インド政府で原子力や科学技術を担当するJ. シン閣外専管大臣は、4月2日付の下院議会への答弁書で、原子力プロジェクトへの民間部門の参加を可能にする、原子力法ならびに原子力損害に対する民事責任法の改正を議論、提案するため、委員会が設立されたことを明らかにした。委員会は原子力省(DAE)内に設置され、DAE、原子力規制当局(AERB)、政府系シンクタンク(NITI Aayog)、法務省(MOLJ)からのメンバーで構成される。法律改正の他、廃棄物管理、燃料調達と取扱い、廃止措置、セキュリティと保障措置の実施についても検討していく。法律の改正をめぐっては科学的問題だけではなく、省庁間協議の様々な段階を含むため、時間も掛かり、タイムラインを示すことはできないとしている。インドのN. シタラマン財務大臣は2月、2025年度(2025年4月~2026年3月)連邦予算を発表。原子力発電設備容量を2047年までに少なくとも1億kWに引き上げるとともに、2,000億ルピー(約3,500億円)を投じて小型モジュール炉(SMR)の研究開発を推進する「原子力エネルギーミッション」を開始、2033年までに少なくとも国産SMR×5基の運転開始をめざす方針を表明した。さらに、民間企業がこのセクターに参入するための大きなハードルとなっていた原子力法および原子力損害賠償法の改正を進め、民間部門との連携強化を図る考えを示していた。シン大臣の答弁書によると、現在、バーバ原子力研究所(BARC)では以下のSMRの開発が進められている。バーラト小型モジュール炉(BSMR-200、20万kWe):閉鎖予定の火力発電所のリプレースのほか、鉄鋼、アルミニウム、金属などのエネルギー集約型産業向けの自家発電プラント。小型モジュール炉(SMR-55、5.5万kWe):遠隔地およびオフグリッド地域へのエネルギー供給向け。高温ガス冷却炉(HTGCR、0.5万kWth):輸送部門やプロセス産業の脱炭素化を目的とした水素製造向け。これらのSMR初号機はDAEの所有サイトに設置され、後続炉は自家発電所や閉鎖予定の火力発電所のサイトに設置される予定だという。一方、インド政府の野心的な原子力拡大目標と、2070年までに炭素排出量をネットゼロにするという公約の実現に向けて、電力省の管理下にあるインド最大の国営火力発電会社(NTPC)は3月末、インド政府の承認を条件として、インドにおける大型炉(PWR、100万kWe級)の国産化および建設に関する協力への関心表明(EOI)の募集を開始している。概念設計から、エンジニアリング、調達、建設、運転開始までを一貫して協力の範囲とする。募集締切りは5月9日。NTPCは、原子力分野における技術向上と国内人材の育成必要性を認識し、PWR技術の国産化を目指している。この動きは、原子力技術における自立と原子力発電所サプライチェーンの国産化という国家目標に沿ったものであり、NTPCは世界の原子力ベンダーとの協力を促進し、PWRベースの原子力発電の強固な国内サプライチェーンを確立させたい考えだ。今回のEOIによって、国内での大型炉の建設に向けてPWR技術を国産化するためのベンダーの見通しを評価し、すべての要件を満たすことに関心のあるベンダーのEOIに基づき、入札を実施する計画である。NTPCが目標とする発電設備容量は1,500万kWe+10%。募集案内に示された協力の大枠では、提案されるPWRの主要技術のインドへの段階的な移転のほか、原子力技術の自給自足への着実な移行を確実にするために、初号機では部品の最低60%を国産化し、シリーズ建設を通じて95%以上までに増加させることが示されている。これは、提案者のインド子会社/合弁会社を通じて、またはインド企業との提携も含めることができるとしている。また、燃料の恒久的な供給と国際原子力機関(IAEA)の保障措置下での燃料製造施設の建設にコミットするとともに、NTPC幹部の人材育成(特に運転と保守分野におけるトレーニングとスキル開発)の実施や、NTPC職員が自信を持って引き継ぐことができるようになるまで、提案者に対し、最初の5年間は原子力発電所の運転と保守を実施するよう要求している。
18 Apr 2025
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米国の先進原子力会社である、ナノ・ニュークリア・エナジー(NANO Nuclear Energy)社は4月2日、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)と、研究用マイクロモジュール炉「KRONOS MMR」初号機の同大学キャンパスでの建設に向けて戦略的提携契約を締結した。同契約により、イリノイ大学はKRONOS MMRの許認可、立地、市民参加、研究活動に係わる正式パートナーとなり、研究・実証施設である原子炉の恒久的な設置サイトとなる。NANO社の創設者兼会長であるJ. ユー氏は、「設計が現実のものとなる。今回、サイトが選定され、イリノイ大学シャンペーン校の世界トップクラスの工学教育機関グレインジャー工科大学がパートナーとなった。単なる研究炉ではなく、安全でポータブル、かつレジリエンスのある原子力エネルギーの未来のための実証実験の場となる。当社の長期的な原子炉開発戦略の基盤となるものであり、世界中のコミュニティ、キャンパス、産業界に次世代の原子力エネルギーを供給していきたい」と意気込みを語った。KRONOS MMRは、冷却材にヘリウムを使用する第4世代の小型モジュール式高温ガス炉。5エーカー(0.02㎢)未満のコンパクトな設置面積で、最大4.5万kWt(1.5万kWe)の出力により、ローカルグリッド、再生可能グリッド、プロセス熱システムとシームレスに統合し、柔軟に稼働するように設計されている。燃料は、低濃縮ウラン(LEU)またはHALEU燃料を使用。NANO社は、KRONOS MMRエネルギーシステムは、既存の技術を活用し、新たなブレークスルーや時間とコストのかかる研究プログラムが不要と強調している。MMR(マイクロ・モジュール炉)は米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)社が開発していたが、USNC社は2024年10月、米国破産法第11章第363条に従い、自社技術の売却プロセスを実施することを発表。競売により同年12月、NANO社がUSNC社のMMRを含む、原子力技術資産の一部を買収し、MMRをKRONOS MMRに改称した。今後NANO社は、イリノイ大学が米原子力規制委員会(NRC)に提出する建設許可申請(CPA)の準備を支援するため、地下調査を含む地質学的特性評価のプロセスを開始する。この作業はサイトの環境パラメータを理解するために不可欠であり、施設の信頼性と安全性を最大限に確保し、NANO社の予備安全解析報告書(PSAR)と環境報告書(ER)作成をサポートするものである。この戦略的提携により、イリノイ大学とNANO社は、規制当局の許認可プロセス、プラント設計の実施、市民やステークホルダーの関与、および労働力の育成分野で協力していく。イリノイ大学はNRCとの規制面での関わりや市民との交流を主導するほか、PSARやERなどのライセンス活動を支援しつつ、サイト配置、建設性評価、将来のオペレーター訓練プログラムを実施。NANO社は、プラントの設計、建設、システム統合、商業化に向けた開発を行う。この提携は、イリノイ大学のノウハウとNRCとの関わりを基に構築されており、同大学は2021年6月、(当時)USNC社製MMRを将来に学内で建設するため、NRCに意向表明書(LOI)を提出している。イリノイ大学内のグレインジャー工科大学のC. ブルックス教授は、「KRONOS MMRプロジェクトは、国内初となるだけでなく、学術界初となる可能性があり、学生、研究者、規制当局、市民が実際の世界のマイクロ炉開発の取組みを直接、大学サイトで学ぶことができる」「このエネルギーシステムは、教育、研究、大規模な実証を通じて原子力の新しいパラダイムを可能にする可能性を秘めており、米国のどのキャンパスにおいても最先端の原子力研究のプラットフォームとなり得るものだ」と指摘。NANO社の最高技術責任者兼原子炉開発責任者であるF.ハイデット博士も「同プロジェクトは、将来のあらゆる大学主導の原子力プロジェクトの先例となる」と強調した。
17 Apr 2025
