WNA:2020年に世界全体の原子力総発電量は低下するも電力を安定供給
06 Sep 2021
1970年から2020年までの世界の(地域別)原子力発電量 ©WNA
世界原子力協会(WNA)は9月1日、世界中で稼働する商業炉の2020年の運転実績について取りまとめた報告書「World Nuclear Association Performance Report 2021」を公表した。
新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)で全体的な電力需要が低下したことが大きく影響し、原子力の総発電量は2019年実績の2兆6,570億kWhから2兆5,530億kWhに減少。ただし、発電シェアが拡大した再生可能エネルギーの間欠性を補うため、負荷追従運転で電力を安定的に供給する機会が増加したと指摘している。
WNAのS.ビルバオ・イ・レオン事務局長は、「2020年は世界中の原子力発電所が信頼性の高い電力を供給しながら変動する需要に柔軟に対応しており、強靭な供給性能を示した」とコメント。「世界の電力需要は今後急速に回復する見通しだが、これにともない温室効果ガスの排出量も元通りになるリスクが存在することは現実だ」としている。
報告書によると、2020年末現在、世界では運転可能な商業炉が441基存在し、総設備容量の3億9,200万kWは過去3年間ほとんど変化していない。新たな運転開始により追加された設備容量も、永久閉鎖された原子炉のそれとほぼ同レベルだった。
同事務局長は過去数年間に永久閉鎖された原子炉の閉鎖理由について、「半数以上は技術的な制限によるものではなく、原子力からの段階的撤退という政治的理由、あるいはCO2を排出しない原子力の価値を適切に評価しない市場の欠陥によるものだ」と指摘。これは、わずかでも無駄にできない低炭素な電源が世界中で失われていることを意味するとした。
しかしその一方で、今年はすでに明るい兆候が原子力に見受けられ、4基の原子炉が新たに送電網に接続された。また、7基の建設工事が新たにスタートしたが、永久閉鎖された原子炉は今のところ2基に留まっている。同事務局長によると、「原子力発電が今後一層迅速に運転復帰することは重要であり、それによって化石燃料の発電量を代替、温室効果ガスが急速に増加するのを防がねばならない。」そのためには、既存の原子力発電所を最大限に生かし運転期間も可能な限り延長、新規の原子炉の建設ペースや規模も拡大する必要があるとしている。
今回の報告書の主な判明事項は以下の通り。
- 2020年に新たに5基の原子炉が運転を開始したが、増加した設備容量552.1万kWは永久閉鎖された6基分の516.5万kWで相殺された。
- 2020年に送電網に接続された原子炉の平均建設期間は84か月で、2019年の117か月から減少した。
- いくつかの原子炉では、電力需要の低下にともない発電量が減少しており、2020年は世界平均の設備利用率も前年実績の83.1%から低下。80.3%になったが、それでも原子力は過去20年間の良好な運転実績を維持している。
- 世界中の原子炉の3分の2近くで、80%以上という高水準の設備利用率をマークした。設備利用率が40%未満の原子炉の数も近年は上昇傾向にあるものの、基数は依然として小さい。
- 運転実績に原子炉の経年数が関係する傾向は見られず、過去5年間に設備利用率が低下した原子炉でも、経年数にともなう全体的な変化は特に見られなかった。近年に合計80年の運転継続を許された原子炉のうちいくつかでは、一貫して経年数とは無関係の素晴らしい運転実績を残している。
(参照資料:WNAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)