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英コアパワー 海洋民生用原子力プログラムを発表

25 Feb 2025

桜井久子

サミットで講演するコアパワー社のボーCEO
Ⓒ CORE POWER

海洋分野の原子力利用プロジェクトを進める英国のコアパワー社は212日、2030年代半ばまでに浮揚式原子力発電所(FNPP)を市場に投入する米国主導の海事民生用原子力プログラム「リバティ(Liberty)」を初公表した。

コアパワー社が212日にテキサス州ヒューストンで開催した “New Nuclear for Maritime Houston Summit”で、同社のM. ボーCEOが発表したもの。リバティの由来は、第二次世界大戦中に米国で迅速かつ大規模に量産され、連合国による大西洋の戦いの勝利を可能にしたリバティ船にあるという。同プログラムは米国を拠点にFNPP用の最初の製造プラントを建設し、米国の原子力規制の枠組みを活用して、FNPPや原子力船の世界的な運用を目指している。

具体的には、先進炉を世界展開するために必要な規制およびサプライチェーンの枠組みを構築する。ボーCEOは、「リバティ・プログラムは、2.6兆ドル(約390兆円)規模の浮揚式原子力発電市場を開拓する。FNPPの建設は予定通りに予算内で完了するだろう」「経済活動の65%が沿岸地域で行われていることを考えると、原子力発電は新たな市場開拓が可能」と語った。

同プログラムの第1段階では、FNPPの大量生産するという。その後、FNPPの大規模展開で得たノウハウを、プログラムの第2段階である原子力船の開発に活かしたい考えだ。FNPPは、確立された造船プロセスを活用し、熟練した労働力と、造船所のモジュール生産ラインによって製造され、港湾や沿岸地域に停泊できるバージとなるほか、より沖合に停泊する大容量の発電所にもなるという。

FNPP
シリーズは、複雑なサイト準備を必要とせずに顧客の所在地まで曳航することが可能であり、造船所では、試運転、メンテナンス、燃料補給、廃棄物管理を実施する。従来の原子力技術とは異なり、溶融塩炉などの先進技術を採用。次世代炉は本質的に受動的な安全性を備え、大気圧に近い圧力で稼働するため、広大な緊急避難区域を設ける必要がなく、FNPPや原子力商業船の保険適応性が大幅に改善されるという。また、先進炉を搭載する船舶は設計寿命全体にわたって、わずか1回の燃料補給で済み、同時に廃棄物の発生量も最小限に抑えられる。原子力船は速度、効率、貨物積載能力の面で大幅な改善が見込まれている。

コアパワー社は現在、多様な先進炉開発企業と提携し、海上利用に最適化された原子炉の開発に取組んでいる。リバティ・プログラムでは、2028年にFNPPの受注を開始し、2030年代半ばまでに完全な商業化の実現を想定している。2030年までのロードマップの第1段階では、設計に加えて、ライセンス、保険、輸出管理に必要な枠組みの構築、第2段階では、サプライチェーンと労働力の開発、第3段階では、事業運営モデルの開発と製造拠点の構築にあたるという。加えて、国際海事機関(IMO)や国際原子力機関(IAEA)などと協力し、原子力船の民事責任条約の策定に取組み、国際的な安全およびセキュリティ基準の策定を支援するとしている。ボーCEOは、「当社のリバティ・プログラムは、重工業ならびに海上輸送分野に強靭なエネルギー安全保障をもたらし、世界貿易を変革する」と語った。

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