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英政府 劣化ウランを活用した水素貯蔵法の実証に支援金

29 Nov 2022

©URENCO

英国政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は11月28日、「長期エネルギー貯蔵技術(LODES)」の実証コンペの第2段階として、EDF UK(フランス電力の英国子会社)の企業連合が開発している「劣化ウランで水素を貯蔵する(HyDUS)技術」の実証プロジェクトに773万ポンド(約12億9,000万円)の支援金を交付すると発表した。

この資金は、BEISが地球温暖化防止の目的で2021年3月に設置した総額10億ポンド(約1,660億円)の基金「CO2排出量を実質ゼロ化する革新的技術のポートフォリオ(Net Zero Innovation  Portfolio)」が原資となる。BEISは今回、EDF UKの企業連合によるプロジェクトも含めて、合計5件の新たなエネルギー貯蔵技術のプロジェクトに合計3,290万ポンド(約54億7,000万円)を提供して、間欠性のある再生可能エネルギーの設備拡大を図り、安価なクリーンエネルギーを確保。再エネの持つ潜在的な能力がフル活用することで、英国のエネルギー供給保証も一層強化されると指摘している。

EDF UKの企業連合には核融合技術の開発を牽引する英国原子力公社(UKAEA)のほか、ブリストル大学と欧州のウラン濃縮企業であるウレンコ社が参加。オックスフォード近郊にあるUKAEAのカラム科学センター内で、劣化ウランを使った水素貯蔵の実証モジュールを24か月以内に開発する計画である。EDFエナジー社は、いずれはこの技術を原子力発電所に設置して原子力の収益性を高めるとともに、輸送業や製鋼業などに広く役立てたいとしている。

HyDUSではまず、余剰の無炭素電力による電気分解で水素を製造し、水素を吸蔵する劣化ウランの特性を利用してこれを貯蔵、水素が必要となった折りにそのまま使用するほか、電力需要のピーク時には再び電力に転換して使用する。貯蔵時の水素は金属水素化物の形で劣化ウランと化学的に結合しているため、安定している一方で逆の転換も可能である。

HyDUS技術を考案した技術者の一人であるT.スコット教授は「UKAEAでは過去数十年にわたって水素同位体の貯蔵技術を小規模で活用しており、HyDUSはこのように確認済みの核融合燃料技術をエネルギーの貯蔵用に転換する世界でも最初の例になる」と述べた。ウレンコ社の担当者は、「当社が貯蔵している劣化ウランの商業利用により、水素経済の構築に向けた持続可能で低炭素なエネルギー貯蔵が可能になるのは誇らしいことだ」と表明している。

実証コンペは、2021年3月にBEISが産業界に「関心表明」を呼びかけており、2つのコンペ・グループが長期のエネルギー貯蔵を可能にするために実施する実証プロジェクトに対し、総額約6,800万ポンド(約113億円)を提供する。1つ目のグループ(Stream 1)は、技術成熟度レベルが全9段階のうち6/7段階(技術成立性が確認できる)にあり、予算総額は約3,700万ポンド(約61億5,000万円)である。

もう片方のグループ(Stream 2)は技術成熟度が4/5段階(ラボ・レベルあるいは実空間での実証レベル)で、EDF UKのプロジェクトもこれに含まれる。「Stream 2」では、第1段階のプロジェクト19件に約270万ポンド(約4億4,900万円)が提供されており、EDF UKの企業連合はそのうち約15万ポンド(約2,500万円)を受け取っている。

(参照資料:英国政府EDFエナジー社ウレンコ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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