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クルスコ原子力発電所の増設計画が前進 スロベニア

20 Jun 2023

クルスコ原子力発電所を視察したゴロブ首相(=右から2人目)。 ©Government of Slovenia

スロベニアのR.ゴロブ首相は616日、同国唯一の原子力発電所であるクルスコ発電所(PWR72.7kW)で2基目の原子炉「JEK2」を増設するプロジェクトについて、81日を目途に「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の判断を下す方針を表明。また、同じ時期に、関係省庁等の作業の調整役を首相府内で任命するほか、行政手続きを簡素化・加速するための特別法案を制定する可能性も明らかにした。

スロベニアは1983年に営業運転を開始した同発電所で総発電量の約4割を賄っており、同発電所を隣国クロアチアと共同所有するGENエネルギア社は20217月、政府のインフラ省が「JEK2プロジェクト」にエネルギー許可を発給したのを受け、その準備作業に着手した。この許可では、建設する原子炉の出力が110kWに制限されているが、同社としてはこれをさらに拡大しベンダーの範囲を広げたい考えだ。

同社によると、スロベニアが将来信頼性の高い電力を供給して低炭素電力への移行を効率的に果たし、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するには同プロジェクトが必要であり、すでに技術面や環境面でも実行可能との結論が出ている。同発電所についてはまた、現行の運転期間の40年を60年に延長し2043年までとする計画について、環境省が今年1月に環境影響面の承認を与えている。

ゴロブ首相はこの日、B.クメル環境・気候・エネルギー大臣やU.ブレジャン天然資源・空間計画大臣らとともにクルスコ発電所を視察した。視察後はクルスコ自治体が主催する公けの協議に参加し、GENエネルギア社や同発電所の運転を担当するクルスコ原子力発電会社(NEK)、クルスコ市長などの関係者とスロベニアにおける今後の原子力発電について議論した。

首相はその席で、「スロベニアが今後も原子力利用国であり続けることは間違いない」との政府方針を強調。原子力分野の知識が豊富なスロベニアでは、その知識をJEK2炉の建設に活用すべきだとした。また、現行のエネルギー戦略では同プロジェクトを実施できないことから、議会下院が現在、2004年以来初めて同戦略の改訂作業を進めていると指摘した。

首相はまた、「スロベニアの今後のエネルギー・ミックスでは、気候変動により社会全体の電化が進み一層多くの電力が必要となるため、温暖化防止に利用可能なエネルギー源すべてが必要になる」と強調。「この傾向はスロベニアのみならず欧州全体に言えることで、原子力やエネルギー・ミックスに対する欧州各国の考え方は異なるものの、最終的には欧州では原子力がほとんど唯一、信頼性の高い基盤のエネルギーであり、他に選択肢などないことが判明するはずだ。残念なことに、スロベニアには余剰の国産エネルギーがないため、輸入量削減のためにも自国の生産量を増やさねばならない」と述べた。

これらのことから、首相は「JEK2 プロジェクト」では担当チームを編成するなど、スピードアップの具体策を取ることが重要だと表明。同プロジェクトでステークホルダーとの調整役を担う副大臣級の担当者としては、GENエネルギア社のD.レビカー業務最高責任者(COO)を指名する予定である。

クメル環境相によると、改訂版のエネルギー戦略となる「国家エネルギー・気候計画」では、原子炉を長期的に活用していく断固たる方向性がこれまでより明確に示され、2基目の建設に留まらず原子力を一層広範囲に活用することになる。ブレジャン天然資源相も「2050年までの空間開発戦略」に、2基目の原子炉建設の可能性も含めて、引き続き原子力を利用していく方針を盛り込んだと表明。同戦略は、スロベニアが原子力開発利用を継続する根拠になると指摘している。

(参照資料:スロベニア政府GENエネルギア社NEK社の発表資料(すべてスロベニア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNA619日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

 

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