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IEA:「新政策取られなければ2040年までに欧州の原子力設備は全体の5%に」

01 Jul 2020

IEAのF.ビロル事務局長 ©IEA

国際エネルギー機関(IEA)は加盟各国のエネルギー政策を定期的にピアレビューしているが、6月25日に欧州連合(EU)のエネルギー政策についての評価結果をまとめた報告書「欧州連合2020、エネルギー政策レビュー」を公表した。

新型コロナウイルスによる感染の拡大で打撃を被った欧州経済の立て直し策が模索されるなか、昨年末に就任したばかりのECのU.フォンデアライエン委員長は、2050年までに欧州大陸で温室効果ガスの排出量実質ゼロ化(気候中立)を目指す工程表「欧州グリーンディール」を推進中。このような意欲的な取組により、EUは一層クリーンでレジリエンス(回復力)の強いエネルギー供給システムへのシフトを加速させ、温室効果ガス排出量の削減で世界のリーダー的立場をさらに強化するチャンスがあるとIEAは評価している。

IEAの報告書によると、EU域内における2019年の温室効果ガス排出量は1990年実績から23%削減されており、2020年までに排出量の20%削減という目標はすでに達成済み。この背景にはクリーン電源が主要な推進力として働いたという事実があり、欧州の炭素強度(carbon intensity)は今や世界の大半の地域をはるかに下回っている。EUはまた、洋上風力発電など再生可能エネルギー技術のリーダーであり、多くのEU加盟国が石炭火力からの段階的撤退政策を敷いている。

ただし、輸送部門の温室効果ガス排出量については未だに上昇していることから、IEAは同報告書のなかで、温室効果ガスや再生可能エネルギー、エネルギーの効率化等についてEUが設定した2030年までの目標、および長期的な脱炭素化目標が達成されるよう複数の勧告事項を提示した。EUの野心的な目標を達成するにはすでに実施中のエネルギー政策をさらに強化する必要があり、温室効果ガス排出量でEU全体の75%を占めるエネルギー部門については特にそうした施策の中心部分に位置付けられねばならないとした。

また、「欧州グリーンディール」の公表後、ほどなく発生した新型コロナウイルスによる感染拡大は世界経済を低迷させ、政策決定者が約束したクリーン・エネルギーへの移行やエネルギー部門のレジリエンスを試す試金石となった。EUのエネルギー部門は今のところこの経済的な重圧に良く持ちこたえているが、経済の悪化は引き続き関係企業や政府のバランスシートを圧迫している。

こうした背景からIEAは、異なるエネルギー政策や脱炭素化アプローチを取るEU加盟各国に対し、それぞれの「国家エネルギー気候変動計画(NECP)」の枠内で協力を強化する必要があると指摘。域内の統合エネルギー市場や越境取引に基づいて事業を進め、EUの排出量取引制度における炭素の価格付けでは一層強力なシグナルを発するべきだと勧告した。また、域内の温室効果ガス排出量の実質ゼロ化に向けたあらゆるエネルギー・オプションを維持するため、脱炭素化に役立つエネルギー技術の開発とそれに向けた投資、および持続的な資金調達でそれぞれに平等な条件を確保すべきだとしている。

原子力発電オプションの維持

原子力に関しては、ECの長期ビジョンの中で2050年までに総発電量の15%を賄うと予想されているものの、域内の既存の原子炉では経年化が進んでいる。新たに建設中のものはわずかであり計画中についても同様であることから、IEAは運転期間の延長など国家レベルで新たな政策アクションが取られなければ、EU域内の原子炉の約半数が今後5年以内に閉鎖され、原子力発電設備は2040年までに域内電源ミックスの5%まで低下すると指摘した。

このようなことは発電原価に影響するだけでなく、適切な調査や取り組みが行われなければ世界の地域レベルの電力供給保証にまで影響が及ぶ可能性があるとIEAは説明。欧州の低炭素電力の大半を賄う原子力発電オプションを2030年以降も維持していくには、EUが原子力に対する資金提供条件を少なくともほかの電源と平等に保ち、原子力が受け入れられている国で新たなプラントの建設や既存炉の運転期間延長を支援する必要がある。また、既存の原子力発電所で廃止措置を取る際は、安全性に留意するとともに放射性廃棄物の処分を促進しなければならないと強調している。

(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

 

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