英シンクタンク、「2050年の気候中立達成には新規原子力への投資が不可欠」と提言
27 Jan 2021
©CPS
英国のシンクタンクである「政策研究センター(CPS)」は1月21日に新たな報告書「Bridging the Gap :The case for new nuclear investment 」を発表し、「新規の原子力発電所建設で投資を行わなければ、英国政府が法的拘束力のある目標として掲げた『2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成』することは難しくなり、英国のエネルギー供給保証もリスクにさらされる」との結論を明らかにした。
CPSは保守党のM.サッチャー元首相らが1970年代に創設した中道右派系シンクタンクで、独自に新世代の政策を打ち立てることを使命としている。
今回の報告書で明確になった事項として、CPSは以下の点を指摘した。すなわち、①英国経済は着実に電化の拡大方向に向かっており、2050年までに電力需要は倍増すると予想される、②現在8サイトで稼働している原子炉15基のうち、7サイトの14基までが高経年化のため2030年までに閉鎖され、英国は莫大な量の無炭素電力を失うことになる、③電力需要の増加、特に風力や太陽光発電が稼働出来ない日に備えて、英国政府は早急に原子力発電所の設備容量を確保しなければならない――である。これらへの対処で原子力発電に投資をしなかった場合、化石燃料発電への依存度が上がってしまう。このため、英国政府はCO2排出量の実質ゼロ化を達成するのか、あるいは灯りを灯し続けるため化石燃料で発電する、のどちらかの選択を迫られることになる。
CPSの今回の報告書によると、CO2排出量の実質ゼロ化と倍加した電力需要への対処を両立させるには、英国政府が原子力発電への支援を継続しなければならない。建設中のヒンクリーポイントC原子力発電所に加えて、少なくとも1つ原子力発電所を建設できれば、7サイトの発電所が閉鎖された後も英国のエネルギー供給保証は強力に後押しされる。この発電所はまた、国内で急成長している再生可能エネルギーを補うことになり、これらに特有の出力変動に対処することも可能である。
新規の原子力発電所の建設を支援する方法として、CPSは「規制資産ベース(RAB)モデル」のような革新的な財政支援策を詳しく調査するよう勧告した。RABモデルを適用すれば、デベロッパーは発電所が完成する前に一定の金額を電力消費者に負わせることが出来る。このことは借入金の削減につながり、最終的に各世帯や企業が支払うエネルギー価格も安く抑えられる。
CPSはまた、原子力発電への投資は原子力産業界で技術や知見の開発ルートを維持することにもなると指摘。これにより英国は、小型モジュール炉(SMR)や核融合炉など、次世代原子力技術の開発で世界の先頭に立つことも可能である。
同報告書でCPSはさらに、既存の脱炭素化政策を合理化することも提案している。炭素の価格設定を今よりシンプルかつ標準化することで発電技術間の条件は平等になり、再生可能エネルギーなど環境保全技術の市場を活性化する。結果的に、英国は最も効率的かつコスト面の効果も高い方法で、CO2排出量の実質ゼロ化を達成することができると強調している。
(参照資料:CPSの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)