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国際エネルギー機関(IEA)は4月10日、報告書「Energy and AI」を公表。データセンターの電力消費量が、2030年までに約9,450億kWhと2024年の水準から倍増するとの見通しを明らかにした。これは、現在の日本の総電力消費量をわずかに上回る規模である。報告書によると、AIが他のデジタルサービスに対する需要増と並んで、この増加を牽引する最大の要因であるという。特に米国の影響が圧倒的に大きく、2030年までに見込まれる電力需要の増加分の約半分を、データセンターが占める見通しだ。さらに、データセンターによる電力消費量は、アルミニウム、鉄鋼、セメント、化学などのエネルギー集約型産業全体で使用される電力の合計を上回ると予想している。なお、現在、米国のデータセンターの半分近くが、5つの地域クラスターに集中している。これにより、これらの地域では既にデータセンターが、電力市場に大きな影響を及ぼしているという。また、報告書は、データセンターの旺盛な電力需要に対して、蓄電設備や地域間の電力融通といった電力系統のバックアップに支えられた、再生可能エネルギー(再エネ)と天然ガス火力が、供給面での主導的な役割を担うと指摘している。具体的には、今後5年間で世界のデータセンターにおける電力需要の伸びの半分を、再エネがカバーすると予測。再エネについては、短い建設期間や高い経済競争力、そしてIT企業による積極的な電力調達戦略を背景に、2035年までに4,500億kWh以上増加すると見込まれている。原子力については、2030年以降に小型モジュール炉(SMR)の導入が進むと予想。米国では、大手IT企業がSMR開発の支援に乗り出しており、特に、SMR初号機が運転開始予定の2030年以降、原子力発電の役割が一段と大きくなる見通しだ。現在、IT企業は既に合計出力2,000万kW以上ものSMRへの出資を計画しており、SMR開発が順調に進めば、さらに大きな展開が見込まれるという。また、再エネの着実な増加とSMRの拡大により、天然ガス火力の追加需要は抑えられ、2035年までに米国のデータセンターへの電力供給の半分以上を低排出電源が占めると予測している。同様に、中国でも2030年以降、SMRの導入により、データセンター向け電力供給における原子力シェアが大幅に増加する見込みである。2030年から2035年にかけて、再エネと原子力の拡大が進むなかで、石炭利用が相対的に減少。報告書は、2035年までに再エネと原子力を合わせて、中国のデータセンターへの電力供給の約60%を占めると予想している。そのほか、欧州では、再エネと原子力が、追加で必要となる電力の大部分を供給する見通しである。これにより、欧州全体における両電源のシェアは合わせて、2030年までに85%に上昇する。また、現在、日本と韓国のデータセンターが消費する電力は、世界のデータセンターの電力需要の約5%を占めており、このシェアは2030年まで維持される見込み。両国では、再エネと原子力が、2030年のデータセンターの消費電力の現在の35%から60%近くをカバーすると見られている。一方で報告書は、AIやデータセンター事業者による原子力投資が実現せず、既設インフラからデータセンターに電力供給される場合、2035年までにデータセンター向けの電力供給に占める原子力の割合は、現在の約15%から約10%にまで低下する可能性があると指摘している。関連記事:原子力産業新聞 FEATURE「IT社会と原子力」
16 Apr 2025
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エストニアの新興エネルギー企業のフェルミ・エネルギア社と韓国の建設大手のサムスンC&T社(サムスン物産)は4月2日、エストニアにおける、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のSMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の建設準備に関する提携契約に調印した。フェルミ社は2023年2月、同国で建設する最初のSMRとしてBWRX-300を選定した。今回の提携契約は、2024年11月に両社間で締結された覚書を基にしており、エストニアの原子力開発にとり、エネルギー安全保障の確保、ならびにカーボンニュートラルの達成に向けた重要なステップ。本契約に基づき、サムスンC&T社はフェルミ社が推進する最大2基のBWRX-300の建設プロジェクトに、概念設計(Pre-FEED/Front-End Engineering Design)から、事業構造の構築、コスト積算、サイト評価を実施する基本設計(FEED)段階まで、プロジェクトの初期段階から参画し、その後に続くEPC最終契約の締結を視野に入れている。フェルミ社のK. カレメッツCEOは、「旧ソ連から独立後、エストニアは大胆かつ果断な改革を実施し、新技術に対して開放的な経済国である。エストニアの1人当たりのGDPは30,000ドル(約429万円)で、韓国の33,000ドル(約472万円)に匹敵。エストニア国民は常に革新的な技術を取り入れ、隣国フィンランドの経済競争力と安価なエネルギー供給を通じて、原子力が果たす役割について理解している。原子力は簡単な技術ではなく、エストニアのような小国では、信頼できる民主的なパートナーとの協力によってのみ実現可能だ。サムスンC&T社の原子力発電と大規模発電プロジェクトにおける経験は、エストニアと北欧全域のSMRプロジェクトを軌道に乗せ、予算内で実行するためのカギである」と強調した。SMR建設の準備状況は、現在、サイト候補地の事前選定の段階(2025~2027年)にある。フェルミ社は今後、選定された場所での詳細な調査を含む、サイト検証期間(2027~2029年)を経て、2029年に建設許可を規制当局に申請する計画である。手続きが順調に進めば2031年に着工、2035年後半には初号機の稼働を計画している。なお両者は、協力関係をエストニア以外にも広げ、北欧全域にSMRを配備することも想定している。サムスンC&T社は、このパートナーシップを通じて、北欧地域全体で少なくとも10〜15件のBWRX-300プロジェクトに参加することで、スケールメリットを実現し、プロジェクト実施に伴うリスクの低減を目指す考えだ。サムスンC&T社は現在、ルーマニアにおいて、米ニュースケール・パワー社製SMRである出力7.7万kWeの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた「VOYGR-6」(合計出力46.2万kWe)の建設プロジェクトのFEEDに取組むほか、2024年12月には、スウェーデンでSMRの建設を計画するシャーンフル・ネキスト(KNXT)社と協力覚書を締結するなど、欧州での原子力発電所事業の拡大を加速させている。
15 Apr 2025
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ドイツ原子力技術協会(KernD)は3月27日、2月の連邦議会選挙の結果を受けて発足する新政権に対し、気候目標の達成と経済強化に向けて、閉鎖済みの6基の原子炉を運転再開すべき、とする見解を発表した。同協会は、「安定した持続可能なエネルギーのために、今こそ正しい決断を下す時」と述べ、「脱工業化、高すぎる電気料金、電力輸入への依存、不透明なエネルギー供給状況は、今すぐ終わらせなければならない」と主張した。さらに、ドイツの原子力発電所の運転継続は、現在のエネルギー政策に代わって、気候目標に対処し、安全で経済的に実行可能な選択肢であり、同国のエネルギーの未来のために現実的で持続可能な決定を下すためには、今後数か月が極めて重要であると強調している。見解の中で、再生可能エネルギーは天候に左右され、ベースロード電力は、依然として石炭火力発電所と、今後稼働するガス火力発電所が担わざるを得ないことに言及。一方で石炭火力発電所の継続的な稼働により、CO2排出量は計画を大幅に上回り、現在の枠組みでは石炭を段階的に廃止していくスケジュールは非現実的であると指摘している。既存の閉鎖済みの6基の原子炉を運転再開させることで、石炭火力に代わり、年間約6,500万トンのCO2削減(ドイツの総排出量の約10%)、ガス発電では、年間約3,000万トンのCO2削減に貢献し、2045年にドイツの気候目標を達成できるとの見通しを示した。加えて、原子力発電は安価な電力を産業や家庭に供給可能であるとし、最大6基を2030年までに運転再開させ、2050年頃までの運転が可能になると予測。年間発電量としては、約650億kWhの利用が可能となり、解体状況にもよるが、運転再開1基につき10億~30億ユーロ(約1,620億円~4,860億円)の資金投入が必要と見込んでいる。ドイツでは、2030年までに総電力需要が1兆kWh以上になると予測されている(2024年の実績は5,100億kWh)。