英国の原子炉開発新興企業、MOX燃料製造工場の建設に向け資金調達
22 Jun 2022
©Newcleo
クリーンで安全な第4世代の先進的原子炉を開発するため、2021年9月に英国で設立された新興企業のニュークレオ(Newcleo)社は6月20日、今年3月の初回の株主総会を契機に開始した資金調達で、2か月間で3億ユーロ(約429億円)の調達に成功したと発表した。
この資金を活用して、同社は今後5年から7年の間に、英仏の両国で鉛冷却高速炉(LFR)の電熱加熱式プロトタイプ装置(出力3万kW)を建設するほか、LFRで使用するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の製造工場についても建設を進める方針。このため、グローバルな原子力産業企業である仏オラノ社には、同工場建設の実行可能性調査を依頼中であり、今年の後半にもLFRプロトタイプとMOX燃料製造工場の建設サイトの確保に向けて、優先業務を進めていきたいとしている。
ニュークレオ社は最終的に、モジュール式で受動的安全系を備えた小型の可搬式LFR(出力20万kW)の開発を検討しており、今年3月にはイタリア経済開発省の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)と協力する枠組協定を締結した。ENEAは液体鉛の分野で世界レベルのノウハウを蓄積しており、欧州原子力共同体(ユーラトム)が進めているLFR開発プロジェクトでは、イタリアのアンサルド社とともに主導的役割を担っている。
ニュークレオ社はまた、LFRの製造販売に向けた国際拠点として、子会社の「ニュークレオSA社」をフランスで設立した。同国では今年2月、CO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するため、E.マクロン政権が既存の商業炉の運転期間延長と新たな原子炉の建設を含むエネルギー政策を公表したことから、同社にとって戦略的に重要な市場になると考えている。
フランスではすでに高速炉でのMOX燃料使用が認められているため、同社はLFRでこの燃料を使えばコスト面の競争力が上がるだけでなく、本格的に持続可能な原子力アプローチになると考えている。具体的には、長寿命の放射性廃棄物を処分する環境面や財政面の負担を減らせるほか、核拡散上のリスクも軽減、新たな原子燃料の入手でウランを採掘する必要性も完全になくなるとした。
これらのことから、ニュークレオ社は産業規模のMOX燃料製造工場を建設して、LFRプロトタイプの将来的な運転に必要な燃料を確保、その後に英仏の両国で建設する複数のLFRにも活用すると述べた。重要な点は、同社のLFRが英仏両国の原子力増強戦略に合致するとともに、これらを補完する手段にもなることだと強調。ニュークレオ社は、すでに排出された廃棄物と新たに発生する廃棄物を持続的に管理する安全かつ効率的な方法としてMOX燃料を製造し、最終処分しなければならない廃棄物の量を大幅に削減していく考えだ。
ニュークレオ社のS.ブオノ会長兼CEOは、「(ロシアによるウクライナへの軍事侵攻など)近年の地政学的展開は、世界レベルのエネルギー供給保証や脱炭素化に必要な措置として、原子力がますます重要になることを明確に示している」と指摘。「当社はクリーンで持続可能なエネルギーの必要性という差し迫った課題に迅速に対応中で、市場の状況から見て今こそ、原子力の枠組みを新たな技術に変化させる時期だと考えている。この新しい原子力技術なら、コストと安全性、放射性廃棄物という産業界の大きな懸念事項にも、効率的に取り組むことが可能になる」と強調した。
(参照資料:ニュークレオ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)