原子力産業新聞

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スイス 原子力発電所新設禁止を撤廃へ

05 Sep 2024

大野 薫

ベツナウ原子力発電所 🄫AXPO

スイス連邦政府は8月28日、国内のエネルギー安全保障強化に向け、原子力発電所の新規建設禁止を撤廃する考えを表明。A. レスティ環境・交通・エネルギー・通信大臣は、長期的な視点から増大する電力需要に対応するため、原子力発電を含む、あらゆる選択肢を堅持する必要性を強調した。

スイスでは、2011年の福島第一原子力発電所事故後、50年の運転期間を終了した原子炉を2034年までに段階的に閉鎖する方針を政府決定。その後、2018年1月1日に施行した改正エネルギー法では、安全である限り、既存の原子力発電所の運転継続が認められた一方、原子炉廃止後のリプレース(新規建設)や使用済み燃料の再処理は禁止された。

スイスでは昨今、2050年ネットゼロ目標の達成、人口増加に伴う電力需要の増加、地政学的な不確実性などにより、エネルギー事情は一変。今年2月には、原子力発電所の新規建設禁止に異議を唱える中道右派政党が中心となり、約13万もの署名を集め、「いつでも誰でも電気を(停電を阻止せよ)(Electricity For Everyone At All Times[Stop Blackouts])」イニシアチブ(国民発案)を発議した。同イニシアチブは主に、気候変動に配慮したあらゆる電源を認め、化石燃料に依存しないすべての技術によるエネルギー生産の権利を連邦憲法に明記するほか、原子力発電所の新規建設禁止の撤廃などを求めている。

しかし、連邦政府はこのイニシアチブに対して反対を表明。その理由として、①連邦憲法は、すでに幅広いエネルギー供給を規定しており、原子力発電所の新規建設禁止の撤廃のために憲法改正は必要なく、立法レベルでの調整で十分、②連邦が電力供給の安全保障に責任を持つよう、連邦憲法への明記を求めているが、憲法は既に、連邦と州がそれぞれの権限の範囲内でエネルギー供給に尽力しなければならないと規定済み、③電力不足の場合の予備電源の稼働可能性が不透明で、電力供給に新たな不確実性をもたらす可能性――を挙げた。今後、連邦政府は同イニシアチブの対案として、原子力法の改正案を策定し、来春以降、連邦議会でそれらを審議する予定だ。

今回の連邦政府の発表について、スイス原子力協会(SVA)は、新規建設の禁止撤廃は、安全面かつ気候面に配慮した電力供給に向けた重要な一歩となると歓迎。その一方で、同協会は、国内での新規建設プロジェクトを可能にするためには、許認可手続きの簡素化や計画・建設段階でのファイナンスなど、事業環境整備の必要性などを強調した。

スイスでは現在、ベツナウ1、2号機(PWR、38.0万kW×2基)、ゲスゲン(PWR、106.0万kW)、ライプシュタット(BWR、128.5万kW)の計4基・310.5万kWが運転中。2023年の原子力発電電力量は234億kWh、原子力シェアは32.4%だった。

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