同予測では輸送と暖房の電化を考慮しているが、将来の技術(データセンター、AI)の大幅な拡大は考慮されていない。また、フランスなどの近隣諸国はAIに多額の投資を行っており、余剰電力をドイツに輸出できなくなる恐れがあるとしている。安価なエネルギーは、ドイツをビジネス拠点として、産業がドイツにとどまり、AI、データセンターなどの電力需要の高い未来の新技術を定着させるほか、他の欧州諸国からの電力輸入(2024年の純電力輸入量320億kWh、主にフランスによる原子力発電)の減少により、自国内で独立した競争力のある電力を確保し、価格変動の抑制、産業の活性化に期待を寄せている。なお、技術的にも、最大6基の運転再開は可能であるが、運転再開に向けた検査の実施と解体作業の即時中止が重要であり、決定が迅速であればあるほど、コストは少なくて済むと強調。原子力発電所の運転再開が、経済的にも社会的にも合理的、現実的な解決策であるとの考えを示した。ドイツの原子力技術コミュニティは、ドイツの原子力産業と研究は準備ができており、安全な原子力発電所の運転再開を強く支持するとして、以下のようにコメントしている。「原子力発電は、ドイツの気候目標に大きく貢献することができ、電力供給コストも削減できる」― T. ザイポルト NUKEMテクノロジーエンジニアリング社CEO、KernD会長「原子力発電所の運転再開を決定する連邦政府は、必要な条件を整えなければならない。一つ確かなことは、原子力発電は、短期的にCO2排出量を削減し、低電力コストを通じて経済の競争力を強化するための重要な柱であるということだ。当社はドイツの原子力発電所の建設者。発電所に精通しており、発電所を安全に運転再開させるために必要な手順を実行できる専門知識を有している」― C. ハーフェルカンプ フラマトム(ドイツ)社取締役、KernD副会長「燃料供給は簡単。この選択肢を真剣に考えることは理に適う。原子力再開の利点は、気候保護、エネルギーセキュリティの確保、ロシアへの依存からの脱却だ。そして最後に重要なのは、ドイツの産業の競争力だ」― J. ハレン ウレンコ・ドイツ社取締役、KernD副会長「原子力発電は、ドイツの再生可能エネルギーを完全に補完するもの。安全性を損なうことなく、2030年までに原子力発電所の運転再開は可能だ。当社は、国際的な専門知識を持って、ドイツが将来に向けて正しい道を歩むことを支援し、運転再開に向けて必要な製品とサービスを提供する」― M. パシェ ウェスチングハウス・ドイツ社取締役、KernD理事「ドイツは、原子力発電所の安全かつ効率的な運転に関する広範な専門知識を有している。原子力技術部門と研究機関は、原子力の運転再開に向けた訓練機会とノウハウを提供できる」― M. コシュ ルール大学ブーフム、プラントシミュレーション・安全担当教授、KernD理事(研究・人材開発担当)「ドイツは依然として原子力技術の専門知識を必要としている。研究機関、大学、革新的な企業のネットワークを維持し、若い才能を引き付けなければならない。運転再開は、経済的利益と環境への利点をもたらし、専門知識の維持と発展に大きく効果的に貢献する。ドイツは国際的に追いつくこの機会を逃すべきではない」― T. トロム カールスルーエ工科大学放射性廃棄物管理・安全・放射線研究 (NUSAFE)プログラムスポークスマン「ドイツの原子力技術コミュニティは、私たちの安全な原子力発電所の運転再開を強く支持している」― F. アペル ドイツ原子力学会会長、KernD理事ドイツでは2023年4月中旬に脱原子力を達成している。1998年に環境政党の緑の党を含む連立政権が発足、2002年に段階的原子力発電廃止を定める原子力法が発効。その後、発足した新政権は2010年、脱炭素化促進のために、運転期間延長を規定する原子力法改正を実施し、段階的廃止を中止するも、2011年には福島第一原子力発電所事故が発生。当時のメルケル政権は同年6月、2022年末までに全基の原子炉を廃止するための原子力法修正案を閣議決定し、同案は翌7月に可決された。8基が直ちに閉鎖され、その後2021年末までにさらに6基が閉鎖。残る3基も2022年末までに閉鎖予定だったが、政府は2022年10月、ロシアのウクライナ侵攻後のロシアからの天然ガス供給減リスクに対応するため、残る3基の運転期間を2023年4月15日まで延長した。ドイツは、脱原子力政策により不足する電力を補うため、再生可能エネルギーの発電量を拡大したが(2023年時点で55%シェア)、再エネだけに適用されている固定価格制度等の優遇措置により電気料金は高騰。ロシアのウクライナ侵攻後は、石炭火力による発電量も増加。この状況下、今回の総選挙で第1党となったキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は、安価でクリーンなエネルギー供給を目指し、送電網、貯蔵、そしてあらゆる再生可能エネルギーの拡大とともに、最近閉鎖された原子力発電所の運転再開の検討を行っている。
15 Apr 2025
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カナダ原子力安全委員会(CNSC)は4月4日、オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社に対し、ダーリントン新・原子力プロジェクト(DNNP)サイトにおける、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の初号機の建設を承認した。CNSCはOPG社が原子炉建設に適格であり、人々の健康と安全、環境を守りながら建設を行うと結論づけた。CNSCは建設許可の発給にあたり、2024年10月2日にオンライン上、ならびに2025年1月8日~10日、13、14日にオンタリオ州エイジャックスにて対面で開催された公聴会で受け取ったすべての意見書と見解を慎重に検討。さらに、先住民の権利についても協議の上、最大限に尊重することとしている。建設許可は2035年3月31日まで有効。標準的な許可条件に加え、環境アセスメントのフォローアッププログラムの実施など、DNNPサイト固有の許可条件を定める。さらにOPG社に対し、安全上重要な構造物、システム、およびコンポーネントの安全解析および設計に関する規制要件の遵守を検証するため、ホールドポイントを設定し、特定の作業に着手する前にはCNSCへの追加情報の提出を義務付けている。なお、今回の建設許可では、DNNPサイトでのBWRX-300の運転は承認しておらず、運転認可の発給にはOPG社の申請後、あらためて審査が必要となる。ダーリントン原子力発電所(CANDU炉×4基、各90万kWe級)ではOPG社が2012年8月、大型炉の増設(最大4基、480万kW)に向けてCNSCから10年間有効のサイト準備許可(LTPS)を取得した。大型炉の建設計画を中止した後、同サイトでSMRを建設する計画を進め、CNSCへの申請により、2021年10月にLTPSを10年更新した。同年12月、GEH社製BWRX-300の選定を発表し、2022年10月には、CNSCに初号機の建設許可を申請。さらに、オンタリオ州政府は2023年7月、OPG社と協力して、初号機に3基を追加した合計4基のBWRX-300をDNPPサイトで建設すると表明した。2023年10月にカナダ産業審議会が発表した調査では、SMR×4基の建設と運転・保守により、カナダのGDPを65年以上にわたり、約153億ドル(約1.57兆円)増加させ、平均して約2,000人/年の雇用をもたらすという。OPG社は2024年2月には、事前のサイト準備作業を完了させており、2028年末までに初号機を完成させ、2029年末までに営業運転を開始したい考えだ。後続機については順次、CNSCに建設許可を申請し、2030年代半ばまでに稼働させる計画である。OPG社は、初号機の建設経験等を通じて後続機のコストの削減やスケジュールの短縮方策を模索していく方針。また、ダーリントン原子力発電所における改修工事を通じて、大型炉の建設プロジェクトを予算内・スケジュール通りに進める知見を培っており、同様のアプローチをSMR建設にも適用できると強調している。
07 Apr 2025
