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英政府 新規建設支援で規制緩和の方針を発表

12 Feb 2025

桜井久子

英スターマー首相とミリバンドDESNZ大臣がNNLの施設を訪問 @Keir_Starmer /X

英政府は26日、K. スターマー首相の掲げる「変化に向けた計画(Plan for Change)」の一環で、原子力を活性化するというマニフェスト公約を実現すべく、英国の新規原子力発電所の建設に向けた規制緩和の方針を発表。イングランドとウェールズで多くの原子力発電所の建設が承認される見通しとなった。

今回の規制緩和により、小型モジュール炉(SMR)を英国で初めて建設する道を開くとともに、何千もの新たな高レベルの雇用を創出、英国全土にクリーンで安全かつ低コストのエネルギーを供給し、経済成長を実現させる計画。スターマー首相は英国を原子力エネルギーの世界競争に復帰させると、意気込んでいる。

英政府による最近の計画法の改正、インフラプロジェクトに係る司法審査の現在の3から1回への制限、環境規則への常識の適用に続き、成長を優先させるため、時代遅れの規則を破棄し、NIMBY[1]公共に必要な施設だということは認めるが、それが自らの居住地に建設されることには反対する住民やその態度を意味する。にノーを突きつける動きと評価されている。サイズウェルC(SZC)を含め、英国の主要なインフラプロジェクトは計画決定に際し、地元の反対運動家などによる訴訟の結果、訴訟費用と不確実性の増加に見舞われていた。

今回の発表では、「英国は長きにわたり、決定が『困難すぎる』とか『長期にわたる』という理由で、遅延や妨害に悩まされてきた。英国は世界初の原子炉開発国であるが、1995年のサイズウェルBの運転を最後に原子力発電所の建設は行われておらず、よりクリーンで安価なエネルギーの利用をめぐる世界的な競争において、遅れをとっている」と言及。「英国の原子力産業界は、規制によって息の根を止められ、投資は崩壊。現在建設中の発電所はヒンクリーポイントCHPC)のみ。企業が計画許可を取得するために3万ページに及ぶ環境アセスメントを作成するなど、不必要な規則によって何年も遅延が生じた」「投資家たちは、信頼性が高く安価な原子力発電所の建設を急ぎ、英国の野心的な計画を支える重要な近代的なインフラ、例えばスーパーコンピューターなどを支援したくとも妨げられてきた」と、これまでの状況を説明している。

英政府は、全国的に原子力発電所の建設を容易にするために計画規則(Planning Rules)を改正し、雇用を創出、長期的には電気料金の引き下げ、そして国民に多くの収入をもたらす方策として以下を掲げる。

  • 計画規則に初めてSMRを含め、企業が必要とする場所で建設を可能にする。
  • 原子力発電所の建設は既存の8サイト限定を廃止。原子力発電所はイングランドとウェールズであれば、どこでも建設が可能に。
  • 原子力発電所の計画規則の有効期限を撤廃。プロジェクトが期限切れにならず、長期的な計画が可能に。
  • 首相直属の原子力規制タスクフォースを設置。より多くの企業が英国に原子力発電所を建設できるよう、規制の改善を主導する。

スターマー首相は、「英国では何十年も原子力発電所が建設されていない。我々は失望させられ、取り残されてきた。英国のエネルギー安全保障は、プーチン(露)に長きにわたり人質に取られ、彼の気まぐれで英国のエネルギー価格が急騰してきた。この状況に終止符を打つ。原子力発電所の建設を支援するルールに変更し、安価なエネルギー、成長、雇用というチャンスへの長きにわたる妨害者たちにNoを突きつける」「現政権は変化をもたらすために選ばれた。英国を現状維持の眠りから引きずり出し、変化に向けた計画を加速させるために必要な抜本的な決断を下す」と強調した。

英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のE. ミリバンド大臣は、「建設、建設、建設(Build, build, build)が英国のクリーンエネルギー計画のすべて。英国民は長い間、世界的なエネルギー市場で脆弱な立場に置かれてきた。唯一の解決策はクリーンな電力の新時代を築くことだ」と語った。

