IAEA、ブラジル・アングラ1号機の運転期間延長でSALTO調査実施
14 Jun 2022
アングラ原子力発電所 ©Eletronuclear S.A.
国際原子力機関(IAEA)は6月10日、ブラジルのアングラ原子力発電所(PWR×2基)で1985年から稼働している同国最古の1号機(PWR、64万kW)について、運転期間をこれまで設定されていた40年から60年に延長した場合の安全審査を完了したと発表した。
IAEAは加盟国における原子力発電所の長期運転(LTO)を支援するため、LTOに係る組織や体制、設備・機器の経年変化(劣化)管理などの活動がIAEAの最新の安全基準を満足しているか評価し、事業者にさらなる改善に向けた推奨・提案事項を提供するためのプログラム「SALTO」(Safety Aspects of Long Term Operation)を2005年から実施している。
IAEAのSALTO担当チームは今回、2018年にアングラ1号機で実施した「事前SALTO調査」の勧告事項が実行に移されているかについて、事業者の要請を受けて今月7日から10日までフォローアップ調査を行った。チーム・リーダーのM.マルチェナ原子力安全管理官は、「LTO期間中の1号機の安全確保に向けて、準備作業がタイムリーに進められている」と評価。同炉では特に経年変化管理が大幅に改善されたとしており、残りの事項についてもさらなる改善活動に取り組むよう促した。
ブラジルでは、2020年12月に鉱山エネルギー省(MME)が「2050年までの国家エネルギー計画(PNE 2050)」を決定しており、その中で新たな原子力発電設備として1,000万kW分を建設することを想定。既存の商業炉については、諸外国における実績等から運転期間を20年延長した場合、コスト面等で競争力が高くなると指摘している。
ブラジル唯一の原子力発電所であるアングラ発電所は、電力大手エレトロブラス社(旧電力公社)傘下のエレトロニュークリア社が運転しており、建設工事が2015年に中断した同3号機については、完成に向けて入札等の手続きを実施中。エレトロニュークリア社はまた、新規原子力発電所の立地点を選定するために、MMEが今年1月に電力研究機関と協力協定を締結したことを明らかにしている。
アングラ1号機については、同社は2045年まで運転継続することを計画中。このため、IAEAのSALTOチームは今回の安全審査で良好だった点として「LTO実施に向けて規則に則った方針が策定され、関係組織の改革なども行われている」と指摘した。また、「期間を限定した経年変化現象の分析作業(TLAAs)」も完了し、機器素材の疲労計算や経年腐食か所の特定や再確認などが行われていた。同炉ではさらに、多数の機器について経年変化管理プログラムが策定されており、SALTOチームはこれらがすでに開始されている点などを評価した。
一方、さらなる改善が必要な部分として、SALTOチームは厳しい条件下における電気機器の耐久性を確認するため包括的プログラムを本格的に実施すること、LTOに対応する長期的な人員配置計画の策定と実施を求めている。
このような結果を取りまとめた暫定報告書は、調査の完了時点でSALTOチームがエレトロニュークリア社とブラジルの規制当局に提示済み。正式な最終報告書については、これらにブラジル政府を加えた3者に対して、SALTOチームが3か月以内に提出することになっている。エレトロニュークリア社側では、改善項目に意欲的に取り組むことと、同炉に2023年に再び本格的なSALTOチームを招聘することを決定している。
(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)