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EU裁判所 ハンガリーの増設計画をめぐるオーストリアの異議を棄却

08 Dec 2022

パクシュⅡ期工事の完成予想図 ©Rosatom

欧州連合の司法裁判所(CJEU)は11月30日、欧州委員会(EC)の判断の取り消しを求めたオーストリア政府の異議を、ルクセンブルクにあるCJEUの第一審裁判所が却下したと発表した。ECは数年前、ハンガリーのパクシュ原子力発電所Ⅱ期工事に対する同国政府の国家補助を承認する判断を下していた。

パクシュ発電所(ロシア型PWR×4基、各50.6万kW)はハンガリーの総電力需要の約50%を賄っており、同国政府は経年化が進んだこれらを少しずつリプレースしていくため、2014年1月にロシアの技術でⅡ期工事の5、6号機(各120万kW級)を建設すると発表。その翌月、ロシアからの長期の低金利融資で、総工費の約8割に当たる約100億ユーロ(約1兆4,400億円)を調達することで両国が合意したことを明らかにしており、同年12月には、ロシア国営のエンジニアリング企業であるNIAEP社とEPC(設計・調達・建設)契約を含む3つの関連契約を締結した。

ECは、ロシアのこの融資を原資とするハンガリー政府の資金調達がEU競争法の国家補助規則に準拠しているかにつき、2015年11月から詳細な審査を実施した。その結果として、2017年3月には、同プロジェクトには国家資金による財政支援が含まれるものの、特定の経済活動の促進を目的とした投資補助であり、EU域内市場における共通利益を一定以上損なうような取引上の悪影響がない限り、同市場に適合すると表明。ハンガリー政府も、市場における競争原理の歪みの制限対策を実施すると誓約したことから、ECは同プロジェクトへの補助を承認していた。

これに対して、ハンガリーの隣国であるオーストリアは2018年2月、入札を行わずにNIAEP社に発注されたこのプロジェクトは公的調達関係のEU指令に抵触しており、それにも拘わらず、ECがハンガリー政府の補助は域内市場に適合するとしたことは違法であると提訴。ロシア企業との直接契約はこの補助と緊密に結びついており、ECは公的調達に関するEU指令に基づいて国家補助の問題を検証すべきと訴えていた。

CJEUの第一審裁判所は今回、ロシア企業との契約がハンガリー政府の補助政策に先んじて結ばれたことから、国家補助の目的と緊密に結びついてはいないと指摘。公的調達に関するEU指令にも抵触していないため、オーストリアの主張とは異なりECの判断は正当化されるとした。

同裁判所はまた、ハンガリー政府の補助が域内市場の競争原理を歪め、自由化されたEUの電力市場から再エネ事業者を締め出す結果をもたらすと指摘された点について、「EU加盟国は自国のエネルギー構成を自由に決めることができ、ECにはその他の代替エネルギーに予算配分するよう要求する権限はない」と説明している。

(参照資料:欧州司法裁判所の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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