望な開発事業者に貸与できるようにする。また、建設の可能性がある用地を保有する民間企業に対しては、原子力発電所開発に使用しなければならないことを明確に示す。

・「開発プロジェクトの実施を支援する」:開発プロジェクトの実施に必要な「開発合意書(DCO)」の取得プロセスを簡素化するほか、基準に沿った形で開発事業者が時間を節約し、複数の計画立案や許認可取得手続きを同時に進められるようにする。関係するすべての規制機関にCO2排出量の実質ゼロ化を義務付けるとともに、「今後の原子力開発を可能にするための基金」に追加の資金を投入、入札の実施基準やプロセスについては詳細を公表する。

今回の声明文について、原子力APPGのI.リデル=グレインジャー議長は、「最も重要視しているのは不安定な輸入燃料からどのようにして英国民の生活を守るかということだ」と表明。同議長によると、政府はCO2排出量の実質ゼロ化に必要な、信頼性の高い国産電力を原子力が提供できることに気付いている。その上で、「我々原子力APPGが今回提示した5つのステップは、英国が緊急に必要としている国家的重要インフラの獲得を可能にする」と強調している。

ジョンソン首相の円卓会議©UK Government

なお、英国のジョンソン首相はその後の3月21日、首相官邸に英国原子力産業界の首脳を招いて円卓会議を開催している。英国の原子力発電開発を加速する方法や、国内のエネルギー供給保証の改善方法について協議したもので、首相からは「クリーンで安全なエネルギー源である原子力が、英国の将来のエネルギー供給システムの中で主要部分を占める」という明確なビジョンを提示。原子力産業界の代表者からは、それぞれが国内外の専門的知見に投資して開発中の大型炉やSMRなど、様々な原子力技術やプロジェクトを紹介している。

(参照資料:NIA英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

 

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