デンマーク企業が小型熔融塩炉で英国の設計審査を申請
10 Jan 2023
MSR発電所の完成予想図 ©UK Atomics
英国原子力産業協会(NIA)の1月5日付発表によると、デンマークの原子力技術開発企業であるコペンハーゲン・アトミクス社が、第4世代の小型トリウム熔融塩炉(MSR)を英国の包括的設計審査(GDA)にかけるため、申請書を英国政府に提出した。
審査に先立ち現在、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が、設計者に同審査を受ける能力が備わっているか確認中と見られているが、同社の英国法人であるUKアトミクス社はすでに、フルサイズの原型炉を建設済み。今年から様々な試験を実施して、この炉が英国の安全・セキュリティ面の厳しい基準をクリアしていることを示す「設計承認確認書(DAC)」を原子力規制庁(ONR)から取得する予定。環境保護と放射性廃棄物の管理面については「設計承認声明書(SoDAC)」を環境庁(EA)から取得し、2028年にも最初の商業炉を英国内で完成させる予定である。
MSRは燃料として熔融塩とトリウムなどの混合液体を使用する設計で、北米では1950年代に米オークリッジ国立研究所を中心に開発が始まった。CO2を出さずにクリーンな電力を発電できるほか、既存の軽水炉から出る長寿命放射性廃棄物を大量に燃焼出来る等の利点があり、「第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)」は2002年に溶融塩炉を国際共同研究開発が可能な6種のコンセプトの1つに選定している。
UKアトミクス社のMSRは、減速材として重水を使用するコンテナ・サイズのモジュール炉(SMR)で、熱出力は10万kW。560°Cの熱を顧客に供給する。また、燃料としてトリウムや既存炉の使用済燃料を使用するなど、ウラン燃料ベースの既存炉を根本的に改善した革新的な原子炉技術であると同社は強調。最終的に排出される廃棄物は大幅に削減され、廃棄物の貯蔵期間も10万年から300年ほどに短縮できるとした。
同社はすでに8年前から、英国の複数の大学と同炉の主要技術や機器類の開発・試験と実証を進めている。今後は、自動車や飛行機の製造と同様に同炉を工場で大量に製造し、先進的原子炉開発分野を牽引したい考えだ。
UKアトミクス社としては、将来的に数千基規模のMSRを製造・所有・運転することを計画しており、関連設備や技術など付随するサービスも含めた総合的なエネルギー・ソリューションの提供というビジネス・モデルを検討中。同モデルでは開発リスクが軽減される一方、コスト面の効果が高い。また、顧客は設備投資などの資本支出を必要としない上、同炉の運転にともなう支出も非常に小さく済むことから、同社はMSRで競争力の非常に高い電力を安価で提供し、クリーンエネルギーへの移行を世界レベルで加速することができるとしている。
BEISは2021年5月、GDAの審査対象としてSMRその他の先進的原子炉技術を含めると表明した。これを受けて、ロールス・ロイスSMR社は同年11月、同社製SMRのGDA申請書をBEISに提出。米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社も2022年12月に同社製SMRをGDAにかけるため、申請書を提出している
(参照資料:NIA、BEIS、UKアトミクス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)