セルビアが原子力のモラトリアムを解除 35年ぶり
13 Dec 2024
覚書調印式(2024年7月)。中央にブチェビッチ首相、向かって右側にハンダノヴィッチ鉱業・エネルギー相。© The Government of the Republic of Serbia
セルビア共和国の議会は11月27日、エネルギー安全保障の確保に向けて、エネルギー法改正法案を採択した。これにより、旧ユーゴスラビア時代の1989年、チョルノービリ事故から3年後に施行された原子力発電所建設のモラトリアムが、35年ぶりに解除された。
原子力利用については、今年3月にベルギー・ブリュッセルで開催された原子力エネルギー・サミットを契機にセルビア国内で議論が高まった。同サミットには、セルビアのA. ブチッチ大統領が出席。同大統領はサミット到着時に、「セルビアが過去に下した決定がどれほど誤っていたか、将来にどれほどの電力不足に直面するのかは明らか。原子力なしでは、セルビアは科学技術の進歩や電気自動車の普及に遅れをとることになる」「セルビアは、脱炭素化、エネルギー安全保障の確保、経済発展の促進に貢献する原子力の役割を認識し、これらの課題に体系的に取組む用意のある信頼できるパートナーだ」と記者団に語った。各国首脳による演説時には、小型モジュール炉(SMR)×4基、出力計120万kWeの導入への関心を表明し、「セルビアには原子力利用に関するノウハウもなく、プロジェクトを実施する資金力も不足している」として、他国からの支援を期待した。
今年7月にはセルビアの5つの省庁と20の科学・学術機関や研究所との間で、原子力発電の開発に関する覚書が調印された。調印式に出席したM. ブチェビッチ首相は「これは、1980年代に国家が、原子力発電を禁止した過ちを正すもの。電力分野への投資は戦略的なものであり、国の主権に係ることに疑いの余地はない」と指摘した。
D. ハンダノヴィッチ鉱業・エネルギー相は、今回の改正法案の採択後、自身のソーシャルメディアで「原子力発電所の建設のモラトリアムが35年ぶりに解除された。今日、新たな歴史が作られた」と発信。併せて、エネルギーセキュリティの確保とエネルギー部門および国家経済全体の脱炭素化の促進を目的とする、2050年までの予測を含む2040年までのセルビアのエネルギー開発戦略の採択を発表した。セルビアの総発電電力量の約60%は石炭・褐炭火力に依存し、大気汚染による環境・健康問題が深刻化している。同戦略では、石炭・褐炭火力を代替する再生可能エネルギーの発電能力を強化、あらゆる分野でエネルギー効率の向上をはかるとともに、送配電ネットワークのさらなる開発と改善、石油とガス供給の多様化、水素利用の拡大等への大規模な投資を構想。2040年以降に原子力を導入できないか検討している。