ベルギーにエネ供給保証上の懸念 IEAレポート
22 Apr 2022
©IEA
国際エネルギー機関(IEA)は4月20日、加盟国であるベルギーのエネルギー政策を2016年以降、改めて詳細にレビューした報告書を公表した。
IEAは、ベルギーでは化石燃料の輸入量を抑えるため、洋上風力その他のクリーンエネルギー設備を着実に拡大していると指摘。現行政策どおり2025年までに大部分の原子力発電所を廃止した後は、エネルギー供給保証上の懸念とCO2排出量の増加が見込まれるため、クリーンエネルギーへの移行をさらに大規模に進めるべきだと提言している。
報告書によると、前回のエネルギー政策レビュー後、ベルギーは洋上風力発電開発の主要事業者となり、その設備容量は世界第6位に上昇、同国の狭小な領海内で大きな成果を上げている。同国は国際協力にも尽力しており、オランダのフローニンゲン天然ガス田における採掘が停止に向かうなか、天然ガスの供給量を十分に確保するため、オランダやドイツ、フランスなどと協調体制を取っている。
しかしIEAによると、ベルギーは依然として化石燃料に依存。2020年実績で総エネルギー需要の46%を石油、27%を天然ガスで賄うなど、CO2排出量は微減に留まっている。ベルギー政府の「エネルギーと地球温暖化に関する長期戦略」では、パリ協定や欧州連合による設定目標の達成に向けた道筋に従うことになっているが、ベルギーでは国家目標として「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する」ことを明記していない。
こうしたことから、IEA報告書は「長期戦略を改訂し、2050年までに気候中立の達成を目指すと明確に誓約すべきだ」と勧告。F.ビロル事務局長も、「ベルギーはクリーンエネルギーへの移行でリーダーシップを発揮してきたが、今後数年の間に国内のエネルギーシステムをクリーンで確実かつ廉価なエネルギー源にシフトし、CO2排出量の大幅削減に力を入れるという断固たる決意が必要だ」と強調している。
原子力に関しては、ベルギーではチョルノービリ原子力発電所事故後の2003年、緑の党を含む連立政権が「2025年までに脱原子力を達成する」と決定。既存の原子炉7基の運転期間も原則40年に制限されたが、伝統的に総発電量の約5割を賄ってきた原子力に代わる電源が確保できず、ベルギー政府と原子力発電事業者のENGIEエレクトラベル社は2015年11月、運転開始後40年が経過した古い3基を2025年まで10年継続運転することで合意した。その後2020年10月に発足した連立政権は、2021年12月の政権内協議により「2025年までに7基すべてを閉鎖する」ことで、改めて原則的に合意。しかし今年3月には、「7基のうち最も新しい2基(合計約200万kW)については運転期間を10年間延長し、脱原子力の達成時期を10年繰り延べて2035年とする」方針を公表した。
同国のこうした動きについて、IEAは「2025年までに大部分の原子力発電所を閉鎖してしまえば、ベルギーでは天然ガス火力の利用が拡大し、CO2の排出量も増加する可能性がある」と指摘、電力の安定供給上も大きな懸念が生じるとした。ベルギー政府もロシアによるウクライナへの軍事侵攻などを考慮し、200万kW分の原子力発電設備(チアンジュ3号機とドール4号機)で運転期間の10年延長を決定したものの、規制面や技術面のこれまでの経験上、延長準備には少なくとも4~5年が必要。IEAによると、ベルギー政府は2025年の冬までにこれらの準備を整えることはできず、うまくいけば2026年に準備が整うと予想している。
これらを踏まえた上で、IEAはベルギーへの勧告事項として以下を挙げている。
・原子力発電設備200万kW分の運転期間の延長準備を、タイムリーかつ費用効率の高い方法で完了するため、迅速な対応を取る。
・原子炉の廃止措置や放射性廃棄物管理用の基金を必要な時期に利用できるよう、これらの管理や投資に関する政策の改革を確実に実施する。
・高レベル放射性廃棄物(HLW)について、国としての長期的な管理戦略を確定し、処分サイトの特定や予備調査の実施など、節目となる事項の実施計画を立てる。
・原子力関係の残りの活動期間を長期的に見通せるよう、原子力部門の国家計画を策定する。HLWの長期管理や原子炉の廃止措置など重要分野については、国家機関と国際機関の協力を促していく。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)