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オランダの原子力規制当局である原子力安全・放射線防護庁(ANVS)は3月25日、海外ベンダーの3社それぞれが実施した、ボルセラ原子力発電所における2基新設の技術的実行可能性調査(THS)について、「設計上の不備はない」と暫定評価した。THSの実施は、気候政策・グリーン成長省(KGG)との契約によるもので、KGGはANVSに対し、THSに基づく安全性の観点から、オランダでの新設の実現の可否について評価するよう要請していた。2021年12月、オランダの新連立政権は連立合意文書に原子力発電所の新設を明記。また、政府は2022年12月、新設サイトとしてボルセラ・サイトが最適と発表した。計画では、2035年までに第3世代+(プラス)の原子炉、出力100万~165万kW×2基を新設し、オランダの総発電量の9~13%を供給するとしている。現在同国の原子力シェアは、唯一稼働するボルセラ原子力発電所(PWR、51.2万kW)により、約3%を占めている。同炉は運転開始後40年目の2013年に運転期間が20年延長され、現在の運転認可は2033年まで有効である。THSを実施したのは、米ウェスチングハウス(WE)社、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力(KHNP)の3社。2023年末から2024年にかけて、オランダ経済・気候政策省(EZK)(当時)とTHS実施契約を締結した。THSでは、各社の提案炉型(WE社:AP1000、EDF:EPR、韓KHNP:APR1400)が、オランダの法律および規制に準拠しているか、ボルセラ・サイト内のどの場所での設置が適しているか、必要な建設期間とコストについて調査するようKGGに依頼された。3社は、2024年末までにTHSを完了。ANVSは、3社自身による評価を踏まえ、ANVSは、これらの設計のいずれかがオランダで認可されないと想定する理由を今のところ見出されず、現時点で安全上の理由から、いずれかの設計を入札プロセスから除外したり、そのプロセスの一環として標準設計に調整を加えることを求める理由はないと評価。今後ANVSは、国際原子力機関(IAEA)の勧告、最近の原子力法の評価、および今回の3社自身による評価の結果を受け、原子炉に関するガイドラインを最新のものに改訂する方針だ。一方、ANVSは、これは企業自身による評価と設計に対して一般的なレビューを行ったものであり、ANVSが独自の徹底的な評価を実施してはいないため、最終的な認可発給を保証するものではないと指摘している。なおKGGは2024年11月、米国のAmentum社を独立した第三者評価機関として選定し、3社から提出されたTHSや市場調査の結果のレビューのほか、2基の新設に係る技術的および市場的実行可能性、および、設計と資金調達に関する助言を求めている。KGGはこれらの情報を早期から把握することで、新規建設プロジェクトの全体的なリスク軽減につながるとし、入札手続きでこれら情報を活用し、ベンダーを選定する考えだ。KGGは、5月初旬にも議会(下院)にTHSや第三者機関のレビュー結果を含め、新規建設プロジェクトについて報告を予定している。なお、第三者機関による各ベンダーとの最終協議の段階において、KHNPが選定プロセスから撤退したことを、S. ヘルマンスKGG相(副首相)が3月中旬、下院に宛てた書簡で明らかにした。これはKHNPのスウェーデン、スロベニアにおける選定プロセスからの撤退に続くものであるいう。
07 Apr 2025
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スウェーデン政府は3月27日、議会に原子力発電の新規建設に対する国家補助に関する新法案を提出した。法案は、スウェーデンにおける原子力発電の新規建設を検討する企業に対して、国家が行う補助の基本条件と形態を明記しており、早ければ2025年8月1日にも発効する。本法案を提出したのは、E. ブッシュ副首相兼エネルギー・企業・産業担当相、ならびにN. ウィクマン財務次官・金融市場相。新規建設と試運転、および建設前の設計他の準備に向けた、資金調達コストを引き下げるために政府融資を認める他、新設炉の運転時に市場リスクを軽減するため、運転事業者と政府による双方向の差金決済取引(CfD)制度の導入を提案している。但し国家補助の条件として、新規建設は同一サイトで、合計電気出力が少なくとも30万kW以上の場合のみと規定し、特別な理由がある場合は30万kW未満であっても、政府が補助の実施を決定できるとしている。また、補助の範囲を大型炉4基分(約500万kW)に限定し、プロジェクト会社(複数の可能性)の申請を受けて政府が決定することに加え、プロジェクト会社の株式を他の民間企業や国家が取得する可能性にも言及している。なお、国家補助はEUの国家補助規則をクリアする必要がある。今回の政府による法案提出を受け、スウェーデン国営電力会社バッテンフォールのD. コムステッド新原子力発電部門長は、歓迎するコメントを発表。「国家が資金調達において明確な役割を果たすことは、原子力発電の新規建設への投資を可能にする基本的な前提条件。この法案は、ヴェーロー半島にあるリングハルス原子力発電所(PWR、110万kWe級×2基)で新規建設を実現するための重要な一歩である。法案を詳細に読み、できるだけ早く申請の準備をする」と語った。バッテンフォールは2022年6月、リングハルス・サイトで少なくとも2基のSMRを建設するための実行可能性調査(F/S)を開始しており、早ければ2030年代半ばまでに初号機を稼働させたい考えだ。スウェーデンでは2022年9月に総選挙が行われ、翌10月、40年ぶりに原子力を全面的に推進する中道右派連合の現政権が誕生、2023年11月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップが発表された。これには、カーボンフリーの電力を競争力のある価格で安定して供給することを目的に、社会の電化にともない総発電量を25年以内に倍増させるため、2035年までに少なくとも大型炉2基分、さらに2045年までに大型炉で最大10基分を新設することなどが盛り込まれている。また、2024年1月には、環境法の一部改正法が発効、新たなサイトでの原子炉の建設禁止や国内で同時に運転できる原子炉基数を10基までとする旧・制限事項が撤廃された。同年8月には、N. ウィクマン財務次官・金融市場相が2023年12月に政府が任命したM. ディレン政府調査官とともに、新規建設のための資金調達とリスク分担について、国による補助金やCfDモデルの導入などを盛り込んだ報告書を発表するなど、原子力推進に向けた事業環境整備が着々と進められている。
04 Apr 2025
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米原子力規制委員会(NRC)は3月31日、デューク・エナジー社がサウスカロライナ州で運転するオコニー1、2、3号機(PWR、各90万kW級)に対して、2回目となる運転期間延長を承認した。これにより3基は、80年運転が可能となる。 NRCは2021年6月、デューク社による運転期間延長の申請を受理。審査手続きの一環として、NRCは2022年12月に安全評価報告書(SER)を完成。2025年2月に環境影響評価書(EIS)の最終版を公表し、「20年間の運転期間延長を妨げるような環境への悪影響はない」と結論づけた。NRCの原子力安全許認可会議(ASLB)も2025年1月、延長申請に関する裁定手続きを終了し、「解決のために残された争点はない」としている。 オコニー発電所は、1、2号機が1973年に、3号機が1974年に送電を開始し、2000年に当初の運転期間である40年間に加え、20年間の運転期間延長が認められ、現行の運転認可はそれぞれ2033年、2034年まで有効であった。デューク社は、オコニー発電所のメンテナンスとアップグレードに多額の投資を行い、原子炉容器のベッセルヘッド、蒸気発生器、タービン、変圧器、ポンプ、バルブなどの機器交換を含む、バックフィット作業を行った。今回さらに20年の運転期間延長が認められたことから、それぞれ運転期間は80年となり、1号機は2053年2月、2号機は2053年10月、3号機は2054年7月まで運転することが可能となった。米国で80年の運転期間が認可された原子炉は、これで計12基となった。 デューク社は、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州において、計6サイト・11基の原子力発電所を所有し、両州の消費電力の50%以上を供給している。すでに、全11基は最初の運転期間延長の認可済みであり、同社はさらなる運転期間の延長を目指している。うち、オコニー発電所は、2度目の運転期間延長の認可を受けた、同社初の発電所。同社は今年4月には、サウスカロライナ州にあるロビンソン発電所(PWR、78万kW)についても2度目の運転期間延長の申請をする予定である。 同社のK. ヘンダーソン原子力部門責任者は、「オコニー発電所の運転期間延長は重要なマイルストーンであり、当社の他の発電所の延長申請において重要な教訓となる」「バックフィット作業の実施、よりクリーンな技術への投資を通じ、原子力は当社の発電ポートフォリオの柱であり続ける」と語った。 サウスカロライナ州のH. マクマスター知事も、今回の80年運転の認可を受け、「手頃な価格で信頼できるエネルギーは、サウスカロライナ州の継続的な経済的繁栄のカギであり、エネルギーの未来を形作る中で、原子力は重要な役割を果たす」とその意義を強調した。