英国では現在、原子力発電所の建設が8サイトに限定されているが、これは2011年以降見直されていない時代遅れの計画規則の一部。更新される計画枠組みは、投資プロセスを合理化し、開発業者がプロジェクトに最適なサイトを特定、より幅広い選択肢からの開発を可能にするもの。開発業者は、計画プロセスの事前申請段階でできるだけ早く候補地を提示することが奨励され、全体的なスケジュールが早まることが期待される。また、初めてSMRなどの先進技術が盛り込まれ、AIデータセンターなどのエネルギー集約型産業施設との併設に柔軟性をもたらすとしている。SMRは従来の原子力発電所よりも建設費が安く、工期も短い上、必要なサイト面積も狭いため、より多様な場所に建設できる。但し、人口密集地域や軍事エリアによる制約、地域社会の関与、高い環境基準などの立地に関する厳格な基準も引き続き維持するとしている。

英国は現在、原子力発電所の建設に最もコストが掛かる国のひとつと考えられている。立地プロセス改革と並行して、タスクフォースが高い安全基準とセキュリティ基準を確保しながら、投資を促し、新しい原子炉設計の承認の迅速化と、開発業者と規制当局との関わりの合理化を目指す。具体的には、英国を国際パートナーとより緊密に連携させ、海外で承認された原子炉設計の迅速な承認するほか、高コストな変更を最小限に抑制し、重複する問題を扱う複数の規制当局が存在する場合、重複を減らし、プロセスを簡素化する方法を検討、規制上の決定が安全かつ均衡のとれたものとする作業が含まれる。この作業は、ヒンクリーポイントCHPC)などのプロジェクトが直面している問題の解決に役立つという。HPCでは、欧州の3つの規制当局が原子炉設計について異なる評価を下したことが遅延とコスト増の原因と指摘されている。

スターマー首相とミリバンドDESNZ大臣は26日、ランカシャー州にある英国立原子力研究所(NNL)のプレストン施設を訪問。新設を加速するという政府方針を受け、研究所員らと意見交換を行った。NNLは民間国立研究所として、英国全体に原子力発電のメリットを確実に届け、英国をクリーンエネルギー大国にするために貢献したいと表明した。


原子力発電による経済効果

EDFエナジー社は127日、英経済コンサルタント会社による、既存8サイトの原子力発電所による経済的影響の調査報告を公表。これまでに英国経済に1,230億ポンド(約23.4兆円)の貢献をしてきたことを明らかにした。

1976年から現在にかけて運転している、改良型ガス冷却炉(AGR)を有する7サイトの発電所と、1995年に運転開始した加圧水型炉(PWR)の1サイトの発電所が調査の対象。総額1,230億ポンド(粗付加価値:GVA)は、発電電力や年31,000人もの直接・間接雇用、50年近くにわたるサプライチェーンへの投資の結果である。サプライチェーン支出の90%以上が英国内を拠点とする約1,500社に向けられており、国内サプライチェーンへのプラスの影響を強調している。また、これらの原子力発電所の稼働により約2.1kWhを発電し、11億トンのCO2排出の回避に貢献したと言及。これは英国の自動車からの16年間のCO2排出量に相当するという。

EDFエナジー社によると、2024年の英国の原子力発電電力量は373kWhで安定しており、少なくとも2027年までこのレベルを維持したい考えだ。同社は202412月、4サイトで運転中の8基の改良型ガス冷却炉(AGR)すべてを運転期間延長することを決定している。


SZCプロジェクトが順調に進捗

EDFエナジー社がイングランド東部サフォーク州で建設を計画するSZCプロジェクトの共同マネージングディレクターらが、国会における“Nuclear Week”の期間中の128日、SZCプロジェクトの進捗状況を国会議員に報告した。EPR-1750(172kWe)を2基建設するSZCプロジェクトはその大半を政府が所有し、現在はサイト内で土木工事が進行中である。

ディレクターらは、コンサル会社のプロジェクトに対する独立評価が、EPR建設プロジェクトにおける大幅なスケジュールおよびコスト超過につながった落とし穴を回避できる可能性が高いと結論づけたことを報告。また、同プロジェクトが予定通り予算内での完成が予定されていることや、HPCの設計の複製により、これまでに10億ポンド(約1,905億円)の開発コストを削減し、英国全土の290のサプライヤーと25億ポンド(約4,762億円)相当の契約がすでに合意されていること、最終的に英国全土で7万人以上の雇用の創出や建設費の70%以上が英国企業に支払われ、ライフサイクルを通じて英国への1,000億ポンド(約19.1兆円)以上の経済効果が予想されていることなどを報告した。

脚注

脚注
1 公共に必要な施設だということは認めるが、それが自らの居住地に建設されることには反対する住民やその態度を意味する。

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