欧米の原子力学会、ロシアのウクライナ侵攻で原子力関係施設に対する攻撃や偽情報を非難
06 Apr 2022
©ENS
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、欧州と米国の両原子力学会(ENSとANS)は4月4日、原子力部門で働く世界中の労働者を代表し、同国の原子力関係施設に対する軍事攻撃や偽情報を非難するとの共同声明を発表した。
両学会はこの軍事侵攻にともない、ウクライナの原子力関係施設が戦闘行為や不安を煽るよう誇張された情報に晒されていることを深く憂慮すると言明。両学会に所属する原子力部門の科学者やエンジニア、専門家らの抗議メッセージとして以下の事項を表明している。
・ウクライナ国民が必要とする電力を安全に発電するため、同国の原子力発電所職員が専門的な能力をもって献身的に働いていることを(我々は)認識している。
・(我々は)ロシア軍が3月3日にザポリージャ原子力発電所を攻撃したことを強く非難する。これは戦争犠牲者の人道的な扱いを求めたジュネーブ諸条約の第1追加議定書56条に違反しており、原子力発電所やダム、堤防などの民生用インフラを攻撃から防護することもこれに含まれる。
・いかなる原子力関係施設に対しても、これ以上の攻撃を停止するよう要求する。ウクライナの原子力関係施設やその職員、および駐留しているIAEA職員の安全を脅かすような軍事行動は、意図的なものであってもなくてもすべて非難する。
・ウクライナの原子力関係施設で安全な運転を継続的に確保するため、IAEAが進めている枠組の設置作業を支援する。このような重要タスクの遂行においては、作業員が不当な圧力を受けないようにすることが大切である。
・「ウクライナが民生用原子力プログラムで核兵器を開発している」、などという根拠に乏しい主張は受け付けないし、この件およびその他の核不拡散問題については、IAEAの関係当局による解決を支援していく。
・IAEAがウクライナの原子力関係施設に設置したモニタリング機器への妨害行為は、いかなるものであっても非難する。
・原子力関係施設の安全状況について流布された偽情報や、危険な放射性物質の流出リスクに関する偽情報は糾弾していく。
両学会によると原子力発電は過去数10年にわたって、危険な汚染物質を排出する化石燃料の使用を抑制してきた。これにより、世界では過去半世紀の間に180万人以上の人々が早世を免れ、大国同士が資源を巡って争うリスクが軽減された。また、この10年間では、「CO2を排出しない原子力は、地球温暖化に対処可能な主要ツール」との認識が世界中で高まっており、原子力発電所の職員は持続可能なエネルギーの開発で自らが担う役割に誇りを持っている。
両学会は、このような原子力発電の安全性を脅かし放射線への社会不安を煽る行為は、この戦争に関わるすべての人々に不利益をもたらすだけと指摘。また、原子力発電所をリスクにさらす無責任な戦法は、平和的で持続可能な開発、および地球温暖化の回避という人類共通の課題への対処方策を減ずることになると強調している。
(参照資料:ENSの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)