WEO2022 エネルギー危機対応で原子力倍増を予測
28 Oct 2022
©IEA
国際エネルギー機関(IEA)は10月27日、年次報告書の「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)2022年版」を公表した。世界のエネルギー・ミックスに関する長期的見通しを3通りのシナリオで予測している。
すべてのシナリオにおいて、世界で化石燃料の需要量が2020年代半ば以降に初めて頭打ちとなるほか、2050年まで年平均で2EJ(エクサジュール=10の18乗)ずつ減少するシナリオもあるとした。また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻にともない、世界中でエネルギー・セキュリティが再構成され、同国が輸出する化石燃料は大幅に減少していくと指摘した。さらに、CO2排出量の実質ゼロ化に向け、原子力発電に投資する国の数が上昇。シナリオの一つでは、2050年までに原子力発電の容量が倍以上に増加するとの見通しが示されている。
WEOは、IEAが発行する最も重要な刊行物の1つ。今回のWEO2022の中でIEAは、ロシアのウクライナ侵攻を発端とする世界的なエネルギー危機が歴史的ターニングポイントとなって、持続可能で確実なエネルギー供給システムへの移行を加速する可能性を指摘。また、エネルギー危機の影響はかつてない規模の広がりと複雑さを呈しており、天然ガスと石炭、および電力の市場では過去最大の混乱が生じているとした。地政学的および経済的混乱が一向に収まらないなかで、エネルギー市場は極端に脆弱な状態にあり、近年の世界のエネルギー供給システムがいかに脆く、持続可能でないかを物語っていると指摘した。
このような分析結果から、IEAは「地球温暖化対策やCO2排出量のゼロ化政策がエネルギー価格を高騰させている」という一部の人々の主張を否定。エネルギー危機の悪影響から消費者を守るための短期的対策に加えて、多くの加盟国の政府が長期的対策を取り始めており、いくつかの国では石油や天然ガスの輸入先を多様化していると述べた。
最も注目すべき対応策としては、米国で原子力に対する税制優遇措置等の気候変動対策を盛り込んだインフレ抑制法が成立したことや、欧州で2030年の温室効果ガスを1990年比で少なくとも55%削減するための政策パッケージが採択されたことなどを挙げている。また、日本では政府が脱炭素社会の実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)プログラムを進めようとしており、韓国でも再生可能エネルギーと原子力発電シェアの拡大を目指していること、インドや中国でもクリーンエネルギーに移行する意欲的な目標が掲げられている点を指摘した。
発電部門の主要電源は再エネに
発電部門における世界の化石燃料による発電シェアは、太陽光や風力による発電量が過去10年間に急速に増加したことを反映し、2018年の約65%が2021年には62%に減少した。市場の状況も近年この変化を促しており、石油と天然ガスの世界価格は2020年代後半、新型コロナウィルス感染による制限の緩和を受けて高騰し始めた。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始を受けてこの傾向は大きく悪化し、いくつかの国で石炭火力の一時的な復活が見られたものの、CO2排出量の実質ゼロ化に向けた動きが急速に進展した国もあった。これは、再エネや原子力、二酸化炭素の回収、水素やアンモニアの利用などを組み合わせた対策への支援拡大によるものである。
2021年11月の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)以降、CO2の実質ゼロ化を目標に掲げる国が増えており、再エネは今後世界中で長期にわたり主要な電源になるとIEAは予測している。各国政府が実際に実施中、あるいは発表した政策のみを考慮した「現状政策シナリオ(STEPS)」では、再エネは2030年までに総発電量の43%、2050年までには65%にシェアを拡大する見通し。各国政府の誓約目標が期限内に完全に達成されることを想定した「発表誓約シナリオ(APS)」では、再エネに移行するペースはさらに加速し、2030年時点の成長率はSTEPSシナリオより35%上昇するとIEAは見ている。
原子力の拡大シナリオ
原子力が今後も発電部門で一定の役割を担えるかについては、IEAは既存の原子炉で運転期間延長の判断が下される、あるいは新規の建設計画が成功するかにかかっていると指摘。STEPSシナリオで、原子力は約10%の発電シェアを維持するとIEAは予測したが、これには2022年から2030年までに新たに1億2,000万kWの原子力発電所の完成に加えて、2030年から2050年の期間に30か国以上でさらに3億kWの設備増設が必要である。
また、APSシナリオでは、この期間中に年間約1,800万kWの原子力発電所が新たに追加されていくが、高いレベルの電力需要を想定したこのシナリオの中で、IEAは原子力発電シェアが10%近くにとどまるとしている。
2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという「持続可能な発展シナリオ(NZE)」においては、2020年代に先進諸国の多くの既存炉で運転期間の延長が行われ、世界のCO2排出量を大幅に抑制。2022年から2050年までに年平均2,400万kWの新規原子力発電所が追加されるため、2050年までに世界の原子力発電設備容量は2倍以上に拡大する見通しである。しかしながら、このシナリオで想定した電力需要の伸び率が非常に大きいことから、2050年時点の原子力発電シェアは8%に落ち込むとIEAは予想している。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)