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欧州司法裁、HPC計画への国家補助に対するオーストリアの訴えを棄却

24 Sep 2020

2020年6月現在の1号機の建設状況 ©EDFエナジー社

欧州連合(EU)の司法裁判所は9月22日、EDFエナジー社が英国で建設中のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWの「欧州加圧水型炉:EPR」×2基)に対し、英国政府が提供する国家補助を欧州委員会(EC)が2014年10月に承認したことについて、これを無効とするよう求めていたオーストリアの上告を棄却すると裁定した。

EU域内の国家補助は一般に禁止されているが、EU競争法(TFEU)第107条・第2項、第3項の下でEU域内の市場に適合すると認められた場合は、ECがそのための適格な方策を承認することがある。新たな発電設備の建設を目的とした英国政府の国家補助は経済活動を促進するためのものであり、EU競争法の国家補助規則に適合するとECはこれまでも判断していた。

EU司法裁は同域内の最高裁に相当するため、反原子力の立場を取るオーストリアがこの件についてこれ以上、上告する手段はなく、今回の裁定が事実上の最終判断となる。英国は今年1月末付でEUを正式に離脱しているが、通商協定の交渉期限として今年の年末まで移行期間が設けられていることから、英国は今回の裁定を受け入れると見られている。

同発電所では2025年末の初号機完成を目指して建設工事が進められているが、着工前の2013年10月に英国政府は事業者である仏電力(EDF)グループと3種類の財政支援策で合意した。それらは、①完成した発電所からの電力価格を安定させるため、固定価格で差金決済する制度(CfD)を適用する、②政治的理由により同発電所が早期閉鎖された場合、英国政府の担当大臣がEDFエナジー社の運転子会社(NNBジェネレーション社)に補償を行う、③英国政府の信用保証制度を適用し、NNB社が発行する社債について最大170億ポンド(約2兆2,755億円)の適格債務を保証する――である。

ECがこれらの国家補助を認めたことを受けて、オーストリアは2015年にその取り消しを求める手続きを開始。EU司法裁の下級裁判所である第一審裁判所は2018年7月、「英国には自国のエネルギー・ミックスの構成要素を自由に決定する権利がある」としてEC承認を再確認すると裁定。オーストリアはその後さらに、EU司法裁にこの裁定の破棄を申し立てていた。

今回の裁定についてEU司法裁はまず、「問題の国家補助に域内市場との適合性ありと裁定するには2つの条件がある」と指摘した。一つ目は、一定の経済活動あるいは一定の経済分野の発展を促すものでなくてはならず、二つ目としては域内市場の共通利益に一定程度反するような悪影響が及ばないことだと述べた。その一方で、この条項は「共通利益の追求」という目的を国家補助に含めるよう要求してはいなかった。

またEU司法裁によると、オーストリアが第一審裁判所判決の取り消し論拠とする環境防護原則や予防原則、汚染者による負担原則等では、あらゆる状況から見て原子力発電所の建設や運転に対する国家補助を阻むことはできない。これらの理由から、EU司法裁はオーストリアの主張する(新規原子力発電所の建設から共通の利益はもたらされないという)様々な異議には「正当な理由が存在しない」と判断したと説明している。

(参照資料:欧州司法裁の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

 

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