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独政府と事業者、来年春までの原子炉2基の運転継続に向け基本合意

30 Sep 2022

E.ON社のイザール原子力発電所 ©E.ON

ドイツの経済・気候保護省(BMWK)と環境・自然保護・原子力安全省(BMUV)は9月27日、年末までの閉鎖が予定されていた原子炉2基を最長で2023年4月15日まで運転可能とする方針について、運転事業者と基本的合意に達した。

事業者とは、ドイツ南部でイザール原子力発電所2号機(PWR、148.5万kW)を運転するプロイセンエレクトラ社の親会社のE.ON社と、ネッカー原子力発電所2号機(PWR、140万kW)を運転するEnBW社である。BMWKが今月初頭、これら2社に対し2基の暫定的な温存を提案して以降、広範な協議が重ねられていた。

2011年の福島第一原子力発電所事故発生を受けて、ドイツでは2022年までに原子力発電所を全廃すると決定。当時稼働していた原子炉17基の閉鎖を順次開始しており、現時点で残っていた今回の2基と、北部にあるエムスラント原子力発電所(PWR、140.6万kW)を年末までに永久閉鎖し、脱原子力を達成することになっていた。

しかし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻にともない天然ガスの供給量確保で危機に直面しているほか、様々な不確定要因により今年の冬季はエネルギーの供給リスクが増大。BMWKはこの冬季をカバーする送電網のストレステストを春と夏に2回実施した結果、「送電システムが危機的状況に陥る可能性は非常に低いが、完全に排除することはできない」と指摘しており、南部に立地する今回の2基を、非常用の予備電源として4月半ばまで温存することを事業者に提案していた。北部のエムスラント発電所については、その他の電源で補填が可能なことから、予定通り年末に永久閉鎖することが決まっている。

今回の基本合意について、E.ON社は「実行可能な解決策を見つけるために、BMWKとは緊密な調整を幅広く実施した」と説明。同社としてはイザール2号機の年末以降の解体に向けて、過去数年かけて準備を進めていたが、BMWKから補償計画が提示されたのを受けて暫定的な運転期間の延長に取り組んだ。

E.ON社の計画では、加圧器バルブの分解修理のため同炉を短期的に一旦停止するが、再稼働後は現行炉心のまま同炉を少なくとも来年3月まで運転可能にする。一方、連邦政府は遅くとも12月初旬までに、2基の暫定的温存の必要性を判断する。運転を継続する場合、運転会社のプロイセンエレクトラ社は2023年に同炉が発電する約20億kWhで市場価格による利益を得るが、運転期間の延長にともなう追加コストによって、この利益が相殺されないよう規制する必要がある。反対に、同炉を温存する必要がなくなった場合は、この追加コストはすべて連邦政府が支払うことになる。

もう一方のEnBW社は、ネッカー2号機を運転継続する可能性について、BMWKから重要事項の伝達を受けており、両者は今回それらについて合意したもの。すなわち、

  • 今年の12月末以降、最長で2023年4月15日まで同炉の運転継続を念頭に、EnBW社は準備作業を開始する。
  • 連邦政府は遅くとも12月初頭までに、ネッカー2号機の発電量についてドイツのエネルギー供給保証上の必要性を判断するが、2023年の1月初頭にも連邦政府は改めてこの必要性をチェックする。
  • ネッカー2号機の発電量が必要と確認された場合、再稼働により確実に最大17億kWhを発電できるようにする。
  • ネッカー2号機を温存する必要がなくなった場合、また運転継続のためのコストがこれにともなう利益を上回った場合は、連邦政府が損失分を補填する。

EnBW社の認識では、法的に正当な条件の下でネッカー2号機が運転継続するには、これに対応する契約の締結根拠としてBMWKが直ちに法的措置を取る必要がある。同社の担当幹部は連邦政府の要請について、「年末までの閉鎖に向けて進めてきた準備をすべて、安全運転の継続に転換しなければならないなど、その実行は当社にとって非常に厳しいものだ」と指摘。それでも、同社はエネルギー企業としてドイツのエネルギー供給保証に全力を尽くす覚悟であり、BMWKとの今回の合意は経済的リスクや得られる利益の点から見ても正当との見方を示している。

(参照資料:独政府(独語のビデオ)E.ON社EnBW社(独語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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