米ワイオミング州 SMRの建設評価にマッチング・ファンド提供
16 Aug 2023
マイクロ原子炉の設計概念 ©BWXT
米ワイオミング州のエネルギー当局(WEA)は8月8日、BWXTアドバンスド・テクノロジーズ(BWXT AT)社が同州内で実施を予定している「マイクロ原子炉建設の実行可能性評価プロジェクト」に対し、約1千万ドルのマッチング・ファンドを提供すると発表した。
BWXT AT社は原子力機器・燃料サービス企業であるBWXテクノロジーズ(BWXT)社の子会社で、BWXT社製の先進的なマイクロ高温ガス炉(HTGR)を同州内で複数基建設することに向けて、先駆けとなるユニット(lead unit)の建設を計画している。
同社製HTGRについては、国防総省(DOD)が軍事作戦用への導入を目指して、原型炉(電気出力0.1~0.5万kW)の建設をアイダホ国立研究所(INL)内で予定している。BWXT AT社は今回の評価プロジェクトで、ワイオミング州の産業界の中でも特に、石油・ガス採取産業に原子力の無炭素な電力や熱を供給できるかを評価、同炉を州内で複数基建設する可能性を模索する。また、州内の既存のサプライチェーンが原子炉機器のどの部分に製造能力を発揮できるか確認し、その建設をサポート。このほか、同州の将来的な発電設備にマイクロHTGRを組み込めるよう、調査のためのエンジニアリング活動を実施する計画だ。
ワイオミング州議会は2022年、州内のエネルギー需要を満たすために行われている様々な技術の研究、実証、パイロット計画、商業規模の建設計画に対し、民間部門や連邦政府の資源を補う「エネルギー関係のマッチング・ファンド(EMF)」として、1億ドルの予算を州知事室に充当。同ファンドの管理は州知事からWEAに委託されており、対象技術は太陽光や風力発電に留まらず、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)や石炭精製、水素製造、電池貯蔵なども含まれている。
BWXT AT社は、同炉で既存の発電設備を補完し州内で増加するエネルギー需要に応える方針であり、今回の評価プロジェクトには約2千万ドルが必要と見積もっている。BWXT社のHTGRは、すでに米エネルギー省(DOE)のコスト折半型「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の3方式のうち、2030年代前半を運転目標とする「将来的な実証に向けたリスク削減」に選ばれ、支援を受けている。
今回のプロジェクトでは、同社は具体的にワイオミング州の関係者が先駆けとなるユニットの建設判断を下せるよう、州内のエンドユーザー専用の概念設計を開発する。これにより、同炉の製造や建設、許認可活動に必要なコストの見積もりが可能になる。また、後続機の幅広い建設モデルの一環として、州内の既存のサプライチェーンをどの程度活用できるかも見極める方針である。
プロジェクトは2段階に分けて行われる予定で、まず州内のユーザーの個別ニーズに合わせて設計上の要件を確定。次の段階では、州内での同炉の製造と販売に向けて詳細分析を実施するほか、ビジネス開発戦略を策定する。
BWXT AT社のJ.ミラー社長は、「この評価プロジェクトを終える頃には、州内での雇用創出の見通しやビジネス機会などが一層明確になる」と指摘。「州内の建設ロードマップも作成する計画で、州政府や連邦政府の機関が民間部門と協力することにより、原子力の技術革新が生み出す経済面や環境面の恩恵を享受することが可能になる」と強調している。
なお、ワイオミング州ではこのほか、電気事業者のパシフィコープ社が南西部のケンメラー(Kemmerer)で、米テラパワー社製のナトリウム冷却高速炉「Natrium」(電気出力34.5万kW~50万kW)の建設を計画中。2024年3月にも、実証炉の建設許可申請書(CPA)を原子力規制委員会(NRC)に提出予定だと伝えられている。
(参照資料:ワイオミング州政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)