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ベルギー政府、原子力研究センターの次世代SMR研究に1億ユーロ充当

26 May 2022

SCK CENの記念式典で演説するデクロー首相
©SCK CEN

ベルギーのA.デクロー首相は5月24日、次世代の小型モジュール炉(SMR)研究を実施する予算として、連邦政府が同国北部のモルにある原子力研究センター(SCK CEN)に1億ユーロ(約136億円)を拠出すると改めて表明した。

これは、SCK CENの創立70周年を祝う記念式典の場で述べられたもの。同首相は今年3月、「地政学的に不穏な状況が続くなか、(国内で稼働する商業炉7基のうち)最も新しい2基の運転期間を2035年まで10年延長する」と発表した。2025年に設定していた脱原子力の達成時期を実質的に延期する考えを示しており、これと同時に、連邦政府が年間2,500万ユーロ(約34億円)をSCK CENに今後4年間拠出し、冷却材として水ではなく鉛やナトリウムなどの液体金属を使う第4世代のSMR研究を実施すると表明した。 

記念式典で同首相は、SMRの長所について「小型でしかもモジュール式である上、これまで以上に安全であり、発生する廃棄物の量も少ない」と指摘。SCK CENはこれまで、保有する原子力関係の専門的知見を、主にガン研究などの核医学開発や原子力施設における安全性確保、電離放射線から国民や環境を防護すること等に活用してきたが、連邦政府としてはこの知見を次世代のSMR研究にも生かすことを期待している。

同首相はまた、連邦政府の予算でSCK CENがこの分野の研究を開始すれば、ベルギーは将来技術の開発でリーダー的存在となり、化石燃料からの脱却も促進されるとした。また、2050年までにベルギーがCO2排出量の実質ゼロ化を達成する一助にもなると強調しており、「ベルギーでは今後のエネルギー供給ミックスで、一層多くの太陽光や風力の発電設備、水素エネルギーを活用していくが、持続可能な次世代の原子力にも将来的な役割がある」と指摘。SCK CENへの投資を通じて、ベルギーは原子力の知見からも恩恵を被ることができるとしている。

首相のこの発表について、SCK CENは「賽は投げられた。これで当センターは当初の使命を再開することになる」と表明。同センターが発足した1952年当時、その使命は学術的な工学的試験・応用研究支援であったが、現在は産業分野の発電技術等の実証や未来技術の開発にも広がっている。SCK CENではまた、同国初の研究炉となった「BR1」や、照射用研究炉の「BR2」、PWRプロトタイプの「BR3」を運転した実績があり、現在は「BR2」の代替炉として鉛ビスマス冷却の高速中性子多目的研究炉「MYRRHA」を開発中である。

SCK CENは今回、「ベルギーが仮に鉛冷却SMRの開発を選択した場合、熱出力5~10万kWの加速器駆動未臨界炉でもある『MYRRHA』の開発過程がこれに生かされる」と指摘。「MYRRHA」はSMRではないものの、冷却材が同じで設計がコンパクトである点など、いくつかの原理を共有しているため、「MYRRHA」開発でこれまでに得られた教訓を、革新的SMR技術の開発に転用できるとした。

SCK CENのE.バンワーレ事務局長は、「革新的なSMRは発電が主目的だが、高速中性子を使用する『MYRRHA』では毒性の高い放射性廃棄物を無害で短寿命の廃棄物に転換できることを実証する予定であり、将来的に廃棄物を地層処分する際もこの能力を役立てたい」と述べた。SCK CENの次長も、「ベルギーで最初のSMRを建設するまでには膨大な研究作業が必要だが、これを成功に導けるよう学術界と産業界の両方で、内外との協力を進めていきたい」としている。

(参照資料:SCK CENベルギー首相府(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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