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米エネ省、4つの国立研究所で脱炭素化の試験プログラム開始

27 May 2022

©INL

米エネルギー省(DOE)は5月25日、国内で脱炭素化が難しい産業に対して、CO2排出量の実質ゼロ化に向けた最初の取り組みモデルを示すため、ゼロ化対策の基盤構築を目的とした「国立研究所を脱炭素化する試験的プログラム(The Net Zero Labs Pilot Initiative)」を傘下の4つの国立研究所で開始すると発表した。

J.バイデン大統領が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指していることから、DOEはその支援のため、まず国内17の国立研究所の中からアイダホ国立研究所(INL)など、地理的、気候的に異なる地域でそれぞれに特有のエネルギー問題を抱える4つを選定。3,800万ドルの予算で、クリーンエネルギー・インフラの開発をこれらの国立研究所で促進するほか、CO2排出量の削減が可能な技術の開発や活用対策を4つの国立研究所で積極的に講じていく。

これに倣って、産業界のみならずDOEのその他の施設や連邦政府、州政府、地方自治体でも、同様の対策を実施できるような基盤を固めたいとしており、DOEは次年度で、17のすべての国立研究所が競争ベースでこのプログラムの追加予算を獲得可能にする方針である。

DOEの説明によると、傘下の国立研究所は連邦政府施設のなかでも最も複合的にエネルギーを活用しており、その他の標準的な施設と比べて、供給停止からの回復力(レジリエンス)といった要求事項がはるかに多い。それぞれの国立研究所が、産業規模の重機器やデータセンター、原子炉など、大容量で持続的な動力源を必要とする特殊なインフラ設備を備えているため、DOEは今回のプログラムを通じて、このような重要設備がクリーンエネルギーで動くことを実証する考えだ。

INLのほかに今回選定された研究所は、ペンシルベニア州とウエスト・バージニア州およびオレゴン州に3つの分所を持つ「国立エネルギー技術研究所(NETL)」、コロラド州の「国立再生可能エネルギー研究所(NREL)」、そしてワシントン州の「国立パシフィックノースウエスト研究所(PNNL)」である。

INLでは、米国が脱炭素化目標を達成するため先進的な原子力技術を研究しており、「この目標達成には、技術革新を進めるこれら4つの研究所が連携して取り組むことが重要だ」と指摘した。これに向けて、INLは先進的原子炉技術やその他の技術開発で、数10年にわたって積み重ねてきた研究や経験を活用すると表明。革新的原子力技術の開発・実証・実用化というミッションを担う国立の原子力研究所として、INLはこのプログラムでCO2排出量を実質ゼロ化するための包括的なアプローチを取っていく。

原子力に関してINLは、24時間年中無休で無炭素なエネルギーを生み出せる確認済みの技術と評価しており、これによって化石燃料への依存度を大幅に下げるとともにCO2の排出量も削減できると強調。そのために、マイクロ原子炉や小型モジュール炉(SMR)など先進的原子炉技術の活用を進めており、これらを太陽光や風力などの再生可能エネルギー源と統合した場合は、小規模発電網が有効であることも実証するとしている。

今回のプログラムについて、DOEのJ.グランホルム長官は、「CO2排出量の実質ゼロ化に移行していくには、海運業や製造業、建設業に至るまで、あらゆる産業界でCO2を大幅に削減しなければならないが、これは当省の国立研究所の運営についても言えることだ」と表明。連邦政府の施設の中でも、最も多量にエネルギーを消費し脱炭素化が難しい施設によって、DOEはCO2排出量の削減取り組みについて、その他の施設に模範例を示す。また、地球温暖化の破壊的な影響を緩和しつつエネルギーコストを削減、クリーンエネルギー業界で増加する労働者も支援していきたいとしている。

(参照資料:DOEINLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

 

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