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英政府 原子力を活用した水素製造に資金援助

17 Nov 2022

ヘイシャム原子力発電所 ©EDF Energy

英国のEDFエナジー社は11月16日、同社のヘイシャム原子力発電所[1]ヘイシャムA発電所はAGR×2基、各62.5万kW、B発電所はAGR×2基、各68万kWが生みだすエネルギーで低炭素な水素を製造し、その水素でアスファルト・セメント製造業界の脱炭素化を図るというEDF(フランス電力)主導の取り組みに、英国政府から約40万ポンド(約6,600万円)が提供されることになったと発表した。

この資金は、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が地球温暖化防止の目的で2021年3月に設置した総額10億ポンド(約1,660億円)の基金「CO2排出量を実質ゼロ化する革新的技術のポートフォリオ(Net Zero Innovation Portfolio)」を原資とする、総額2,600万ポンド(約43億円)の「産業用水素(製造)の加速プログラム(Industrial Hydrogen Accelerator Program)」から拠出される。

支援を受けるEDFの企業連合には、同社の研究開発部門と産業・輸送用の低炭素な水素を供給する目的で同社が設立したイナミクス(Hynamics)社のほか、英国立原子力研究所(NNL)、アスファルトやセメント等の建築材料を供給するハンソン(Hanson)UK社、次世代型燃料電池を開発しているCERESパワー社が参加している。

EDFのこの取り組みは「港湾水素製造ハブ – Hydrogen4Hansonプロジェクト」と呼ばれており、CO2を多量に排出するアスファルト・セメント製造業界の脱炭素化に向けて、2023年から2025年までの間に実用規模の技術実証を行うことを目標に最初の実行可能性調査を行う。具体的には、水素の電気分解装置(固体酸化物電解セル:SOEC)をランカシャー州に立地するヘイシャム原子力発電所の電力や熱と統合し、低炭素で低コストな水素を製造。この水素は、同発電所の近隣に点在するハンソンUK社のアスファルトやセメントの製造サイトで燃料として活用されるが、最終的には英国全土の同様サイトに提供されるため、次世代型の専用タンカーを使ったこれら水素の海上輸送の在り方についても調査することになる。

EDFエナジー社によると、SOEC技術により水素の製造効率は従来の電気分解と比べて20%改善される見通し。現時点では世界でこれらの技術を実際に実証した例はなく、アスファルト製造の燃料として水素が使われたこともない。同社はこの方法でCO2排出量が大幅に減る可能性を指摘しており、英国がCO2排出量を実質ゼロ化し、アスファルト・セメント製造業で引き続き優位に立つ上で有効だとしている。

EDFが英国に置いた研究開発部門の幹部は今回の政府支援について、「国内産業の脱炭素化は英国政府が直面している最大課題の一つであり、原子力発電所で製造した水素をアスファルト産業の脱炭素化に活用することは論理的に見て当然のことだ」と指摘。「これらの技術により、英国では原子力発電による明るい未来が構築され、関係雇用の維持にもつながる」と述べた。

また、別の幹部は「クリーンエネルギー社会への移行にともなう原子力の有効性を実証することはEDFにとって重要な役割」と表明。支援金で実施される実行可能性調査では、将来的に建設される原子力発電所の電力や熱が、一層効率的な水素の製造にどのように活用されるかに重点が置かれると指摘した。

(参照資料:EDFエナジー社NNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

脚注

脚注
1 ヘイシャムA発電所はAGR×2基、各62.5万kW、B発電所はAGR×2基、各68万kW

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