スペイン議会 脱原子力政策の撤回提案を承認
17 Feb 2025
スペイン国会(下院)の本会議で2月12日、中道右派の国民党(PP)が提出した、スペインの原子力発電所の運転期間延長と安全性向上を政府に求める非立法提案が、賛成171票、反対164票、棄権14票の僅差により、原案のまま可決された。
スペインでは2018年6月の中道左派の社会労働党(PSOE)への政権交代を機に、原子力発電所を段階的に閉鎖・廃止する方針へと転換。現状の政策では、2027~2035年までに運転期限を迎える原子力発電所は順次閉鎖される予定となっており、スペインの原子力発電設備容量は2030年末までに約210万kWに縮小し(現在運転中の7基中5基が閉鎖)、2035年にはゼロとなる予定である。
今回議会が承認した提案文書は、原子力発電の段階的廃止という国の決定を覆す一連の措置を実施するよう促すものであり、政府に以下の8項目を要望している。
- スペイン国内の既存の原子力発電所の運転期間を、技術的および経済的な観点から、欧州の規制、スペインの原子力安全委員会(CSN)の指針、および原子力発電事業者と協議して延長する。
- エネルギー移行における原子力の重要な役割を認識し、安全で安定した電力供給を保証し、電力市場価格の低下と温室効果ガス排出量の削減に貢献する原子力発電所の経済的持続可能性を確保する。
- スペインで運転中の7基の原子炉の閉鎖計画により影響を受ける自治体、地方自治体、地元当局、および産業界と対話する。
- 国家市場競争委員会(CNMC)および電力系統運用者(REE)に対し、改訂された国家エネルギー・気候計画(NECP)に盛り込まれた新たな予測を考慮に入れつつ、予定されている原子炉の閉鎖が経済に与える影響、およびエネルギー安全保障への影響を評価する報告書の作成を要請する。
- スペインの原子力産業が、EUのネットゼロ産業法がもたらす課題に貢献し、機会を捉えることができるよう対策を講じる。
- 気候変動とエネルギー移行に関する法律7/2021(2021年5月発効)の第10条を廃止する立法イニシアチブを導入する(この条項は、スペイン国内でのウランなどの放射性鉱物の探査、採掘、加工、および、これらの物質を取扱う核燃料サイクル施設に対する新規認可申請を禁止している)。
- 原子力発電事業者との協議を通じ、第7次放射性廃棄物総合計画、統合国家エネルギー・気候計画(NECP)2023-2030、承認済みの原子力発電所の閉鎖手順を見直す。
- これらの検討事項を国家エネルギー安全保障専門委員会に提示し、同委員会がスペインのエネルギー安全保障戦略を上記の要点に沿って修正するよう要請する。
スペインでは、PWR×6基、BWR×1基の計7基、合計出力739.7万kWeが運転中。1980年代前半~後半にかけて運転を開始し、現在、総発電電力量の約2割を原子力が占める。残りの約3割を火力発電(石炭、石油、大半がガス)、約5割を再生可能エネルギーで賄う。なお、最新のNECPでは、2030年には総発電電力量の81%を再生可能エネルギーで賄うことを想定している。
スペインは日本と同様、国内のエネルギー資源が乏しく、1950年代から原子力開発を開始。当初は米国やフランスから技術を導入し、1970年代のオイルショックを契機に開発を加速、これまでに10基を開発してきた原子力先進国の一つである。