鉛冷却高速炉SMRの開発で4か国5者が協力
13 Nov 2023
5者はベルギーで協力覚書を締結 © SCK CEN
ベルギー原子力研究センター(SCK CEN)、イタリアの経済開発省・新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)とアンサルド・ヌクレアーレ社、ルーマニアの国営原子力技術会社(RATEN)、および米国のウェスチングハウス(WH)社の5者は11月8日、鉛冷却高速炉方式の小型モジュール炉(SMR-LFR)建設を加速することで、了解覚書を締結した。
液体重金属の技術蓄積がある5者が協力し、ベルギー北部のモルにあるSCK CENでSMR-LFRの商業用実証炉を建設。同炉の技術やエンジニアリング面の可能性を実証し、クリーン・エネルギーへの世界的な移行に際し、持続可能なエネルギー源である原子力を主力に位置付けていく考えだ。
欧州原子力共同体(ユーラトム)のLFR研究開発プロジェクトでは、ENEAとアンサルド社が主導的役割を担っており、両者はユーラトムのLFR開発ロードマップに明記されたLFR実証炉「ALFRED」(電気出力12万kW)の建設をルーマニア南部のピテシュチ(Pitești)で実現するため、2013年にRATENと「FALCON(Fostering ALfred CONstruction)企業連合」結成の協力覚書を締結していた。今回覚書を結んだ5者は、SMR開発の次の段階の作業として、同計画で過去10年間に行われた設計・建設経験を活用し、商業用SMR建設の経済的、技術的実行可能性等を探る方針だ。
覚書への署名はベルギーの首都ブリュッセルで行われ、同国のA.デクロー首相とルーマニアのK.ヨハニス大統領が同席した。また、在ベルギーのイタリア大使館と米国大使館からも代表者が出席している。
ベルギー政府は2022年5月、SCK CENに革新的なSMRの研究を委託しており、研究予算として同センターに1億ユーロ(約160億円)を拠出すると表明。 SCK CENは、この研究を切っ掛けに鉛冷却高速炉SMRの実現に向けたパートナーの選定作業を始め、様々な企業が過去数年間に実施した鉛冷却炉関係の技術開発成果に基づいて、今回の5者が決定したという。
受動的安全系が組み込まれた鉛冷却高速炉SMRは非常に高い安全性を備えており、原子燃料サイクルにおいては一層効率的な燃料の活用と長寿命放射性廃棄物の削減が可能である。協力覚書を締結した5者は、この有望な技術をコスト面の競争力を持ったエネルギー源として完成させ、それが商業規模で建設されるよう各メンバーが強みを発揮し補完し合う考えだ。
具体的なアプローチとしてSCK CENは、WH社が開発中のLFRを出発点に設定。将来のエネルギー・ミックスに、低炭素で持続可能かつ競争力のある鉛冷却高速炉SMRの電力と熱、水素製造等を提供するため、5者はあらゆる要件を満たせるよう協力する。鉛を冷却材として使用する原子力技術は、ENEAやRATEN、SCK CENなど同技術のパイオニアにとって未知の領域ではないという。これらの機関のノウハウで商業用SMR-LFRの技術を実証した後は、市場投入までの期間を最短にできるよう、WH社とアンサルド社の設計や許認可手続き、建設等での経験を活用。最終的な商業化を目指して盤石な基盤を固め、世界展開を図るという。
(参照資料:SCK CEN、RATEN、アンサルド社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)