WEO2023「クリーン・エネルギーへの移行で原子力の役割が増大」
27 Oct 2023
©IEA
国際エネルギー機関(IEA)は10月24日、世界のエネルギー部門の長期動向を予測・分析した年次報告書「世界エネルギー見通し(WEO)」の2023年版を公表した。
2030年までに世界では電気自動車(EV)の台数が現在の約10倍に増加し、電源ミックスにおける再生可能エネルギーの発電シェアは2022年の約30%から50%近くに上昇するものの、世界の平均気温の上昇を産業革命以前との比較で1.5℃以下に抑えるには、一層強力な政策が必要だとIEAは警告。WEOで設定した3通りの予測シナリオでは、いずれの場合も低炭素電源による発電量が増加する見通しで、原子力については各国の現行エネルギー政策下で、世界全体の原子力発電設備容量が2050年に6億2,000万kWまで拡大する可能性があると指摘している。
WEO 2023によると、世界ではエネルギー供給システムが2030年までに大変革を遂げ、太陽光や風力、EV、ヒートポンプ等のクリーン・エネルギーが工場での生産や家電、暖房にいたるまで拡大。各国政府のエネルギー政策や地球温暖化対策をさらに本格的かつスケジュール通りに進めた場合、クリーン・エネルギーへの移行は一層速やかに進展する。
また、世界中でクリーン・エネルギー技術が急速に進展しており、これが各国経済の構造変化と組み合わさったため、この10年間に石炭や石油、天然ガス等の化石燃料が需要のピークを迎えることになったが、これは現行のエネルギー政策に基づくWEOのシナリオで初めて起こったこと。世界のエネルギー供給における化石燃料のシェアは過去数十年間に約80%だったが、この数値は2030年までに73%に低下。世界のエネルギー部門におけるCO2排出量も2025年までにピークに達することになる。
IEAのF.ビロル事務局長は「クリーン・エネルギーへの移行は世界中で進展中だが、進展速度が問題」と指摘。早ければ早いほど良いのは当然のこととして、同事務局長はこの移行により、「新たな産業の機会と雇用、より優れたエネルギー供給保障、クリーンな大気、誰もがアクセスできるエネルギー源、そしてすべての人にとって一層快適な気候など、計り知れない恩恵が提供される」と指摘。「今日のエネルギー市場で進行している緊張や不安定性を考慮すると、石油とガスが世界の将来的なエネルギーや気候にとって安全または確実な選択肢であるという主張は、根拠が弱い」と強調している。
世界の電力供給
IEAによると、近年の世界的なエネルギー危機への対応としては、発電部門でクリーン・エネルギーへの移行が特に加速されており、また、供給保障への取り組みが一層強化される形になっている。中国や欧州連合(EU)、インド、日本、米国といったエネルギーの大規模市場では、再生可能エネルギーが拡大する動きが高まっているが、日本や韓国、米国など多数の国が既存の原子炉の運転期間延長を支援するなど、原子力に対する見通しも改善される傾向にある。また、カナダや中国、英国、米国、および複数のEU加盟国では、原子炉新設への支援も行われている。
このように低炭素電源全体の発電量は、「現状政策シナリオ(STEPS)=各国政府が実際に実施中、あるいは発表した政策のみを考慮したシナリオ」で、2022年から2050年までの期間に4倍に拡大するほか、「発表誓約シナリオ(APS)=各国政府の誓約目標が期限内に完全に達成されることを想定したシナリオ」で、2050年までに現状レベルの5.5倍に、「持続可能な発展シナリオ(NZE)=2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するというシナリオ」では、7倍に増大するとIEAは予測。発電シェアも2022年に39%だったものが「STEPS」で2050年までに約80%、「APS」で90%以上に増加するほか、「NZE」では100%近くになるとしている
原子力についてIEAは、低炭素電力の発電量では水力に次いで世界で2番目の規模だと説明。先進諸国においては最大の発電量となっており、福島第一原子力発電所事故後の約10年間に停滞していた開発政策は、原子力回帰の方向に状況が変化しつつある。世界全体で2022年に4億1,700万kWだった原子力の設備容量が、2050年には「STEPS」で6億2,000万kWに拡大すると予測しており、この拡大には、主に中国その他の新興市場や、発展途上国における開発が貢献するとの見方を示した。
一方、先進諸国では既存炉の運転期間延長政策が広く普及すると見ており、新規の建設プロジェクトは閉鎖される原子炉の容量を補う程度は確保される。3つすべてのシナリオで、先進的原子炉設計も含めた大型炉の建設が主流となるが、小型モジュール炉(SMR)への関心も、原子力利用の長期的な可能性を増大させている。原子力推進国における運転期間延長や新規建設により、世界の原子力設備は「APS」で2050年までに7億7,000万kWに、「NZE」では9億kWを超えるとIEAは指摘している。
日本と韓国における主要エネルギーの傾向
WEO 2023ではこのほか、地域別の考察で日本と韓国を一項目にまとめて取り上げている。日本のGX政策および韓国の長期電力需給基本計画に基づき、両国では「STEPS」シナリオで現在約65%の石炭と天然ガスのシェアが今後数十年間に急速に低下すると予測。一方、太陽光や風力、原子力のシェアは大幅に拡大し、低炭素電源全体のシェアは現在の30%から、2050年までに約85%に達する見通しだ。
IEAによると、両国はともにクリーン・エネルギーへの確実な移行に向けて、電源ミックスや具体的な道筋を定めなくてはならない。発電部門で両国は太陽光への投資を進めているものの、現時点で石炭や天然ガスといった化石燃料に発電量の三分の二を依存。発電部門の脱炭素化には、原子力や洋上風力といった電源が大きく貢献する可能性があり、IEAのシナリオでは、これらの果たす役割が急速に増大する見通し。「STEPS」と「APS」ではいずれも、2050年までに総発電量に対する原子力のシェアが75%拡大すると予測している。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)