ロシア:事故耐性燃料の原子炉試験で第一段階が完了
01 Nov 2019
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社の傘下で、核燃料の濃縮・転換・成型加工を担当するTVEL社は10月31日、同国で初めて軽水炉用に開発した事故耐性燃料(ATF)の原子炉試験で第一段階が完了したと発表した。
同社は今年1月、ウリヤノフスク州ディミトロフグラードにある国立原子炉科学研究所(RIAR)で、ロシア型PWR(VVER)用と外国製PWR用の実験集合体2体を、所内のMIR材料試験炉に装荷。同炉の水流ループで設計外事象発生時のATFの耐性を試験するため、それぞれ2種類の燃料ペレットと被覆管を使って、合計4通りの異なる材料を組み合わせたATF燃料棒を1体に付き24本ずつ組み込んでいた。
同社は今後、原子炉試験をさらに拡大していく方針で、2020年はATF燃料棒を含めた(取替用燃料1回分の)実験集合体を商業用の100万kW級VVERに装荷する計画。また、新たな有望材料を燃料ペレットと被覆管に組み合わせて、最適なATFを模索していくとしている。
今回の原子炉試験でTVEL社は、被覆管としてジルコニウム合金にクロムをコーティングしたものと、クロムとニッケルによる合金製を使用。燃料ペレットについては、従来型の二酸化ウラン製のものに加え、高い密度と熱伝導率を持つウランとモリブデンの合金を使った。
初回の照射サイクルを終えたこれらの実験集合体は、すでにMIR材料試験炉から取り出されており、モスクワにあるロシア無機材料研究所(VNIINM)の専門家が予備的な試験を実施。その結果、燃料棒の形状や被覆管表面に変化や損傷は認められなかった。また、それぞれの燃料集合体から燃料棒を何本か抽出して照射後材料科学研究を行っているほか、未照射の燃料棒をさらにMIR材料試験炉に装荷する試験も実施中だとしている。
ロシアのATFコンセプトは、冷却材の喪失など、原子力発電所で過酷な設計基準外事象が発生した際の耐性を高めることが主な目的。炉心からの崩壊熱除去に失敗した場合でも、ATFは蒸気とジルコニウムの反応によって水素が発生するのを抑えつつ、長時間にわたって健全性を維持するよう設計されており、ATFは原子力発電所に全く新しいレベルの安全性と信頼性をもたらすとTVEL社は指摘している。
(参照資料:TVEL社(ロシア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月31日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)