米エネ省、多目的試験炉開発プロジェクトの意義と概要を承認
28 Sep 2020
VTRの概念図 ©DOE
米エネルギー省(DOE)は9月23日、「多目的試験炉(VTR)」の開発プロジェクトについて、その概念設計と複数の代替案について開発工程や費用の範囲などを連邦政府の関係委員会が分析審査した結果、その意義と概要が認められたため、意思決定(CD)プロセスの第2段階である「重要決定1(CD-1)」を承認したと発表した。
VTRはDOEが傘下のアイダホ国立研究所内で2026年初頭からの運転開始を目指しており、原子力など革新的な技術の研究開発に資する米国で唯一無二の施設になる予定。CD-1が承認されたことでVTRの開発プロジェクトは、DOEが2021会計年度(2020年10月~2021年9月)で要求した2億9,500万ドルを議会が割り当て次第、CDプロセスのエンジニアリング設計段階に入る。
このプロセスは、米国で1993年に超伝導超大型粒子加速器(SSC)の建設計画が頓挫した教訓から、大型の研究インフラ・プロジェクトを建設する際、これを0から4まで段階的に管理・承認するプロセスとして活用されている。CD-2で詳細設計や技術の検討を行い、CD-3で当該施設の建設開始を承認した後、CD-4で運転開始を承認することになるが、DOEはVTR計画について2021年後半にも環境影響声明書(EIS)を発行し、建設計画が「決定事項(ROD)」となった場合、VTRの設計や採用技術の選定、建設サイト等について最終判断を下す方針。DOEはすでに2019年8月、CD-1段階の活動の一部としてEISの作成準備を開始する旨、意思通知書を連邦官報に掲載していた。
VTRは、新型の原子炉設計で使用される革新的な原子燃料や資機材、計測器等の開発で重要な役割を担う「ナトリウム冷却式の高速スペクトル中性子照射試験炉」となる。米国には現在、この中性子の照射を行える施設が存在せず、それが可能なVTRの建設は2018年9月に成立した「2017年原子力技術革新法(NEICA)」でも必要性が強調されていた。
DOEの原子力局(NE)は2018年、同様の必要性を指摘する複数の報告書や新型原子炉設計を開発中の企業からの要請に対応し、VTRの開発プログラムを設置した。新しい原子炉設計の多くが既存の試験インフラとは異なる試験性能を必要とすることから、6つの国立研究所と19の大学、および9社の原子力産業企業から専門家がチームを組み、VTRの設計や費用見積、開発工程等を作成中。既存の試験インフラより高濃度の中性子を高速で生み出すVTRは、先進的な原子燃料や物質、センサー、計測機器の試験をさらに加速する最先端の能力を提供することになる。
CD-1の承認についてDOEのD.ブルイエット長官は、「原子力発電の研究や安全・セキュリティ、低炭素なエネルギーを世界に供給する最新技術の開発で米国が世界のリーダー的立場を取り戻すのに向け、重要な一歩が刻まれた」と指摘。VTRは米国で長年にわたって問題になっていた研究インフラの欠落部を埋めるとともに、切望されているクリーンエネルギー技術の研究開発を支援、原子力産業界を再活性化するカギにもなると強調している。
(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)