世界のエネ投資が3兆ドル超 IEA報告書
17 Jun 2024
©IEA
国際エネルギー機関(IEA)は6月6日、エネルギー部門に対する世界的な投資動向を分析した報告書「世界エネルギー投資(World Energy Investment)」を発表。世界のエネルギー投資総額は2024年に初めて3兆ドルを超え、そのうち約2兆ドルが原子力など、クリーン・エネルギー技術に充てられる見通しを明らかにした。
IEAが指すクリーン・エネルギー技術とは、再生可能エネルギー、電気自動車(EV)、原子力発電、送電網、蓄電池、低炭素燃料、エネルギー効率の改善、ヒートポンプなど。残りの1兆ドル強は、石炭、ガス、石油への総投資額となる。2020年以降、クリーン・エネルギーへの投資が加速し、2023年の再生可能エネルギーと送電網への総投資額は、化石燃料への投資額を初めて上回った。
報告書によると、クリーン・エネルギーへの投資額は、資金調達コストの上昇にもかかわらず、サプライチェーンの強化とクリーン・エネルギー技術自体のコスト低下により、2024年には化石燃料への投資額のほぼ2倍に達する見込みである。一方で、報告書は、中国以外の新興国・途上国(EMDEs)におけるクリーン・エネルギーに対する投資不足を問題視。インドとブラジルなどが主導し、中国以外のEMDEsにおけるクリーン・エネルギー投資額が初めて3,000億ドルを超える見込みであるものの、世界全体の約15%に過ぎず、今後増加が見込まれるエネルギー需要を満たすための必要額をはるかに下回っていると指摘している。
クリーン・エネルギーに対する昨今の投資拡大の背景として、IEAは、排出量削減目標の設定、技術の進歩、エネルギー安全保障の強化(特にEU)のほか、もう一つの戦略的要素として、クリーン・エネルギー生産を促進し、世界市場における主導的地位の確立に向けた中国を含む主要経済国による新たな産業戦略を挙げている。米国では、クリーン・エネルギーへの投資は2024年に2020年の1.6倍にあたる3,000億ドル以上に増加すると見られており、化石燃料に対する投資額を大きく上回っている。EUは現在、クリーン・エネルギーに3,700億ドルを投資し、中国は大規模な国内市場と、太陽電池、リチウム電池、EV製造といった新たな3つの産業の急成長に支えられ、2024年にはクリーン・エネルギーの投資額が約6,800億ドルに達する見通しである。IEAによると、これら3大経済圏だけで世界のクリーン・エネルギー投資の3分の2以上を占めており、国際的なエネルギーの投資格差が浮き彫りになっている。
IEAのF. ビロル事務局長は「クリーン・エネルギーへの投資拡大は厳しい経済状況下でも記録を更新しており、世界エネルギー経済の新潮流を浮き彫りにしている」と現状を俯瞰。「今やクリーン・エネルギーへの投資額は化石燃料への投資額の2倍」と指摘した。一方で同氏は、中国を含む主要経済国が新たなクリーン・エネルギーのサプライチェーンで優位に立とうと競争するなか、手頃な価格で持続可能かつ安全なエネルギーへのアクセスが著しく不足しているEMDEsに確実に投資が行き渡るよう、さらなる取り組みが必要、との認識を示した。
報告書はまた、昨年過去最高の1兆3,000億ドルの投資額に達した電力部門について、太陽光発電に投入される投資額が、2024年には5,000億ドルを超え、他のすべての発電技術を合計した投資額を上回ると予測。今後、太陽光発電モジュール価格の低下により、成長のペースは若干鈍化する可能性があるものの、太陽光発電は電力部門の変革の中心であることに変わりはないとの見方を示した。また、2015年には、クリーン電力と化石燃料発電への投資の比率はおよそ2対1だったが、2024年にはこの比率が10対1にまで達すると予測している。
原子力発電への投資に関しては、2024年には800億ドルに達し、過去10年間で最低だった2018年のほぼ2倍の規模となる見通し。ただし、今後数年間の支出増のほとんどは、原子力発電の新規建設への投資ではなく、既存の原子力発電所のバックフィットや運転期間延長に向けられるものとみられている。報告書は、2023年に新規着工した国は中国とエジプトのみ(計600万kW)と指摘したうえで、既存炉に対する追加投資がなされているものの、新規建設が進まず停滞を続けている現状に懸念を示した。
なお、アジア地域では、2050年カーボンニュートラルをめざす韓国が、2023年に発表した「国家カーボンニュートラル・グリーン基本計画」において、再生可能エネルギーとともに、原子力発電の大幅拡大を盛り込んだ。また、報告書は、世界のクリーン・エネルギー投資の3分の1を占め、再生可能エネルギーの増加が目覚ましい中国で、過去5年間に1,100万kWの原子力発電設備容量が導入されたとし、世界的にも大規模な開発が進められている現状を指摘した。