IAEAの新報告書「気候変動と原子力発電」、資金調達に焦点
24 Oct 2024
© IAEA
国際原子力機関(IAEA)はこのほど、「気候変動と原子力発電」に関する報告書2024年版を発行した。原子力発電の拡大目標を達成するためには、投資を大幅に増やし、強固な資金調達の枠組みの必要性があると指摘し、その課題とベストプラクティスに焦点を当てている。
IAEAは報告書の中で、各国がエネルギー安全保障の強化と経済の脱炭素化を目指す中、原子力発電への関心が世界中で高まりをみせているが、2050年ネットゼロの達成には、クリーンエネルギーの急速な拡大が必要であり、原子力発電は重要な役割を果たすと明言。IAEAの高予測シナリオでは、2050年までに原子力発電の設備容量が現在の2.5倍の9.5億kWeになると予測している。
報告書によると、2050年の原子力発電設備容量に関するIAEAの高予測を達成するには、2017~2023年までの年間約500億ドル(7.6兆円)を上回る、年間1,250億ドル(約19兆円)の投資が必要であるという。昨年、UAEのドバイで開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)で日本をはじめとする米英仏加など25か国が、2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させるという野心的な「原子力の三倍化宣言」に署名したが、その実現には年間1,500億ドル(約22.8兆円)が必要になるとした。
一方、原子力プロジェクトは、投資家の信頼を得るため、建設コストの予見可能性確保による金融リスクの軽減が不可欠であり、特定のリスク管理には政府の関与が依然として重要であるものの、民間部門の財政的関与が益々現実的になってきていると評価。具体的な動きとして、今年9月下旬、ニューヨークで開催された気候イベント「Climate Week」のサイドイベントにおいて、世界有数の14の大手金融機関による、原子力発電所の新規建設プロジェクトへの資金調達の支援表明を挙げた。また、グリーンボンドやグリーンローンなどの金融メカニズムが、保証と相まってリスクを軽減し、より広範な投資家の参加のためのツールを提供する、と指摘。欧州の持続可能な経済活動の分類である「EUタクソノミー」において、原子力が一定の条件で含まれたことが好影響をもたらしているとしたほか、2023年のフィンランドとフランスにおける原子力発電向けの初のグリーンボンドの発行や、フランス電力(EDF)と金融機関とのグリーンローン契約締結を例示した。今後、商業銀行の関与が更に促進される可能性に触れる一方で、特に金融市場が黎明期にある開発途上国では、多国間開発銀行が支援的な役割を果たす可能性があると分析している。
IAEAのR. グロッシー事務局長も、「原子力発電は、ほぼ1世紀にわたる運転期間全体を通じて、手頃な価格でコスト競争力があるが、初期費用を賄うことは、特に市場主導型の経済や開発途上国で課題となる可能性がある」と述べ、「民間の金融部門が資金調達に貢献する必要性はますます高まるが、他の機関も同様だ。IAEAは原子力発電への投資に関して、途上国がより多くの、より良い資金調達オプションを確保できるよう、多国間開発銀行とその役割について協議中である」と説明した。
本報告書は、10月3日、ブラジルで開催された第15回クリーンエネルギー大臣会合(CEM15)の枠内で、IAEAとCEMの「原子力イノベーション:クリーンエネルギーの未来(NICE)」イニシアチブが共同開催したサイドイベントで発表された。CEMは、クリーンエネルギー技術を進歩させるための政策とプログラムを推進し、学んだ教訓とベストプラクティスを共有するハイレベルな国際フォーラム。
サイドイベントでは、クリーンエネルギーへの移行に向けた資金調達が主要議題として予定されている、11月11~22日にアゼルバイジャンのバクーで開催されるCOP29を見据え、ブラジル、IAEA、国際エネルギー機関(IEA)、米国の講演者が登壇し、原子力発電プロジェクトへの資金調達を確保する最善策について意見交換を行った。
報告書では、新興国・途上国(EMDEs)における資金ギャップを埋め、クリーンエネルギーへの移行を加速させるためには、政策改革や国際パートナーシップを含む多面的なアプローチが必要であると勧告している。強固な規制の枠組み、新たな実現モデル(特にSMR向け)、熟練労働者の育成、包括的なステークホルダー・エンゲージメント戦略により、持続可能なエネルギーへの投資の新たな道が開かれる可能性を示唆。原子力規模、労働力、サプライチェーンの開発を支援する、革新的な資金調達メカニズムと、世界の気候目標の達成における原子力の重要な役割に対する認識の高まりを背景に、IAEAは、原子力の資金調達の広範な受け入れと支援へのシフトに協力していくとした。