次世代炉導入に向け各国が協力体制を構築
04 Dec 2024
DOEのJ. グランホルム長官とリトアニアのD. クレイビス・エネルギー相が協定に調印© Ministry of Energy of the Republic of Lithuania
SMRなどの革新的な原子炉の導入に向け、各国が協力体制を構築している。このほど米国はリトアニアと政府間協定を、英国はフィンランドと協力覚書を締結した。
米エネルギー省(DOE)のJ. グランホルム長官とリトアニアのD. クレイビス・エネルギー相は11月26日、米国のワシントンで、リトアニアの民生用原子力発電プログラムの開発に協力する政府間協定を締結した。
同協定は、特に第4世代小型モジュール炉(SMR)のリトアニアへの導入に焦点を当てた、米国初となる政府間枠組み。米国は、リトアニアと次世代炉開発における知見を共有するとともに、第4世代のSMRのビジネスモデル分析と開発可能性評価を実施し、リトアニアが掲げる2050年までのネットゼロ達成目標を支援する。リトアニアは、2025年2月に同国を含むバルト三国がロシアの電力網から完全に切り離され、欧州の電力網に接続する予定で、欧州域内でエネルギー輸出国としてシェアを拡げたい考えだ。
協定ではSMR導入に係る協力に加えて、リトアニアにおける最高水準の安全とセキュリティの促進や民生用原子力施設の核物質防護・セキュリティの強化のほか、廃止措置、燃料管理、人材育成に係るベストプラクティスなどを協議する専門家交流も想定している。
グランホルム長官は「安全、クリーンで信頼性の高い原子力エネルギーは、リトアニアのエネルギー政策上のカナメとなる」と強調。クレイビス・エネルギー相は、「リトアニアの増大するエネルギー需要を満たし、ネットゼロ目標の達成のため、米国の次世代炉開発の知見に期待している」と述べるとともに、リトアニアの地政学的な安全保障、長期的な経済成長、技術力向上にも資する、本協定の意義を強調した。
リトアニアでは、イグナリナ原子力発電所(軽水冷却黒鉛減速炉:RBMK-1500×2基、各150万kWe)が1980年代から稼働していたが、欧州連合(EU)は、チョルノービリと同型であるRBMK炉の安全性への懸念から閉鎖を要求、リトアニアはEU加盟と引き換えに同発電所を2009年までに閉鎖した。イグナリナ原子力発電所近傍のヴィサギナスに日立製作所が主導する新規原子力発電所プロジェクトも浮上したが、福島第一原子力発電所の事故により、原子力発電に対する国民の支持は低下。2012年の同プロジェクトへの支持を問う国民投票では、新規建設に対する否定的な意見が優勢となり、計画は2016年に凍結された。
リトアニアの総発電電力量は約57億kWh(2023年実績)で、その内、約73%を再生可能エネルギー(風力、太陽光、水力)、約11%を火力発電(天然ガス)が占める。現在の電力消費量は約120億kWh。エネルギー部門の脱炭素化と電化には大量の追加電源が必要であり、2050年代には約6倍の740億kWhへの増大を予想する。そのため、エネルギーシステム全体の均衡を保ち、再生可能エネルギーへより多く投資することを可能にするSMRの導入を推進したいとし、2028年にはSMR建設の決定を目指している。
英国はフィンランドと
一方、英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)とフィンランド経済雇用省は11月18日、民生用原子力エネルギー分野における協力覚書(MOU)を締結した。
協力の対象分野は、SMRや先進モジュール炉(AMR)のような革新技術の導入、既存・新設炉を対象とした燃料供給の多様化、SMRやAMRの効率的な導入に係わる規制組織間の意見交換、資金調達、使用済み燃料最終処分を含む放射性廃棄物管理と廃炉、原子力安全とセキュリティ、人材育成など。これらの分野で知見やベストプラクティスを共有し、両国の産官学の政策・技術・学術関係者の交流や、民間企業間の緊密な協力によるビジネスの機会の促進を図る。
両政府は、SMRやAMRなどの新原子力技術が、エネルギーセキュリティと気候変動の双方に革新的な解決策となる可能性を認識。発電だけでなく、熱生産および水素製造、その他の非電力用途の原子力技術の研究開発でさらに協力する機会を模索したいとしている。
今回のMOUにより、英国の輸出信用機関である英国輸出信用保証局(UKEF)は、英国の商品やサービスを購入するフィンランドを拠点とするプロジェクトに対し、最大40億ポンド(約7,600億円)の融資支援が可能となる。UKEFは、英国製SMRのフィンランドへの導入を念頭に置いている。フィンランドの輸出信用機関であるフィンベラ(Finnvera)も、フィンランドの商品やサービスを購入する英国を拠点とするプロジェクトに対して同様に資金提供が可能になるという。