ベルギー 2基の運転期間延長で暫定合意
04 Jul 2023
ドール原子力発電所 ©Electrabel
ベルギーの商業炉全5基を所有・運転するエレクトラベル社の親会社である仏エンジー社は6月29日、ドール4号機(PWR、109万kW)とチアンジュ3号機(PWR、108.9万kW)の運転期間の10年延長に向けて、ベルギー政府との暫定合意文書に署名した。
放射性廃棄物管理費用の負担など、将来的に変化する可能性のある事項すべてについて不確定要素を排除し、両者間でバランスの取れたリスク配分を目指したもの。7月末を目途に両者が最終合意文書に署名すれば、今回の合意事項が実行に移される。
ベルギーでは2003年に緑の党を含む連立政権が脱原子力法を制定し、既存の原子炉7基(当時)を2025年までに全廃することになっていた。しかし、2020年に発足した7政党の連立政権は2021年12月、総発電量の約5割を賄っていたそれら7基の代替電源が確保できないことから、7政党の政策協議において、エネルギー供給で必要な場合に限り、最も新しいドール4号機とチアンジュ3号機で運転継続する可能性を残していた。
その後、ロシアのウクライナ軍事侵攻が2022年2月に始まり、ベルギーを含む欧州各国では天然ガスの調達で苦境に立たされた。同年1月にベルギーの原子力規制当局がこれら2基の運転期間延長を条件付きで認めていたことから、ベルギー政府は同年3月、これらの運転期間を10年延長し、合計約200万kWの原子力発電設備を2035年まで維持する方針を決定。事業者であるエンジー社とは同年7月、運転期間の延長に向けて原則合意している。
それ以降、2022年9月にドール3号機(PWR、105.6万kW)が、今年2月にはチアンジュ2号機(PWR、105.5万kW)が40年間の稼働を終えて永久閉鎖された。そして政府とエンジー社は今年1月、ドール4号機とチアンジュ3号機の運転期間延長に関する予備的合意案に署名。今回の暫定合意文書は、法的拘束力を持たなかったこの同合意案に基づいており、以下の事項を定めている。
- ベルギーのエネルギー供給保証を強化するため、これら2基が運転開始後40年目の2025年に一旦停止した後、2026年11月までに再稼働できるよう両者は最善の努力を払う。発表済みの規制緩和策が効率的に実行された場合、両機の再稼働は早ければ2025年11月になる。
- 政府とエンジー社の折半出資により、これら2基専用の法的裏付けのある組織を設置。この組織が2基の管理にあたるほか、2基から得られる利益を両者間で調整し、両者間の契約事項が確実に順守されるようにする。
- 運転期間の延長に際し、両者間でバランスの取れたリスク配分が行われるようなビジネスモデルを構築。差金決済取引(CfD)を通じて、両機が技術面や経済面で良好な実績を納めた場合に報奨金が運転事業者にもたらされるようにする。
- ベルギーの放射性廃棄物管理の実施機関である放射性廃棄物・濃縮核分裂性物質管理機関(ONDRAF/NIRAS)の最新の知見に基づき、ベルギーにあるエンジー社所有のすべての原子炉から発生する放射性廃棄物の将来的な管理固定費を、総額150億ユーロ(約2兆3,600億円)と算定。分割払いの1回目として、カテゴリーBとCの廃棄物[1] … Continue readingの管理費用を2024年の前半終了時に支払うほか、2回目はカテゴリーAの廃棄物について運転期間の延長開始時に支払う。
このように、すべての放射性廃棄物に関する債務がエンジー・グループから政府に移されることになり、同グループが今後、管理費用の増大リスクに晒されることはなくなった。その代わり、同グループはこの合意に基づく税引前費用の増加分を約45億ユーロ(約7,000億円)と計算。2023会計年度の非経常利益に影響を与える費用として、計上する予定である。
(参照資料:エンジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
脚注
↑1 | ベルギーにおける放射性廃棄物の区分で、カテゴリーAは地表に貯蔵される短寿命の低・中レベル廃棄物。Bは長寿命の低・中レベル廃棄物、Cは高レベル廃棄物で深地層に処分予定。 |
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