03 Apr 2025
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ロシアの連邦環境・技術・原子力監督庁(ロステフナゾル)は3月31日、原子力発電所運転機関であるロスエネルゴアトム社に対し、スベルドロフスク州にあるベロヤルスク原子力発電所3号機(ナトリウム冷却高速炉BN-600、60万kW)の15年間の運転期間延長認可を発給した。これにより同機は、2040年まで運転が可能となった。 原型炉であるBN-600は1980年4月に送電開始、1981年11月に営業運転を開始した。送電開始以降、約1,770億kWhの発電実績がある。運転期間の延長により、さらに600億kWhの発電が見込まれている。 運転期間の延長審査にあたっては、圧力容器と炉内構造物、支持ベルト、熱交換器支持部など、交換不可能な部品の状態を検査。その結果、これら部品は運転期間延長においても問題がないことが示された。また、建屋、設備およびシステム安全性の向上を目的に、蒸気発生器モジュールや、1次循環系ポンプが交換されるなど、多くのバックフィットが実施されている。 同発電所のI. シドロフ所長は、「ベロヤルスク発電所3号機は原子力の未来のカギ。使用済み燃料を利用したMOX燃料が初めて試験され、将来の第4世代の高速炉であるBN-1200MおよびBREST(鉛冷却高速炉)向けの燃料と材料の高い品質を確認するために、現在、新しい燃料集合体が炉心にある。さらに重要なのは、高速炉の信頼性の高い運転経験から得られた貴重なノウハウである」と語った。 ベロヤルスク発電所では、BN-600の他、4号機として実証炉のBN-800(88.5万kWe)が2016年10月から営業運転中。両機は、核燃料サイクルの完結という原子力産業の戦略的課題の解決に取り組んでおり、数百年にわたる燃料供給、使用済み燃料の再利用とともに、放射性廃棄物の最大限の減容を目指している。
03 Apr 2025
572
米ウェスチングハウス(WE)社は3月31日、米原子力規制委員会(NRC)がWE社製のマイクロ炉eVinciの基本設計基準(PDC)トピカルレポートを承認したことを明らかにした。WE社は、PDC承認を許認可手続きの上で、重要なマイルストーンの達成と捉えている。 PDCは原子炉の設計ベース、すなわち原子炉の構造、システム、および構成要素の各部分がどのように機能するかを定義し、原子炉設計がNRC規則にある設計基準に適合することを保証するもの。トピカルレポートとは、NRCが承認する、特定の技術的課題や安全設計基準などを詳細に説明した報告書である。WE社は、今回のPDC承認により、eVinciを導入するための許認可取得の明確な道筋が示されたとし、顧客による許認可取得手続きの簡素化および合理化に期待を寄せている。 WE社傘下のeVinciテクノロジー社のJ. ボール社長は、「PDC承認により、当社の顧客はeVinciが非常に合理化され、反復可能な方法で導入に向けた許認可を取得できるという確信を持てる」「eVinciの小型かつ輸送可能という特長を生かし、必要な時に必要な場所へ迅速に展開でき、競争力のあるコストで、かつレジリエントな電力供給を実現する」と強調している。 eVinciは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWのヒートパイプ冷却の可搬式原子炉で、軽水炉のような冷却ポンプは不要。燃料交換なしで8年以上にわたり電力の安定供給が可能だ。工場で製造・組立してから設置場所に輸送される。
02 Apr 2025
643
米国の大手化学メーカーであるダウ(Dow)社とX-エナジー社は3月31日、テキサス州シードリフトで計画されているX-エナジー社製SMRの高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」(電気出力8万kW)を採用する発電所の建設許可を米原子力規制委員会(NRC)に申請したことを明らかにした。 ダウ社が提案する先進炉プロジェクトは、同社の完全子会社であるLong Mott Energy社が開発。ダウ社のテキサス州メキシコ湾沿いに位置するシードリフトの製造サイトに、運転期間満了間近の既存の発電・蒸気設備に替わる、安全かつ信頼性が高く、クリーンな電力と産業用蒸気を供給する発電所を設置する。本プロジェクトは、米エネルギー省(DOE)が先進炉の展開の加速を目的として開始した、先進的原子炉実証プログラム(ARDP)の中で、5~7年以内に実証(運転)を目指し、支援対象に選定した二つの設計のうちの一つである。 2018年以降、X-エナジー社、続いてダウ社は、高度な燃料設計、受動的安全機能、最先端の分析技術を通じて、Xe-100の安全性を実証し、広範な許認可申請前活動を通じてNRCと協力してきた。建設許可の承認は、最大30か月かかると予想。ダウ社は許可を取得後、財務上のリターン目標を達成しつつ、プロジェクトの遂行能力を確認できれば、建設を開始するとしている。本プロジェクトが実現すれば、2020年代後半に建設を開始、2030年代初めに稼働し、北米の産業施設に配備される最初のグリッド規模の先進炉になると期待されている。X-エナジー社のJ. セルCEOは、「今回の建設許可申請は、米国を先進炉の商業化の最前線に位置づけるという議会とDOEのビジョンを実現するための重要なステップである」「世界クラスのダウ社とともに、テキサス州シードリフトで展開される先進炉を迅速かつ効率的に複製して、全米の驚異的な電力需要の増加への対応を実証する」と意欲を示した。 X-エナジー社は、Xe-100およびTRISO-X燃料製造施設の開発、許認可取得手続き、建設活動が2020年10月にDOEのARDPの支援対象に選定後、Xe-100のエンジニアリングと予備設計を完了、テネシー州オークリッジにおけるTRISO-X燃料製造施設の開発と許認可手続きを開始し、その技術の商業化に向け民間から、約11億ドル(約1,648億円)を調達している。 ダウ社のシードリフト・サイトは、約19㎢の広さを有し、食品の包装と保存、履物、ワイヤーとケーブルの絶縁、太陽電池膜、医療および医薬品の包装など、幅広い用途で使用される材料を製造している。
02 Apr 2025
693
フィンランドの電力会社であるフォータム社は3月24日、フィンランドとスウェーデンにおける原子力発電所の新規建設の前提条件を調査する2年間の実行可能性調査(F/S)の完了を発表。また、大型炉のベンダー2社と小型モジュール炉(SMR)ベンダー1社と協議を継続する方針を明らかにした。フォータム社は2022年10月に、フィンランドとスウェーデンの2か国における新規原子力発電所の商業面、技術面、社会面での前提条件を調査する、広範なF/Sを開始した。調査の過程で、複数のベンダー、潜在的なパートナー、顧客、社会的利害関係者と詳細に協議を行ったという。フォータム社は、安定し、競争力のある低炭素の北欧電力システムにおいて、原子力の新設が重要な役割を果たすと認識。将来の顧客需要を満たすための選択肢として、既存の原子力発電所とのリプレースを視野に入れ、長期的な選択肢として原子力発電開発を継続する考えだ。同社のM. ラウラモCEOは、「電化による産業と社会の脱炭素化は、2050年に向けて北欧の電力需要を大幅に増加させ、場合によっては倍増させる。再生可能エネルギーのみに頼るのは、非常に不安定な電力システムにつながる恐れがあり、顧客や社会にとって望ましくない」「将来的にもあらゆる低炭素の発電オプションを堅持しておくことは理にかなう」と強調した。同氏はまた、「今後5年から10年の間、北欧の新規電力需要は主に、新たな陸上風力発電と太陽光発電に加え、揚水発電および既存のロビーサ原子力発電所の運転期間延長によって対応する。新規の原子力発電は、市場と規制の条件が揃えば、2030年代後半の早い時期に導入される可能性がある」との展望を示した。フォータム社は、産業規模の大口顧客の多くが、安定した電力の長期購入契約による供給確保を望んでおり、バランスのとれた電力ミックスの維持は、すべての顧客と社会にとり利益をもたらすと指摘。