米NASAとDARPA 宇宙探査用原子力ロケット・エンジン実証へ
27 Jan 2023
NTRエンジン搭載宇宙船の予想図 ©DARPA
米国防総省(DOD)の国防高等計画推進局(DARPA)は1月24日、米航空宇宙局(NASA)が計画している火星の有人探査用の先進的核熱推進ロケット(NTR)エンジンを共同で実証・開発するため、両者が協力協定を結んだと発表した。
具体的には、DARPAの「迅速な月地球間活動のための実証ロケット(DRACO)プログラム」にNASAの宇宙技術ミッション本部(STMD)が協力し、NTRエンジンをDARPAの実験用宇宙船に組み込むための技術開発を推進。長期の宇宙飛行ミッション実現に向けてNTRエンジン搭載宇宙船の実証試験を、早ければ2027会計年度にも地球周回軌道上で実施する計画だ。
両者の発表によると、大気圏外の深宇宙を宇宙飛行士が高速で移動することは、火星の有人探査実現のカギとなる技術であり、宇宙飛行士の負うリスクも軽減される。長期のミッションでは頑丈なシステムと多くの補給品が必要となるため、NTRエンジンのように一層迅速かつ効率的な輸送・移動技術の開発はNASAが月や火星で進める探査計画に有効である。
また、NTRエンジンでは通信等に使用する高出力電力のほか高温熱も生産可能であるため、この熱で液体水素をガスに変えて推進力とすることができる。これにより、NTRエンジンの効率はこれまでの化学ロケット・エンジンとの比較で2~5倍に上昇、推力重量比は電気推進エンジンとの比較で約1万倍に上昇すると両者は予測している。
このような開発の加速を目的とした今回の協力協定で、両者は双方が利益を得られるようそれぞれの役割や責任を分担。NASAが関係技術の開発を主導する一方、DARPAはNTR用原子炉関係の契約を受け持つほか、NTRエンジン・システムの宇宙船への統合や資機材の調達、スケジュールの設定など、プログラム全体を管理することになる。
DARPAによると、米国でNTRの実験が最後に行われたのは50年以上前のことである。このような過去の開発で得られた教訓を元に、DARPAはDRACOプログラムで高濃縮ウランの代わりにHALEU燃料[1]
U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン
を使用する予定。これにより、輸送上の課題を減らすことができると指摘している。
DARPAのS.トンプキンズ長官は、「近代的な商取引や科学的発見、国家安全保障の点からも宇宙空間は非常に重要な領域だ」と説明。DRACOプログラムを通じて宇宙技術開発で大きな躍進を遂げることは、月面に多くの物資を効率的に輸送し人類を短時間で火星に送り届けるためにも、必要不可欠だと強調した。
NASA・STMDのJ.ルーター本部長は、「航空宇宙材料の開発やエンジニアリングは近年目覚ましく進歩しており、原子力技術の宇宙利用に新たな時代が到来、実証試験を通じて月や火星への輸送能力は大幅に拡大される」と指摘した。
(参照資料:NASA、DARPAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
脚注
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U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン |
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