ロシアが鉛冷却高速実証炉「BREST-300」を着工
09 Jun 2021
SCCで始まった「BREST-300」の建設工事©TVEL
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は6月8日、シベリア西部のトムスク州セベルスクにある「シベリア化学コンビナート(SCC)」で、鉛冷却高速炉(LFR)のパイロット実証炉「BREST-300」(電気出力30万kW)の建設工事を開始したと発表した。
このプロジェクトでは「BREST-300」のほかに、同炉で使用するウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の製造施設、および同炉から出る使用済燃料専用の再処理モジュールを建設。これら3施設は、「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」を構成することになる。
「BREST-300」の建設許可は今年2月、ロスアトム社傘下の燃料製造企業TVEL社の子会社であるSCCに対し、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)が発給した。ロスアトム社はすでにMNUP燃料製造施設を建設中であるため、これを2023年までに完成させた後、翌2024年までに再処理モジュールを完成。「BREST-300」については、2026年に運転を開始するとしている。
PDECは、ロスアトム社が進めている戦略的プロジェクト「ブレークスルー(PRORYV)」の主要施設となる予定である。同プロジェクトでロシアは、国内原子力産業において(天然ウランなど)資源の有効活用を図るとともに、蓄積されていく使用済燃料や放射性廃棄物を処分するため、原子燃料サイクルの確立を目指している。必然的に、ロスアトム社は熱中性子炉のみならず高速炉の開発も進めることとなり、経験豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)に加えてLFRも開発するなど、高速炉の実現に向けて最善の策を探る方針である。
「BREST-300」の着工記念式には、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁のほか、トムスク州のS.ジバーチキン知事、クルチャトフ研究所のM.コワルチュク総裁などが参加。国際原子力機関(IAEA)のR.グロッシー事務局長、および経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)のW.マグウッド事務局長からは、着工を祝してビデオメッセージが送られた。
リハチョフ総裁は、「再処理を持続的に行うことで原子力産業の資源基盤は実質的に無尽蔵となり、将来世代の人々は使用済燃料の処分という問題からも開放される」と指摘。また、「このプロジェクトが成功すれば、ロシアはエネルギー資源の効率的な活用や環境への影響、利用のし易さといった観点から、持続可能な開発原則を全面的に満たした原子力技術を世界で初めて得ることになる」と述べた。
TVEL社のN.ニキペロワ総裁はブレークスルー・プロジェクトについて、「革新的技術を用いた原子炉の開発に留まらず、新世代の原子燃料サイクル技術を導入することになる」と説明。具体的には、濃度の濃いMNUP燃料を開発することによって、LFRを一層効率的に運転できることなどを挙げた。
同総裁は「このような技術を組み合わせれば、原子力は将来的に廃棄物を出さない事実上の再生可能エネルギーになる」と明言。「BREST-300」の使用済燃料は同一敷地内の再処理モジュールで再処理され、回収したウランとプルトニウムはMNUP燃料製造施設で新燃料に再加工される。このことから、PDECは次第に、外部からの資源供給を必要としない実質的な自動システムになっていくとしている。
(参照資料:ロスアトム社とTVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)