一方で、新規建設プロジェクトの主なリスクは、長期に及ぶ建設期間、資金手当の難しさ、不透明な電力の市場価格によるものと言及している。F/Sの結果、現在の電力市場の見通しでは、新規建設プロジェクトは商業ベースだけでは経済的に実行可能ではないが、独自の分析と他の西側諸国で進行中の新規建設プロジェクトに基づき、顧客需要の増加に対応すれば、スウェーデン政府が準備しているような強固なリスク分担の枠組みにより管理可能であると結論づけている。また、新規原子力プロジェクトのリスク軽減にとって重要なものとして、EUと各国レベルでの規制のすり合わせや、政治的安定性を掲げている。さらに資金調達においては、原子力発電は、水素、肥料、クリーンスチールなどの低炭素製品の原料として、他のクリーン技術と同等に扱われるべきと訴えている。同社は今後数年間、新規原子力発電プロジェクトの共同開発と共同投資へ関心を持つパートナーシップを模索するほか、潜在的な顧客との間で、ニーズを満たす最適解について協議を続ける方針である。F/Sの中で、ベンダーとともに何千時間も大型炉や小型モジュール炉(SMR)の設計評価を行い、今後、大型炉を開発するフランス電力(EDF)、米ウェスチングハウス(WE)社と韓・現代E&C社からなるコンソーシアムの2社、およびSMRを開発する米GE・日立社との協力を深める方針だ。フォータム社のL. ルヴェーグル新規原子力担当副社長は、「新規建設プロジェクトの実施にあたり、技術の成熟度の確保、国別の要件の制限、投資前の段階ですでにベンダーの能力を検証することが必要」とし、「投資を検討する前に、3社のベンダーと協力してプロジェクトのリスクを軽減する。コストのかかる設計変更の可能性を減らすには、建設前に可能な限りプラント設計の許認可リスクを軽減する。結果的に、プロジェクトの遅延を防ぐことになる」と指摘した。フォータム社は、VVER-440(PWR、53.1万kW)×2基で構成されるロビーサ発電所を運転。同発電所はフィンランド初の原子力発電所であり、現在、同国の総発電電力量の10%を供給している。1号機は1977年に、2号機は1981年に営業運転を開始。両機は2023年2月、20年間の運転期間延長の認可を取得し、2050年末まで運転可能となった。なお、同社はフィンランドのオルキルオト原子力発電所の他、スウェーデンのオスカーシャム原子力発電所、フォルスマルク原子力発電所の共同所有者でもある。
01 Apr 2025
808
米エネルギー省 (DOE)は3月24日、トランプ大統領によるエネルギーおよび人工知能(AI)分野の規制緩和方針に基づき、小型モジュール炉(SMR)の配備に向けて、総額9億ドル(約1,352億円)の支援に対する再申請プロセスを開始した。 C. ライトDOE長官は、「米国の原子力ルネサンスは今始まる。豊富で安価なエネルギーは、米国の経済的繁栄と安全保障のカギだ。本募集は、先進的な軽水炉型SMRの配備を通じて、より多くのエネルギーの送電をめざす、先行企業への行動を呼びかけるもの」と強調した。 米国の電力需要は、消費者のニーズ、データセンターの成長、AI利用の増加、産業部門の恒常的な電力需要によって、今後数年間で急増すると予測されている。DOEは、SMRはエネルギー集約型部門に信頼性の高い電力の提供とコンパクトなサイズおよびモジュール設計により柔軟な設置が可能であり、特に、軽水炉型SMRが、米国の既存の軽水炉を支えるサービスとサプライチェーンの活用により、短い期間で導入可能な利点を指摘する。DOEは、第3世代+(プラス)軽水炉SMRの配備のリスクを軽減するために、次の2つのカテゴリーに分けて資金提供を実施する。1つ目のカテゴリーとして先陣を切る、ファースト・ムーバー・チーム支援(First Mover Team Support)では、DOEは、同時に複数の第3世代+SMRの受注促進を目的として、コンソーシアム・アプローチ、すなわち、電気事業者、原子炉ベンダー、建設業者、エンドユーザーなどがチームとして参加することを条件とし、最大2チームを支援。支援額は最大8億ドル(約1,202億円)。プロジェクト設計に保障措置とセキュリティを取り込むため国家核安全保障局との協業を考慮する。2つ目のカテゴリー、ファスト・フォロワー・導入支援(Fast Follower Deployment Support)では、設計、許認可申請、サプライチェーン、サイト準備などの分野で国内の原子力産業の発展を妨げてきた主要なギャップに対処し、第3世代+SMRのさらなる配備の促進に向けて約1億ドル(約150億円)を支援する。選考は、技術的な利点のみを考慮し、応募締め切りは2025年4月23日。前バイデン政権下で2024年10月に実施された募集時における申請者が再び審査を受けるには、新しいガイダンスに従って提案を再提出する必要があるとしている。詳細は、第3世代+SMRのWebページの参照を呼び掛けている。
31 Mar 2025
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オランダの原子力研究機関のNRGパラス(Nuclear Research and consultancy Group PALLAS)は3月20日、米ケイロス・パワー(Kairos Power)社と、ケイロス社が開発する小型モジュール炉(SMR)で使用される燃料と材料を評価する試験契約を締結した。ケイロス社は2024年10月、米IT企業大手Google社と、ケイロス社が開発する先進炉を複数基、合計出力にして最大50万kWeを2035年までに導入し、Google社のデータセンターに電力を供給する、電力購入契約(PPA)を締結している。そのため、ケイロス社は開発中の第4世代SMRであるフッ化物塩冷却高温炉 (KP-FHR、熱出力32万kW、電気出力14万kW)の商業化に向けて、オランダ・ペッテンにあるNRGの高中性子束炉(HFR)での燃料照射プログラムを通じて、燃料および材料の照射試験を行い、米原子力規制委員会(NRC)に対して、燃料の安全性を実証したい考えだ。また、ケイロス社がNRGと協力して実施する黒鉛照射試験は、KP-FHR炉心で使用される黒鉛反射体構造の高レベルの中性子曝露に対する安全限界を実証するもの。照射後特性は、NRCの許認可において重要な指標となり、原子炉技術の安全性を示すものとなる。原子炉容器と構造部材に使用されるステンレス鋼材料の照射試験も実施し、安全性と設計限界を実証することで、ケイロス社の許認可活動を支援するという。なお、NRCはケイロス社の実証炉「ヘルメス」と後継の「ヘルメス 2」の建設許可をすでに発給しており、ケイロス社は、これらヘルメス炉から学んだ教訓を基に、2030年までにGoogle社向けの商用フリートに初号機を配備、稼働させる計画である。ケイロス社のM. ハケット燃料・資材担当副社長は、「当社の原子炉技術を進歩させるために、正確で信頼性の高い照射性能データに依存している。優れた照射データの作成に長年の実績のあるNRGは、Google社や将来の他クライアントとのコストやスケジュール面でのコミットメントの達成を支援する、信頼できるパートナーである」と語った。
28 Mar 2025
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米国の原子力開発ベンチャー企業であるテラパワー社は3月11日、同社が開発する先進炉「Natrium」の部品のグローバル製造サプライチェーンの拡大に向けて、韓国のHD現代重工業と戦略的提携を発表した。テラパワー社の最先端技術と、HD現代の製造ノウハウを組み合わせ、ナトリウム冷却高速炉と統合エネルギー貯蔵システムを備えたNatrium(34.5万kWe)の大規模生産と迅速なグローバル展開を可能にする新たなサプライチェーン能力の構築が目的。この提携は2024年、米ワイオミング州に建設予定のNatrium初号機の原子炉容器供給者にHD現代重工業が選定されたことが契機となっている。HD現代重工業は、造船を専門とするHD現代の傘下企業である。テラパワー社のC. レベスクCEOは、「当社は、米国でNatrium初号機導入の後、今後10年間に米国内外で競争力のある価格で後継機の迅速な展開をしていく。Natriumは、ベースロード電力とギガワット級のエネルギー貯蔵を提供し、増大するエネルギー需要に応える、信頼性が高く、柔軟性のある電力供給が可能。世界的に高い評価の製造能力を有する、HD現代重工業との協力により、Natriumのグローバル展開に不可欠な商業規模の生産能力を確立していく」と抱負を語った。HD現代重工業のK. ウォン上級副社長は、「Natriumの部品製造において、当社の実証済みで高精度な製造ノウハウと、大規模生産が可能なサプライチェーン能力を活用し、テラパワー社の商業展開のビジョンを支援していく。本提携は、次世代原子力エネルギーソリューションの商業可能性を加速させる、画期的な協力関係の始まりとなる」と意気込みを示した。Natriumは2020年10月、米エネルギー省(DOE)が支援する先進的原子炉実証プログラム(ARDP)の「5~7年以内に実証可能な炉」に選定されたプロジェクトの1つ(もう1つは、X–エナジー社の高温ガス炉「Xe-100」)。テラパワー社はARDPを通じて、Natriumの設計、建設、運転特性を検証する。初号機は、米ワイオミング州南西部のケンメラーで閉鎖予定の石炭火力発電所の近くに建設される。テラパワー社は、Natriumがクリーンエネルギーを生産するだけでなく、閉鎖する石炭火力発電所に代わり、エネルギー生産地域の経済を支え、建設やその後の運転期間における雇用を促進すると見込む。同社は2024年3月、米原子力規制委員会(NRC)に建設許可を申請、6月には起工式を挙行し、非原子力部の建設工事を開始した。原子力部の着工は早くて2026年、送電開始は2030年を予定している。
