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米エネ省の作業部会、原子力で米国が再び優位に立つための戦略を公表

01 May 2020

©DOE

米エネルギー省(DOE)のD.ブルイエット長官は4月23日、原子燃料作業部会(NFWG)が取りまとめた包括的戦略「米国が原子力で競争上の優位性を取り戻すために」(=写真)を公表した。

同戦略の示すアクションを通じて、米国は原子力発電技術の優位点を増強するとともにウランの採鉱や精鉱、転換に関わる産業を再活性化し、米国の技術面での優位性を強化する。米国では議会の上下両院ともに超党派で原子力発電を広範に支援していることから、米国が推進する核不拡散政策との整合性や国家安全保障を維持しつつ、関連の輸出も拡大する方針である。

NFWGは2019年7月、原子燃料サプライチェーン全体が関わる国家安全保障上の留意事項について全面的な分析を行い、報告書を作成する目的でD.トランプ大統領が創設した。国内原子力産業の再生に向けて関係省庁が協力し、全体的な原子燃料サプライチェーンについて様々な政策オプションを策定することになる。

今回の戦略でNFWGはまず、原子力産業界の現状を分析。それによると米国は今日、この分野の世界的リーダーとしての競争力を失い、ロシアや中国など国営原子力企業を有する国にその立場を明け渡した。途上国の国々も米国を脅かす勢いで迫っており、過去数十年にわたり放置されてきた米国の商業用原子力部門では、ウラン採掘から発電に至るまで企業破産のリスクが高まっている。具体的には、米国は国産原子燃料の生産能力を失いつつあり、それがエネルギー確保を含む国家安全保障に脅威となっている。また、米国が強力な核不拡散体制や安全・セキュリティ基準を設定する際、必要となる国際的影響力を損なう事態になっていると分析した。

これに対してロシアはエネルギー供給を他国支配の道具として利用し、国際的な原子力市場を支配。これによって経済上、外交政策上の影響力を世界中で強めており、諸外国での原子炉建設受注額は合計1,330億ドルにのぼる。このほか、19か国で建設予定の50基以上の原子炉についても、費用を全面的に負担していると指摘。戦略的競争国である中国もまた、現在4基の原子炉を国外で建設中であり、さらに16基を複数の国で建設することを計画中。中国国内で建設した基数も過去33年間で45基となったのに加え、12基が建設中となっている。

NFWGは、米国企業が諸外国の原子炉市場で請け負った建設計画が現在一件もなく、今後10年間に取り逃がすことになる受注金額を5,000億~7,400億ドルと予測。米国の原子力企業は今や、その他の国際的な企業との競争のみならず国営原子力企業との競争に直面しており、もはや「真に自由な世界市場で活動」などと取り繕っている場合ではないと訴えている。

ブルイエット長官も今回、原子燃料サイクル・フロントエンドにおける米国の産業基盤が過去数十年間に弱体化し、それによって米国の国益と国家安全保障が脅かされていると指摘。NFWGの戦略はこのような課題を認識した上で、米国が原子力エネルギーと原子力技術で世界のリーダーシップを取り戻すための政策オプションを数多く提示している。国家安全保障問題として、米国内の原子力関係企業基盤を保持し成長させるために大胆な措置を取ることが重要であり、トランプ政権は米国が原子力分野の競争力を持った世界のリーダー的立場に再び復帰することを約束した。NFWGはそのための勧告事項を、今回の戦略で以下のように示している。すなわち、

  • ウランの採鉱、精鉱、転換など各産業を復活・強化する迅速かつ大胆な措置を連邦政府が取り、原子燃料サイクル・フロントエンド全体のポテンシャルを回復させる、
  • 米国における技術革新と先進的な原子力研究開発・実証活動への投資を活用して、米国の技術的優位を確固たるものとし、次世代原子力技術における米国のリーダーシップを強化する、
  • 健全かつ世界をリードする原子力部門を確立し、その中でウラン採掘業者や燃料サイクル関連企業、原子炉ベンダー等が製品やサービスを販売する、
  • 連邦政府全体での取り組みとして、民生用原子力技術の輸出でロシアや中国などの国営原子力企業と競争する際、米国原子力産業の支援策を取る、――である。

DOEによると、米国は現在、防衛面で将来的に必要となる2種類のウラン供給を明確に定義。それらは、①2040年代の核兵器製造でトリチウムを生産するのに必要な低濃縮ウラン、および②2050年代に原子力船で必要となる高濃縮ウランである。また、今回の戦略によってDOEは、国家安全保障が原子燃料サイクルの健全なフロントエンドと密接に関係するという事実を認識。すなわち、米国は国家防衛上、強力な民生用原子力産業を必要としているということを強く指摘した。

米国が推進する核不拡散体制の信頼性は、健全堅固な原子力産業の生存能力と米国が技術面でリーダーシップを取ることによって決定付けられるため、D.トランプ大統領は重要な第一歩として2021会計年度(2020年10月~2021年9月)の予算要求で、「国産ウラン備蓄」のためのDOE予算1億5,000万ドルを計上した。これにより、国内の鉱山からウラン鉱や転換サービスの購入を開始する考えである。

(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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