イタリア エネ大臣が原子力再導入の可能性を示唆
01 May 2024
©Atlantic Council TV
イタリアのG.ピケット=フラティン環境・エネルギー安全保障大臣は4月28日、原子力、特に小型モジュール炉(SMR)の新たな役割について、「建設的かつ科学的な議論」が行われるよう求め、同国における原子力再導入の将来的な可能性に言及した。
フラティン大臣は、イタリア・トリノで開催されたG7気候・エネルギー・環境閣僚会合で議長を務めており、今回の発言は同会合に先立って開催された米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのイベント「エネルギー移行における原子力の役割」における基調講演でのこと。
フラティン大臣は基調講演の中で、イタリアは現在、エネルギーの1/3を再生可能エネルギーで、2/3を化石燃料でまかなっており、2030年までにこの比率を逆転させることを目指しているが、2050年のCO2排出実質ゼロの目標達成には、短・中期的には原子力の利用を検討しなければならないと発言。大臣は、特に小型モジュール炉(SMR)に注目していると述べた。また、COP28で原子力発電設備容量を3倍にするという目標が掲げられたことにも触れた。
フラティン大臣は、原子力発電は環境面での利点に加え、イタリアにとって(ロシア問題など)地政学的影響を排除するのに役立つと指摘。また、イタリアが欧州SMR産業アライアンスに参加していることにも言及。イタリアが原子力発電について「イデオロギー的な議論ではなく、建設的かつ科学的な議論」を行うことを期待すると強調した。
イタリアでは1960年初頭から4サイトで合計4基の原子力発電所が稼働していたが、チョルノービリ原子力発電所事故後の1987年、国民投票によって既存の全発電所の閉鎖と新規建設の凍結を決定。最後に稼働していたカオルソ(BWR、88.2万kWe)とトリノ・ベルチェレッセ(PWR、27万kWe)の両発電所は1990年に閉鎖し、脱原子力を完了した。2009年になるとEU内で3番目に高い電気料金や世界最大規模の化石燃料輸入率に対処するため、原子力復活法案が議会で可決している。しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、同じ年の世論調査では国民の9割以上が脱原子力を支持。当時のS.ベルルスコーニ首相は、政権期間内に原子力復活への道を拓くという公約の実行を断念した。
しかし、近年は世界的なエネルギー危機にともない、イタリアのエネルギー情勢も変化。2021年6月に実施された世論調査では、イタリア人の1/3が国内での原子力利用の再考に賛成しており、回答者の半数以上が新しい先進的な原子炉の将来的な利用を排除しないと述べるなど、情勢は変化している。2023年5月、議会下院は、国のエネルギーミックスに原子力を組み込むことを検討するよう政府に促す動議を可決。9月には、環境・エネルギー安全保障省が主催する「持続可能な原子力発電に向けた国家政策(PNNS)会議」の第一回会合が開催され、近い将来にイタリアで原子力発電を復活させる可能性が議論されている。
原子力の位置付けの見直しとともに、具体的な原子力利用再開に向けた動きもみられる。イタリアの電力会社で、フランス電力(EDF)のイタリア子会社でもあるエジソン社は2023年10月、イタリアの原子力復活に向けた条件が整えば、出力34万kWeのSMRを国内で2基、2030~2040年頃をメドに建設する意欲を表明した。親会社のEDFは仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)などと協力して、欧州主導のSMR「NUWARD」(出力17万kWeの小型PWR×2基)を開発中。エジソン社は「2040年までに自社電源の9割を脱炭素化する」ことを目指している。また、今年3月にはイタリアの大手電力会社エネル社と原子力機器製造・設計建設会社のアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社が、SMRや先進型モジュール炉(AMR)などの技術開発、ビジネスモデル、産業への応用について共同調査・評価の実施で合意している。