26 Mar 2025
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ロシアのレニングラード第Ⅱ原子力発電所4号機(PWR=VVER-1200、119.9万kW)が3月20日、着工した。昨年3月には、同型の3号機が着工している。計画では、同第Ⅱ発電所の3号機、4号機を稼働させ、1980年代初めに運開した3、4号機(軽水冷却黒鉛減速炉のRBMK-1000、100万kW級)を閉鎖する。1、2号機(RBMK-1000、100万kW級)は45年の運転期間を経て、第Ⅱ発電所1、2号機の運転開始後の2018年12月と2020年11月に閉鎖され、現在は廃止措置の準備中である。着工式典には、ベラルーシのベラルシアン原子力発電所、エジプトのエルダバ原子力発電所、バングラデシュのルプール原子力発電所の代表者らも、オンラインで参加した。これらの発電所では、ロシア国営原子力企業ロスアトムの支援を受けて建設された、または建設中のVVER-1200を採用している。VVER-1200はロシアが開発した第3世代+(プラス)炉で、動的と静的、2種類の安全系を持ち、コンクリート製の二重格納容器や、設計基準外事象の発生時に放射性物質の漏洩を防ぐコア・キャッチャーを備える。ロシアではノボボロネジ第Ⅱ原子力発電所1、2号機で先行採用・運転されている。ロスアトムのA. ペトロフ第一副総裁(原子力発電担当)は本着工に際し、「国のエネルギーミックスにおける原子力発電の割合を増やすという主要な国家目標に向けた新たな一歩、早ければ今年中には、スモレンスク原子力発電所とコラ原子力発電所でリプレース作業を開始し、ベロヤルスク原子力発電所では第4世代の高速炉(BN-1200M)の建設に向けたエンジニアリング調査を完了する予定。今後20年間で、ロスアトムはシベリア、ウラル地域、極東において新たな建設プロジェクトに取組み、国民はクリーンなエネルギーにアクセス可能になる」と展望を示した。ロスアトムは、露大統領の指示により、2045年までに総発電電力量に占める原子力シェアを25%にすることを目指している。ロスアトムのA. リハチョフ総裁は3月7日、ニジニ・ノヴゴロド州南端のサロフ市で開催された「情報Day」で、「大統領の指示により、今年は沿海地方で原子力発電所(VVER-1000×2基)の建設に取組む必要があり、早ければ2032年に送電開始する」と語った。また、今年内にはクルスク第Ⅱ発電所の1号機の営業運転を開始させるほか、海外では、トルコとバングラデシュで建設中の発電所で初併入、ウズベキスタンのSMR発電所の建設契約の実現とともに、大型炉の建設契約の獲得に努める、と語った。さらにリハチョフ総裁は、「世界市場で競争が激化し、経済的圧力と制裁下でも、技術力を活かし、グローバル市場でのリーダーシップの強化に努めなければならない」と強調。国内市場での技術とハイテク製品および輸入代替品の不足、労働市場の競争激化、厳しい経済・金融状況という困難の中、限られたリソースを活用し、効率的に活動すると明言した。具体的には、不採算事業の見直しに加え、諸手続きのデジタル化と簡素化、人工知能の活用により、あらゆる企業機能と投資およびプロジェクト活動の質と効率を向上させるとしている。また、BRICS+およびCIS諸国との協力も継続的に発展させる考えだ。2024年12月末に政府承認された、2042年までの原子力発電設備計画によると、ロシアでは既存および新規(シベリアや極東のような新たな地域を含む)の計15サイトで、大型炉、中型炉、小型モジュール炉(SMR)など計38基(約2,455万kWe)を新設する計画。一方、運転期間を満了する原子炉の閉鎖は約1,037万kWe規模である。この計画が実現すると、2042年の総発電設備容量は現在の11.7%から15.7%に拡大。総発電電力量に占める原子力シェアは、現在の18.9%から2042年に24%になると予測されている。
25 Mar 2025
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カザフスタンのK.-J. トカーエフ大統領は3月18日、大統領直属の機関として原子力庁を設立する大統領令を発令した。3月14日には、自身が議長を務める全国クルルタイ(国民会議)で演説し、今後数十年にわたる経済発展の強固な基盤となる新たなエネルギー産業の創出に向けて、原子力庁を設置することを明らかにしていた。原子力庁は、原子力産業の一層の発展と核セキュリティの強化を目的に、エネルギー省の機能及び権限を移転させ、ウラン採掘に関連する地下利用、原子力利用、住民の放射線安全の確保ならびに原子力発電所の建設及び運転の責任を負う。長官には、A. サトカリエフ・エネルギー相が就任した。(エネルギー相にはE. アッケンジェノフ次官が就任)。トカーエフ大統領は全国クルルタイでの演説の中で、ハイテクはあらゆるセクターの発展に必要な機関車であると指摘。政府は高度なデジタル化と人工知能(AI)の広範な導入に適した環境を作り出すため、エネルギーのポテンシャルを高めるとともに、電力の完全自給自足を達成するだけでなく、世界のエネルギー市場の主要な輸出国にならなければならない、と語った。そのうえで、現在のエネルギー需要だけでなく、今後数十年にわたるダイナミックな経済発展に向けて、新たなエネルギー産業の創出の戦略的重要性を説き、原子力発電所を1サイトではなく、3サイト建設する考えを示した。カザフスタンでは2024年10月、ソ連からの独立後、初となる原子力発電所の建設を問う国民投票が実施され、原子力発電所の建設に7割が賛成した。同年12月、政府はアルマティ州のジャンブール地区を建設地区に決定。今年中には、炉メーカー(またはコンソーシアム)を選定し、政府間協定および関連契約の締結を計画している。なお、省庁間委員会が2月25日に開催され、同国初となる原子力発電所の建設について、以下の提案が検討された。今後、各提案の徹底的かつ包括的なレビューを継続するという。・中国核工業集団公司(CNNC)製「華龍一号(HPR-1000)」(100万kW級PWR)・露ロスアトム製VVER-1200(120万kW級PWR)・韓国水力・原子力(KHNP)製「APR1000」「APR1400」(100万kW級/140万kW級PWR)・フランス電力(EDF)製EPR-1200(120万kW級PWR)サトカリエフ・エネルギー相(当時)や同省幹部は3月中旬、米エネルギー省(DOE)のC. ライト長官、中国核工業集団公司(CNNC)の申彦锋・総経理、仏EDFの幹部らと会談し、原子力分野における協力について協議を実施している。
24 Mar 2025
