英国、先進的原子炉の実証プログラムでHTGRを有力候補に
30 Jul 2021
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は7月29日、「先進的モジュール式原子炉(AMR)の実証計画」では2030年代初頭までに1億7,000万ポンド(約259億6,200万円)の予算で、高温ガス炉(HTGR)の実証炉を同計画の初号機として完成させる案を公表した。
HTGRは、英国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する有力ツールの一部となる予定で、英国は今後10年以内に最新の原子炉技術の実用化を目指している。BEISは同日、政府がHTGRを最も有望な実証モデルと考えるこの提案について、「根拠に基づく情報提供の照会(Call for Evidence)」を開始。9月9日までの約1か月間、産業界や一般国民からのコメントを募集する方針だ。
BEISによればこの提案は、CO2排出量の実質ゼロ化に向けた重要施策としてB.ジョンソン首相が昨年11月に公表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」、および翌12月に英国政府が発表した「エネルギー白書」で誓約していた事項。AMRの研究開発プログラムに投入される1億7,000万ポンドは、柔軟性の高い活用が可能な原子炉技術の開発を加速するために確保された3億8,500万ポンド(約588億円)の一部である。
BEISは、AMRは従来の原子力発電所と比べて小型なため、より少ないコストで建設することが可能と考えている。運転上の柔軟性も高く、低炭素な電力を一層安全に供給するほか、重工業の脱炭素化に資するクリーン水素や高温熱を製造することもできる。
また、英国で排出されるCO2の37%が高温熱を得るための火力によるもので、かなりの部分が重工業の生産プロセスで発生する。HTGRの高温熱は500℃~950℃と、その他のAMRより温度が高いことから、HTGRを活用することでセメントや紙、ガラス製品、および化学製品の生産プロセスでは、CO2排出量の大幅な削減が可能である。
AMRではさらに、従来の軽水炉とは異なるタイプの燃料や冷却材を使用。AMRの研究開発に関する国際協力の場では、主に6種類のAMR技術がCO2の実質ゼロ化に貢献すると言われており、このうちのいくつかは、燃料として使用済燃料を再利用する可能性がある。しかし、この中でもHTGRは出口温度が最も高いものの一つであるため、BEISは実証炉プログラムの初号機にHTGRを選択したと説明している。
BEISのA.M.トレベリアン・エネルギー担当大臣は、「2050年までに英国では風力や太陽光といった再生可能エネルギーが発電に不可欠の要素となるが、これらでは常に、安定した低炭素のベースロード電源として原子力を必要とする」と指摘。「だからこそ、我々はサイズウェルC原子力発電所の開発企業と交渉しつつも、先進的原子炉技術の実用化を推し進めている」と強調した。
同相によれば、AMRは新しいレベルの近代的原子力技術であり、CO2排出量の削減で重要な役割を果たす可能性がある。AMRはまた、産業界に動力を供給し、英国民がより良い環境を取り戻しつつ経済成長を遂げられるよう導いてくれるとしている。
なお、英国政府はこのほか、様々な原子力技術開発支援の一環として、国立原子力研究所(NNL)がプレストン研究所(スプリングフィールド)で開発中の「先進的原子力技術と技術革新キャンパス」を試験的に実行すると発表した。同キャンパスは、産業界と学界が先進的原子力技術の開発と商業化を目指して、共同プロジェクトを実施する「技術革新ハブ」として機能する予定である。
(参照資料:英国政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)