原子力産業新聞

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IAEA総会が開幕 上坂原子力委員長が処理水の海洋放出の安全性を強調

18 Sep 2024

木下雅仁/桜井久子

IAEA総会で演説する上坂原子力委員長

国際原子力機関(IAEA)の第68回通常総会916日から20日の日程でオーストリアのウィーン本部で始まった。

開会の冒頭ではIAEAR.M.グロッシー事務局長が演説し、「世界が現在直面している課題に克服できないものは何もない」「課題解決にIAEAの役割と使命は不可欠だ。そして確かに、私たちはかつてない緊張と不確実性の時代にいるが、ここでの我々の仕事の絶対的な重要性を忘れてはならない」と各国代表を前にその決意を表明。その上で、同事務局長は「世界の平和と安全を支えてきた核兵器不拡散体制の崩壊を防ぎ、戦争時に原子力安全とセキュリティが確実に行き渡るようにすることも重要だ。また、原子力技術の効率的な応用を通じ、世界中の貧困と困難を減らしていく」と、IAEAが果たす幅広い役割を強調した。

同事務局長はまた、最も重要な問題の一つに気候変動があると指摘。現在世界で生産されているクリーンエネルギーの約4分の1が原子力発電によるものであり、「昨年のドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、出席したすべてのメンバーから、原子力発電を加速すべきであるという世界的なコンセンサスが得られた」と述べ、今年11月にアゼルバイジャンのバクーで開催されるCOP29においてもこの取組みの継続に期待するとした。なお、IAEAは総会の初日、「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」を発表。高予測シナリオでは、世界の原子力発電設備容量は2050年までに現在の2.5倍に増加し、低予測でも1.4倍の増加になると示すなど、4年連続で上方修正している。

同事務局長はさらに、ウクライナのザポリージャ原子力発電所でIAEAの専門家が現地駐在しながら活動を継続し、最近ではロシアのクルスク原子力発電所を訪問したことに言及、「原子力発電所は、その立地場所にかかわらず、いかなる状況においても攻撃されるべきではない」と繰り返し表明した。

これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した上坂充原子力委員長が登壇。変動する国際情勢や科学技術の進歩の中で、IAEAの役割の重要性を指摘するとともに、日本は、原子力の平和利用、原子力安全、核セキュリティ、保障措置の3S、および地域の不拡散問題を重視する立場を表明した。

上坂原子力委員長は、原子力安全を最優先とした、原子力発電所の再稼働や運転期間延長への取組み、次世代先端技術の研究開発、国際協力を通じたサプライチェーンの強化への取組みについて紹介。また、医療、農業、環境など幅広い分野への応用が期待されている原子力技術について、IAEAのイニシアチブである、放射線を用いたがん治療の能力強化「Rays of Hope」や、食料安全保障のための原子力技術の活用「Atoms4Food」への強い支持を表明するともに、医療用放射性同位元素の国産化に注力していることに言及した。さらに、次世代エネルギーである核融合の早期実現に向けた取組みについても紹介した。

同委員長はまた、日本は、福島第一原子力発電所の事故の経験と廃炉による知見を国民と近隣諸国を含む国際社会と共有していることに触れ、ALPS処理水の海洋放出の安全性は、IAEAや専門家によるモニタリングとレビューにより裏付けられており、ALPSで十分に浄化された後、海水で希釈されて排出され、人や環境への影響はなく、処理水を汚染水と表現することは適切ではない、と改めて強調した。廃炉への取組みについては、難易度の高い燃料デブリ取り出し作業を含む新たなフェーズへ移行している現状を紹介。なお、核セキュリティの最高水準の確保のため、国際社会に潜在的な脅威となり得る核物質の在庫を最小限に抑える取組みや、3S実現に不可欠なグローバル人材育成事業について言及。核不拡散の要となるIAEAの保障措置の強化と効率化に向けた活動を引き続き支援していくとともに、国内外の関係者との関係強化を図り、国際社会に対して透明性のある説明を行っていくとした。

さらに、不拡散問題については、日本は北朝鮮問題、イラン核問題の解決を重視しているとし、特に、北朝鮮に対し、全ての核兵器を完全で検証可能かつ不可逆的な方法で放棄することを強く求め、関連する国連安保理決議をすべての加盟国が完全に実施することの重要性を改めて訴えた。また、ウクライナにおける原子力安全・セキュリティの確保を強く支持すると述べ、厳しい国際環境におけるIAEAの献身的な努力への謝意を示すとともに、日本が引き続き最大限に支援していくと表明した。

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例年通りIAEA総会との併催で展示会も行われている。日本のブース展示では、「日本の最先端の原子力技術」をテーマに、GX実現にむけた原子力政策、高温ガス炉や高速炉サイクル、革新軽水炉開発などを紹介している。展示会初日には、日本政府代表である上坂原子力委員長がブースのオープニングセレモニーに来訪。同委員長は挨拶の中で、脱炭素化などエネルギー情勢の変化に対応するため原子力エネルギーの分野でイノベーションが必要だとするとともに、25周年を迎えたアジア原子力協力フォーラムについて言及、原子力は発電以外に幅広い放射線利用により社会に貢献していると述べた。

この後、日本原子力産業協会の増井理事長による乾杯が行われ、福島県浜通り地方の日本酒がブース来訪者に振舞われるなどした。

 

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