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米エネ省、多目的試験炉の建設に向け最終EISを発行

18 May 2022

VTRの完成予想図 ©DOE

エネルギー省(DOE)は5月13日、先進的原子炉の原子燃料や資機材、計測機器等の開発で重要な役割を担う「多目的試験炉(VTR)」の建設に向けて、環境影響声明書(EIS)の最終版(FEIS)を発表した。

その中でDOEは、VTRを建設・運転するのに最も好ましいサイトとして、傘下のアイダホ国立研究所(INL)を特定。VTRの支援施設として可能な限りINLの既存設備を活用する方針だが、VTRで使用する燃料の製造サイトについては今のところ判断を下していない。DOEは今後も技術評価を継続し、燃料製造の好ましいサイト・オプションを特定するとしている。

VTRはナトリウム冷却式の高速スペクトル中性子照射試験炉(熱出力30万kW)で、革新的な原子力技術の研究開発および実証を飛躍的に加速すると期待されている。DOEは米国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上でも、VTRは大きく貢献すると指摘。VTRの建設に関する最終決定は今年の後半に下す予定で、建設が決まった場合は議会が予算措置を講じるのを待って、2023年にも最終設計と建設工事を開始、2026年末までにVTRの運転を本格的に始める計画だ。

DOEの発表によると、米国では過去30年近く高速炉タイプの中性子源や高速中性子の照射試験を行える施設が存在せず、そうした能力を有するロシアや中国、インドに遅れをとってきた。DOEの原子力局は高速スペクトル試験炉の必要性を指摘する複数の報告書を受け、2018年に「VTRプログラム」を設置。同年9月に成立した「2017年原子力技術革新法(NEICA2017)」でもVTRの必要性が強調されており、DOEは同法の指示に従って2019年2月にVTRの建設プロジェクトを発表している。

翌2020年9月には、DOEはVTR建設に向けた次のステップとして「重要決定(CD)1」を承認した。研究インフラの設計・建設における意思決定プロセスでは、CD-1で施設の概念設計やコストの見積が認められており、環境影響調査の実施もこの中に含まれている。その後のCD-2で詳細設計、CD-3で建設開始、CD-4でVTRは運転開始に至る見通しである。

EISは国家環境政策法(NEPA)に準じて作成されるもので、DOEはVTRの建設と運転、および燃料の製造が周辺のコミュニティや環境に及ぼす潜在的な影響を分析した。可能性がある3つの選択肢は、①「VTRと燃料製造施設をアイダホ州のINLに設置」、②「VTRのみをテネシー州のオークリッジ国立研究所(ORNL)に設置」、および③「燃料製造施設のみをサウスカロライナ州のサバンナリバー・サイト(SRS)に設置」。これらについて、VTRで行われる試料の照射後試験や、中間貯蔵と最終処分の実施に先立つ使用済燃料の調整と貯蔵、VTR燃料の原料調達と燃料ピンの製造および燃料集合体の組立、などの項目で影響評価を行った。

DOEは2020年12月にEISの案文を公表しており、その後は案文に対するコメントを募集。インターネットを通じて公開ヒアリングを2回実施したほか、州政府や連邦政府の機関、および先住民を含む一般国民からも意見を聴取し、最終版を作成したとしている。

(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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