原子力産業新聞

海外NEWS

カザフスタン 原子力発電所新設をめぐり国民投票を今秋実施へ

05 Jul 2024

桜井久子

©President of the Republic of Kazakhstan's Office

カザフスタンのK.-J. トカエフ大統領は6月27日、同国での原子力発電所新設に関する国民投票を今秋実施する方針を明らかにした

トカエフ大統領は、メディアに対し、「エネルギーの安定供給なくして経済発展はない。カザフスタンには原子力開発の大きな可能性があるが、原子力は正しく、効果的に利用することが重要だ。すでに原子力について、幅広く、様々な視点から議論がされており、メディアもこのプロセスに積極的に参加すべきだ」と指摘。「原子力発電所建設の最終的な決定は国民がするもの。このため、国民投票を今秋に実施する。政府が正確な日付を決定する」と表明した。同大統領は、昨年9月1日の国民へのメッセージの中で、原子力発電所建設について包括的で幅広い議論を継続し、国民投票を実施する必要性を強調していた。

カザフスタンのエネルギー省は昨年8月、カザフスタンの原子力発電の新設に向けた諸活動の進展状況を公表。サイトについては、アルマティ州のジャンブール地区にあるバルハシ湖西南に位置するウルケン村を選定。炉型については、建設と運転経験で実証済みの以下の炉型を候補に挙げている。

  • 中国核工業集団公司(CNNC)製「華龍一号(HPR-1000)」(100万kW級PWR)
  • 韓国水力・原子力会社(KHNP)製「APR1400」(140万kW級PWR)
  • 露ロスアトム製VVER-1200(120万kW級PWR)またはVVER-1000(100万kW級PWR)
  • フランス電力(EDF)製EPR-1200(120万kW級PWR)

また、建設予定地があるアルマティ州や近隣の州で、原子力発電所建設をめぐり、地元住民を交えた公開討論が複数回実施されている。

化石燃料資源が豊富なカザフスタンでは、総発電電力量のうち7割を石炭火力が、2割を天然ガス火力が占めている。ウラン生産については世界トップクラスの生産量(世界シェアの約40%)を誇り、燃料ペレットや燃料集合体の製造も行っている。旧ソ連時代にはカスピ海沿岸のアクタウに建てられた熱電併給・海水脱塩用の高速炉「BN-350」(出力15万kW)が1973年から1998年まで営業運転していた。現時点で国内に原子力発電所はないが、研究炉を含む原子力研究開発が国立原子力センターを中心に行われている。

政府が2022年3月に制定した「2035年までのエネルギーバランス」では、増大する電力需要に応えるため、2035年までに最大240万kWeの原子力発電所の新設など、発電設備1,750万kWeを増強し、2035年までに石炭火力発電を40%削減、2060年までにカーボンニュートラルの達成を掲げている。なお、「代替エネルギー源の利用に関する」法案について7月27日を期限とする公開協議向けの資料の中では、国民投票で承認された場合を想定し、最初の原子力発電所の建設に100億~120億ドル(約1.6兆~1.9兆円)の予算が計上されている。

政府は大型炉のほか、小型モジュール炉(SMR)についても国内建設の可能性を模索している。エネルギー関係の政府系投資ファンド「サムルク・カズィナ国家福祉基金」が2014年7月に設立した有限責任事業組合「カザフスタン原子力発電所」(KNPPは2021年12月、米ニュースケール・パワー社製のSMRを複数備えた発電設備「VOYGR」の建設可能性を評価するため、同社と了解覚書を交わしている。

cooperation