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スペイン産業界 政府に運転期間延長を訴え

06 Mar 2025

大野 薫

©Foro Nuclear

スペインで原子力事業を展開する企業が225日、同国の原子力発電所の長期運転を支持するマニフェストを発表した。この文書には、西EAGEmpresarios Agrupados-GHESA)社、仏フラマトム社、西GDES社、米GEベルノバ社、西IDOM社、米ウェスチングハウス(WE)社が署名し、他産業の企業からも賛同を得ている。マニフェストは、スペイン政府の原子力の段階的廃止政策による産業競争力と社会に及ぼす影響について懸念を示すとともに、国際的な潮流に沿った原子力発電所の長期運転の必要性を訴えている。スペインでは2月、議会が国内原子力発電所の運転期間延長と安全性向上を政府に求める非立法提案が可決されたばかり。

同マニフェストで、産業界が求めている主な事項は以下のとおり。

1. 2019年の原子力発電所の段階的廃止協定[1]政府は2019年、2035年までにスペイン国内の原子力発電所を段階的に閉鎖することで電力会社と合意。に関する対話と再交渉

現状とは大きく異なる国際情勢や社会・経済的背景等の下で結ばれた2019年の原子力発電所の段階的廃止協定について、対話と再交渉の開始を強く要請。原子力発電の代替電源を確保しないまま、2027年のアルマラス1号機(PWR,104.9kW)の閉鎖を皮切りに段階的廃止を進めれば、産業競争力の低下を招く。

2.影響を受ける地域経済と競争力に対する配慮

原子力部門を支える産業は、エンジニアリングや部品製造、支援サービスなど多岐にわたり、約2万人の高スキルな安定雇用を創出している。これらのインフラを早期に閉鎖へと追い込めば、地域経済に深刻な経済的・社会的打撃を与えるだけでなく、国全体の産業競争力やエネルギー関連のサプライチェーンにも影響を与えかねない。

3.エネルギー政策の見直し

スペイン政府と関係当局に対し、原子力エネルギーの継続性を確保する措置を盛り込んだ国家エネルギー・気候統合計画の改定を要請する。原子力は、信頼性の高い、効率的かつ競争力がある低炭素エネルギーとして認識されるべきであり、公正な投資環境が求められる。また、技術的・経済的基準に基づくエネルギー政策の推進を求めるとともに、原子力エネルギーがエネルギー移行に不可欠とする国際的な潮流に沿った政策を採用すべき。

4.持続可能な解決策としての原子力発電所の運転期間延長を

国際エネルギー機関(IEA)や欧州委員会(EC)、そして現実的かつ持続可能なエネルギー戦略を採用する他の欧州諸国の勧告に倣い、原子力発電所の運転期間を延長することは、エネルギー安全保障の強化や再生可能エネルギーの拡大とともに、エネルギーシステムの持続可能性を確保することに資する。他国からの地政学的な独立性も強化される一方、その実現には、現状の原子力発電税など過度な税負担等を考慮しつつ、原子力発電所の経済性確保が不可欠。

5.国内原子力発電所はバックフィット済み

スペインの原子力発電所はバックフィットが施され、技術、安全性、効率性の面で世界最高水準にある。世界の原子力発電所と同様、60年、あるいは80年という長期間の運転が可能。この卓越性は、電力の安定供給を保証するだけでなく、スペインの世界的な産業的地位を高める。

最後に、マニフェストは、原子力発電所の早期閉鎖が、高い環境的・経済的コストを伴い、原子力産業と関連部門において何千もの雇用を喪失すると改めて懸念を表明。さらに、技術面や人材面において深刻な損失を引き起こし、競争力のある持続可能なエネルギーインフラを維持する国力をも弱めると指摘した。また早期閉鎖は、データセンターやエネルギー集約型産業、小型モジュール炉(SMR)など、スペインの産業の再活性化に不可欠な産業部門への投資を阻害し、エネルギーインフラの脆弱な国での事業遂行を危惧した企業が国外へ流出する可能性についても言及している。

 

脚注

脚注
1 政府は2019年、2035年までにスペイン国内の原子力発電所を段階的に閉鎖することで電力会社と合意。

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