原子力産業新聞

海外NEWS

米NASA 核熱推進エンジン開発でUSNC社と契約

23 Oct 2023

宇宙空間におけるNTPエンジンの使用想像図 ©USNC

米航空宇宙局(NASA)は1017日、米国でモジュール式マイクロ原子炉(MMR)を開発中のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)と、地球と月の間の宇宙領域(シスルナ空間)の探査で用いる核熱推進(NTP)エンジンの開発契約を締結した。契約総額は500万ドルで、同契約により、NTPエンジンの開発は実機の開発段階に移行する。

深宇宙探査用のNTP開発を進めるNASA20217月、米エネルギー省(DOE)と共同で発出した「有望な原子炉技術の提案募集(REF)」で、USNC社の子会社であるウルトラ・セーフ・ニュークリア・テクノロジーズ(USNC-Tech)社を含めた3社を選定。3社それぞれと約500万ドル相当の契約を締結して、将来の深宇宙探査で必要となる性能条件を満たした設計を特定するための戦略を立てるほか、このミッションに利用可能な原子炉の概念設計を契約期間中に完成させると表明していた。

USNC社のMMRは第4世代の小型モジュール式高温ガス炉(HTGR)で、電気出力0.5~1万kWで熱出力は1.5kW。ウラン酸化物の核に、黒鉛やセラミックスを3重に被覆したウラン粒子燃料(TRISO燃料)を用いる。

同社は20228月、このTRISO燃料による「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」のパイロット製造施設(PFM)をテネシー州のオークリッジにオープン。今年6月には、PFMで製造した燃料をNASAの「宇宙探査用原子力推進(SNP)プログラム」用に納入している。

この納入実績に基づく今回の契約で、USNC社はNTPエンジン向けに独自開発した同燃料の燃料集合体を製造し、初期段階の試験を実施する。その際、原子炉を組み込んだエンジン・システムの最終試験をDOEサイトで行う前提条件として、NTPエンジンの安全系も製造し試験を行う予定。同社はまた、パートナー企業であるブルーオリジン社との協力を通じて、シスルナ空間での短期ミッションに的を絞って合理化したNTPエンジンの設計を完成させる計画だ。

同社によると、このような活動を通じてNTPエンジンの長期的な活用に向けた準備が大きく前進。また、NASAが国防総省(DOD)・国防高等計画推進局(DARPA)の「迅速な月地球間活動のための実証ロケット(DRACO)プログラム」に協力して築いた基盤も活用するとしている。

USNC社のV.パテル核熱推進プログラム・マネージャーは、「DRACOプログラムの実証を終えた後、来年はより高いパフォーマンスの達成に向けてNTPエンジンの運用ミッションの準備を整える」と表明。ただし、「宇宙空間で実際に貨物を移動させるという大型ミッションの準備を行うには、まだまだNTPエンジンの大規模開発が必要だ」と指摘している。

MMRについては、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社とUSNC社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社が20193月、カナダ原子力研究所(CNL)チョークリバー・サイトでの初号機建設を念頭に、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。米国ではイリノイ大学が20216月、学内で将来的にMMRを建設するため、米原子力規制委員会(NRC)に「意向表明書(LOI)」を提出している。

(参照資料:USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNA1020日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

cooperation