インドネシア 初となる原子力発電所建設の許認可手続きが開始
24 Mar 2025
インドネシアのPT Thorcon Power Indonesia(PT TPI)社は3月4日、インドネシア原子力規制庁(BAPETEN)に対し、米国のデベロッパーThorcon社製の先進的熔融塩炉を採用した実証プラント「Thorcon 500」(50万kWe)の建設に向けて、許認可手続きを開始したことを明らかにした。同国バンカ・ブリトゥン州のバンカ島の沖合にある、ケラサ島が同プラントのサイトとして提案されている。
シンガポールを拠点とするThorcon International社の子会社であるPT TPI社は2月13日、BAPETENに、サイト評価プログラム(PET)およびサイト評価管理システム(SMET)の承認を得るための申請書類を提出した。PT TPI社は、インドネシア史上初の原子力発電所の建設申請者。なお、インドネシアの国家エネルギー審議会(議長:大統領)が、Thorcon実証プラントを次の5か年計画に組み入れているという。
今回の申請は、約2年間にわたるBAPETENとの事前ライセンス協議に続くもの。2023年3月、両者は熔融塩炉(25万kWe)を2基搭載したThorcon 500の許認可取得に向けて3S(原子力安全、核セキュリティ、保障措置)の確保を前提に、協議を開始することで合意。プラント建設のためのマスタープラン文書のレビュー、原子炉プロトタイプおよび非核分裂性試験プラットフォーム(NTP)施設に係るロードマップに関する協議の他、許認可手続きに必要となる技術文書などの準備、および原子炉の設計承認について協議を行ってきた。PT TPI社は、審査プロセスにおいて迅速かつ徹底的な評価を確実にするために、BAPETENからのいかなるフィードバックにも全力で取組む意向を示している。
Thorcon 500は、1960年代に米エネルギー省オークリッジ国立研究所が開発した技術に基づいく。低圧下で熔融フッ化物塩を一次冷却材として使用、低濃縮ウラン燃料を用いた25万kWeの原子炉2基で構成され、交換可能な密閉「カン」(Can)に格納されている。造船所で船体に組み入れられ、浅瀬のサイトまで曳航される。8年間の運転後、原子炉モジュールは切り離され、カン交換のためにメンテナンスセンターに曳航される。熔融塩燃料は、緊急時には受動的に冷却タンクに排出され、核分裂を即座に停止。加熱のリスクを排除し、安全性を維持する運転員の介入や外部電源の必要はないという。モジュール製造向けに設計されたThorcon 500は、最高の国際安全基準に適合しており、インドネシアのエネルギー移行において重要な役割を果たすと期待されている。ケラサ島で実施された、安全性、生態学的要素、立地適性に焦点を当てた予備的なサイト調査により、同島が有力なサイト候補地とされた。PT TPI社は、2032年までにThorcon 500を稼働させ、インドネシア国営電力会社PLNに売電を計画する。すでに鉱業やIT企業から、ケラサ島でのプラントの完成後、電力購入契約の締結の打診もあるという。PT TPI社はプラントの初稼働後、Thorcon炉の国内製造・組立ラインを開発し、インドネシアの新しい産業部門の成長を促進させたい考えだ。
BAPETENは、3Sの枠組みの中で積極的に協議に参加したPT TPI社の取組みを評価し、事前協議は、許認可プロセスの継続にあたり、技術と管理両面での障壁を最小限にするものである、と指摘した。
インドネシア政府は、再生可能エネルギーや原子力など新たな無炭素電源の研究開発を促進して、CO2排出量の実質ゼロ化に移行していく方針。原子力発電所の設備容量を2035年に800万kWe、2060年には5,400万kWeへの拡大を目指している。現状、総発電電力量の約8割を火力発電(主に石炭火力)が占める。PT TPI社は、Thorcon 500プラントは「太陽光や風力などの再生可能エネルギーを補完する安定した低コストのベースロード電源となる」と語っている。