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英労働党マニフェスト 原子力を重視

14 Jun 2024

桜井久子

©The Labour Party

英国の最大野党労働党は6月13日、74日の総選挙に向けマニフェスト(政権公約)を発表。「Change」と題するマニフェストの中で、英国をクリーンエネルギー超大国にすると宣言し、クリーンエネルギーへの移行とともに、原子力重視の姿勢を示した。

各種世論調査では、労働党が与党の保守党を大きくリードし、14年ぶりに労働党政権誕生の可能性が高まっている。同マニフェストは、経済成長の停滞と増大する生活費の危機を打破し、再び勤労者の利益にかなう国家再建を基調としている。ロシアのウクライナ侵攻に伴う国際市場での化石燃料コストの急上昇、保守党政権下における陸上風力発電の新規導入の禁止、原子力発電所の新規建設の失敗、住宅の断熱材への投資中止といった施策により、英国の家庭は欧州で最も高いエネルギー料金を支払うことになったと指摘。クリーンエネルギーへの移行こそ、経済成長を生み出し、エネルギー料金を含む生活費の高騰に対処し、英国のエネルギーを再び自立させる大きな機会になるとし、2030年までにより安価なゼロカーボン電力による電気料金の削減、雇用創出、エネルギー安全保障、CO2排出ネットゼロに向けて加速することを、国家再建に向けた労働党の五大使命のひとつに掲げている。

マニフェストでは、英国には長い海岸線、強風、浅瀬、大学、熟練した労働力、そして広範な技術力とエンジニアリング能力など未開発のリソースがあり、優れた産業戦略や市場形成、民間資金を公共投資に活用することで、英国をクリーンエネルギー超大国とし、2030年までに全国で65万人の雇用創出を計画。労働党は民間部門と協力して、2030年までに陸上風力発電を2倍、太陽光発電を3倍、洋上風力発電を4倍にするほか、炭素回収・貯留(CCS)、水素製造などに投資し、長期的なエネルギー貯蔵を確保するとした。

原子力については、保守党が原子力発電に関する決定を避けてきた10年間の迷走に終止符を打つと強調。原子力部門の長期的な安全確保とともに、既存炉の運転期間延長のほか、建設中のヒンクリー・ポイントC原子力発電所の運転開始、計画中のサイズウェルCや小型モジュール炉(SMR)などの新設を、英国のエネルギー安全保障とクリーンエネルギーの達成において重要な役割を担い、何千人もの良質で熟練した雇用確保に貢献するもの、と明言している。

また、クリーンな国産エネルギーへの投資の推進をめざし、労働党は公営企業「グレート・ブリティッシュ・エナジー」を83億ポンド(約1.67兆円)投じて設立。同企業を通じ、エネルギー企業、地方自治体などと提携して最先端技術に共同投資し、地元コミュニティに利益をもたらす数多くのクリーンエネルギープロジェクトを支援するという。同時に、国内で質の高い雇用を創出するサプライチェーンの再構築も計画するという。

なお、英国の産業は電気料金の高騰により投資の競争力が損なわれることが多いことから、クリーンエネルギーにより電気料金を引き下げ、産業の国際競争力を高めるほか、国の基金を利用して、脱炭素化のため最もエネルギー集約的な産業部門への支援や、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入により、脱炭素化を進める英国の産業を保護し、英国の気候目標を達成したい考えだ。

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