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英・新設計画からの日立の撤退表明にともなう英国内の波紋

17 Sep 2020

ウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所の完成予想写真 ©日立製作所

日立製作所が9月16日の取締役会後、英国ウェールズ地方北部におけるウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所建設計画(135万kWの日立GEニュークリア・エナジー社製・英国版ABWR×2基)から撤退すると表明したことについて、英国の関係者の間では様々な波紋が広がっている。

同計画では2017年12月、英国の原子力規制庁(ONR)が英国版ABWR設計の事前設計認証審査を終え、同設計の安全・セキュリティ面に関する「設計容認確認書(DAC)」を日立GEニュークリア・エナジー社に発給した。また2018年6月には、日立の100%子会社で英国のプロジェクト企業である「ホライズン・ニュークリア・パワー社」が、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に建設プロジェクトの「開発合意書」を申請。その審査結果が今月末にも発表されると見られていた。BEISはさらに2019年7月、原子力発電所建設プロジェクトに資金調達するための新たな方法(規制資産ベース・モデル)について実行可能性評価の結果を公表。一般からのコメント募集を開始しており、ホライズン社はその結果次第でプロジェクトを再開できると期待していた。

しかし、今回の日立の撤退表明にともないホライズン社は同日、ウェールズ地方アングルシー島における同プロジェクト、およびイングランド地方グロスターシャー州南部のオールドベリー原子力発電所計画に関し、すべての活動を停止すると表明。ウィルヴァ・ニューウィッド計画では明確な資金調達モデルについて英国政府との調整に時間を要することから、2019年1月以降の活動が凍結されていた。ホライズン社は「今となってはすべての活動を整然と終わらせる一方、当社は両サイトの今後の利用オプションに関して英国政府その他の主要関係者と十分に連絡を取ってこの後の調整に尽力したい」とコメントしている。

同社のD.ホーソーンCEOは、「原子力発電は英国のエネルギー需要を満たすとともに地球温暖化の防止目標達成を支援、クリーンな経済成長や雇用の創出促進など英国経済のレベルアップにも重要な役割を担っている」と明言。「アングルシー島とオールドベリーは原子力発電所の新設には非常に有望なサイトなので、国家や地元自治体、環境に対して原子力が提供できる掛け替えのない利点がこれらの地でさらに展開されるよう、また英国政府が目指す2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成できるよう最善を尽くしたい」と述べた。

また、これと同じ日に英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は、「日立の撤退表明は残念なニュースだが、もしも英国が本当にCO2排出量の実質ゼロ化を実現させたいのなら、新しい原子力発電所の建設を早急に進めなくてはならないと明確に示すことになった」と指摘。日立とホライズン社が建設サイトの今後の扱いについて、英国政府や関係組織と共同で調整する方針であることを歓迎したいと述べた。

同理事長によると、地元コミュニティやアングルシー島の関係者が強力に支援するウィルヴァ・ニューウィッド計画の建設サイトは、新たな原子力発電設備を建設する上で最良の地点である。低炭素で信頼性の高い電源によりCO2排出量の実質ゼロ化を後押ししつつ、地元に数百もの雇用実習機会や数千もの雇用を提供、経済的発展のために数百万ポンドを投資することは、同サイトの将来展開に道を拓く非常に重要なことだと強調した。

一方、英国の経済専門誌「フィナンシャル・タイムズ」は、日立が建設計画からの撤退理由の1つとして、新型コロナウイルスによる感染の拡大で投資環境が厳しくなったとしている点に注目。今回の日立の決定は、英国の将来のエネルギー政策に影を落とすとともに、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すという英国政府の意欲に大きな打撃を与えたと分析している。

しかし、とある政府報道官がこの決定について「落胆した」といいつつも、「ウェールズ地方の北部地域も含め、原子力発電所を建設するサイトの開発に意欲的な企業や投資家と、新規の原子力発電所プロジェクトについて議論するのは自由だ」と発言していた点に言及。この報道官がさらに、「小型モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)への投資を通じて、英国民は低炭素経済への移行を目指しており、原子力は英国の将来エネルギーミックスの中で主要な役割を果たすだろう」と述べたことを付け加えている。

(参照資料:ホライズン社NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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