EC、チェコのドコバニ増設計画について国家補助規則との適合性を調査
05 Jul 2022
ドコバニ原子力発電所 ©CEZ
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は6月30日、チェコのドコバニ原子力発電所・増設計画に対し、チェコ政府が予定している補助金等の支援がEU域内の競争法であるEU機能条約(TFEU)の国家補助規則に適合しているか、詳細な調査を開始すると発表した。
ドコバニ原子力発電所(各PWR、51.0万kW×4基)は、国内のもう一つの原子力発電設備であるテメリン発電所(各PWR、108.2万kW×2基)と同様、国営電力のCEZグループが運転している。1980年代に運転を開始したドコバニ発電所の4基は徐々に閉鎖時期を迎えるため、同グループはⅡ期工事として出力の大きい5、6号機(各最大120万kW)の増設を計画中。2015年には、建設プロジェクトの準備と実施を担当する子会社として「ドコバニⅡ原子力発電会社(EDUⅡ)」を設立した。
テメリン発電所でも一時期、3、4号機の増設計画が進められていたが、チェコ政府が「完成した原子炉からの発電電力を固定価格で買い取る保証はしない」と明言したため、計画は2014年に頓挫した。ドコバニ発電所の増設計画に関しては、同国のA.バビシュ首相が2020年5月、「総工費の7割までを政府が低金利で融資する」と表明。2021年9月には、完成した原子炉の発電電力を政府が保証価格で買い取るメカニズムを盛り込んだ「低炭素エネルギーへの移行法」が成立している。
ECの今回の発表によると、チェコ政府がドコバニ5号機の増設と運転の支援方針を伝えてきたのは今年3月のこと。運転開始は2036年に予定しており、同炉でチェコおよび近隣諸国の電力供給を強化するとともに、国内エネルギー部門の脱炭素化を促進、エネルギー・ミックスの多様化を図るとしていた。
具体的な支援として、チェコ政府は以下の3つの方法を提示した。
①約75億ユーロ(約1兆673億円)の総工費を100%カバーする低金利の国家融資を提供する、
②ドコバニ5号機が稼働する60年の間、国有の企業がEDUⅡ社から発電電力を買取る契約を結ぶ、
③法制の変更など不測の事態で増設計画が頓挫した場合に備え、同プロジェクトに多額の投資を予定しているCEZグループ、およびチェコ政府を守るためのメカニズムを設置する。
現段階でECは予備的に実施した評価の結果として、「建設プロジェクトは必要なものであり、政府の支援方法は経済活動を発展させると思われる」と指摘した。しかし、これらの方法がEUの国家補助規則に厳格に適合しているかは疑わしいため、以下の点について詳細な調査を行うとしている。
- 3つの支援方法の妥当性とその配分比率。これらの方法はすべて、EDUⅡ社が被るかもしれないリスクの軽減を目的としているが、全体として必要以上の支援にならないようにすることは重要である。発電電力の売買契約は特に、ほかの2つの方法が十分考慮された場合に60年という適用期間が正当化される。
- 市場の競争原理に対する影響、およびこの影響を最小限に抑えられるかという点。ECは特に、CEZグループ以外にも建設プロジェクトのプロモーターになり得る企業があったのではないかという点、また、発電電力を買い取り転売する国有企業の設置という判断が市場にもたらす影響にも疑念を抱いている。
なお、ドコバニ発電所の増設計画に対しては、2021年3月に原子力安全庁(SUJB)が2基分の立地許可を発給。今年3月には、EDUⅡ社が最初の一基となる5号機のサプライヤーについて競争入札を開始した。同計画を所轄する産業貿易省が入札の実施と、同計画への参加に関心を表明していた米ウェスチングハウス(WH)社とフランス電力(EDF)、および韓国水力・原子力会社(KHNP)の入札招聘を正式に承認したもの。これらのほかに、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社と中国広核集団有限公司(CGN)も参加を希望していたが、産業貿易省は資格審査の実施に先立ち、これら2社を除外する判断を下している。
(参照資料:ECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)