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インドネシアのPT Thorcon Power Indonesia(PT TPI)社は3月4日、インドネシア原子力規制庁(BAPETEN)に対し、米国のデベロッパーThorcon社製の先進的熔融塩炉を採用した実証プラント「Thorcon 500」(50万kWe)の建設に向けて、許認可手続きを開始したことを明らかにした。同国バンカ・ブリトゥン州のバンカ島の沖合にある、ケラサ島が同プラントのサイトとして提案されている。 シンガポールを拠点とするThorcon International社の子会社であるPT TPI社は2月13日、BAPETENに、サイト評価プログラム(PET)およびサイト評価管理システム(SMET)の承認を得るための申請書類を提出した。PT TPI社は、インドネシア史上初の原子力発電所の建設申請者。なお、インドネシアの国家エネルギー審議会(議長:大統領)が、Thorcon実証プラントを次の5か年計画に組み入れているという。 今回の申請は、約2年間にわたるBAPETENとの事前ライセンス協議に続くもの。2023年3月、両者は熔融塩炉(25万kWe)を2基搭載したThorcon 500の許認可取得に向けて3S(原子力安全、核セキュリティ、保障措置)の確保を前提に、協議を開始することで合意。プラント建設のためのマスタープラン文書のレビュー、原子炉プロトタイプおよび非核分裂性試験プラットフォーム(NTP)施設に係るロードマップに関する協議の他、許認可手続きに必要となる技術文書などの準備、および原子炉の設計承認について協議を行ってきた。PT TPI社は、審査プロセスにおいて迅速かつ徹底的な評価を確実にするために、BAPETENからのいかなるフィードバックにも全力で取組む意向を示している。 Thorcon 500は、1960年代に米エネルギー省オークリッジ国立研究所が開発した技術に基づいく。低圧下で熔融フッ化物塩を一次冷却材として使用、低濃縮ウラン燃料を用いた25万kWeの原子炉2基で構成され、交換可能な密閉「カン」(Can)に格納されている。造船所で船体に組み入れられ、浅瀬のサイトまで曳航される。8年間の運転後、原子炉モジュールは切り離され、カン交換のためにメンテナンスセンターに曳航される。熔融塩燃料は、緊急時には受動的に冷却タンクに排出され、核分裂を即座に停止。加熱のリスクを排除し、安全性を維持する運転員の介入や外部電源の必要はないという。モジュール製造向けに設計されたThorcon 500は、最高の国際安全基準に適合しており、インドネシアのエネルギー移行において重要な役割を果たすと期待されている。ケラサ島で実施された、安全性、生態学的要素、立地適性に焦点を当てた予備的なサイト調査により、同島が有力なサイト候補地とされた。PT TPI社は、2032年までにThorcon 500を稼働させ、インドネシア国営電力会社PLNに売電を計画する。すでに鉱業やIT企業から、ケラサ島でのプラントの完成後、電力購入契約の締結の打診もあるという。PT TPI社はプラントの初稼働後、Thorcon炉の国内製造・組立ラインを開発し、インドネシアの新しい産業部門の成長を促進させたい考えだ。 BAPETENは、3Sの枠組みの中で積極的に協議に参加したPT TPI社の取組みを評価し、事前協議は、許認可プロセスの継続にあたり、技術と管理両面での障壁を最小限にするものである、と指摘した。 インドネシア政府は、再生可能エネルギーや原子力など新たな無炭素電源の研究開発を促進して、CO2排出量の実質ゼロ化に移行していく方針。原子力発電所の設備容量を2035年に800万kWe、2060年には5,400万kWeへの拡大を目指している。現状、総発電電力量の約8割を火力発電(主に石炭火力)が占める。PT TPI社は、Thorcon 500プラントは「太陽光や風力などの再生可能エネルギーを補完する安定した低コストのベースロード電源となる」と語っている。
24 Mar 2025
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フランスのE. マクロン大統領は3月17日、自らが議長を務める閣僚級の「原子力政策評議会(CPN)」を招集。フランス電力(EDF)が計画する改良型欧州加圧水型炉(EPR2)6基の建設費の少なくとも半分を国が優遇融資で支援する方針を決定した。CPNは2022年より定期的に開催されており、フランスの原子力政策全般や各プロジェクトを短期的・長期的に管理・調整する役割を担っている。2022年2月のマクロン大統領による仏東部ベルフォールでの演説で示されたエネルギー政策目標に沿って、エネルギー複数年計画(PPE)に反映すべく、原子力再生に向けた戦略を協議している。同大統領はこの演説で、フランスのCO2排出量を2050年までに実質ゼロとし、国内の原子力産業を再活性化するため、フランスでEPR2を新たに6基建設し、さらに8基の建設に向けた調査を開始すると表明していた。EDFは、パンリー、グラブリーヌ、ビュジェイの各原子力発電所にEPR2を計6基建設し、2038年までに初号機の試運転を計画している。今回のCPNでは、EDFのEPR2による建設プログラムの資金調達と規制スキームの主要原則を検討。建設費用の少なくとも半分を国が優遇融資で支援し、最大100ユーロ/MWhの差金決済取引(CfD)を実施することで合意した。さらにCPNはEDFに対し、コストとスケジュールの管理強化を求め、コストと期限に関するコミットメントを今年末までに提示するよう指示。2026年のEDFによる最終投資決定(FID)を視野に、今後数週間で国とEDFの間で協議をまとめ、欧州委員会(EC)の承認取得に向けた交渉を迅速に開始する方針だ。また、世界各国で新設計画や新型炉の導入が発表される中、CPNは現在の地政学的状況におけるウラン主権の確保のため、サイクルの上流(採掘)における行動計画、特にフランスへの中長期的なウラン供給に向けて、オラノ社に対する国の支援を承認した。使用済み燃料の取扱いについては、ラ・アーグ再処理工場でオラノ社が主導するバックエンド施設の更新・投資計画の継続を確認。既存炉や新設されるEPR2の使用済み燃料を貯蔵するため、2040年までにラ・アーグ工場で新たな貯蔵プールの操業を開始する必要があるという。CPNはさらに、今世紀後半には天然ウラン輸入を必要としない、クローズド・サイクルを達成するためのガイドラインを確認し、研究再開に向けた準備作業を開始。プルトニウムと劣化ウランから燃料を製造し、高速炉で燃焼させた後の再処理には、大規模な技術開発が必要となるため、CPNは、燃料製造業者(EDF、フラマトム社、オラノ社)や仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)、および高速炉に係るすべての関係者に対し、今年末までに作業計画と産業組織の提案を国に提示するよう求めた。また、2021年10月にマクロン大統領が発表した産業投資政策「フランス2030」では、2030年までに10億ユーロを投じて、革新的な小型炉の実証をめざしている。CPNは、この開発プロジェクトの第一段階が順調に進んでいることを評価。2030年初頭に実証炉の試運転につながる可能性が最も高いプロジェクトに優先順位を付け、支援を継続する権限を投資総局に与えた。なおCEAに対しては、マルクールとカダラッシュのサイトに関連するデータを要請する企業がアクセスできるようにし、同サイトで最先端プロジェクトを実施するための協議を開始するよう求めている。
21 Mar 2025
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米ウェスチングハウス(WE)社は3月11日、欧州のデータセンター開発・運営企業であるData4社と、欧州における将来のデータセンターへの電力供給を目的に、同社製小型モジュール炉(SMR)「AP300」(PWR、30万 kW)の導入評価に関する了解覚書(MOU)を締結した。Data4社は、フランス・パリに本拠地を置き、フランス、イタリア、スペイン、ポーランド、ドイツ、ギリシャで35のデータセンターを運営している。米ゴールドマン・サックスの調査によると、生成AI関連サービスの成長に伴い、データセンターの電力需要は2030年までに23年比で165%増加すると予測されている。データセンターは、24時間365日稼働させるため、豊富で信頼性の高い、クリーンな電力が不可欠である。WE社のAP300は先進的な第3世代+炉で、既に運転実績のあるAP1000をベースとした、安全でコンパクトかつ柔軟な設計が特徴。AP1000のエンジニアリングやライセンス、コンポーネント、サプライチェーンを活用できるため、導入が容易で、2030年初めの運転開始をめざしている。同社は「エネルギー集約型の次世代コンピューティングに対して、コスト効率が高く、クリーンな電力をオンサイトで提供できる」としている。Data4社は「これまでのデータセンターは従来の電力会社のみに依存していたが、将来はオンサイト発電と従来のグリッド供給、エネルギー貯蔵を統合し、複数の電源を活用する時代に入る」と指摘。そのうえで、「AP300の導入は、キャンパスのエネルギーの自律性を高め、自給自足の持続可能なデータセンター・インフラ確立に向けた大きな一歩になる」と強調している。一方、WE社製のマイクロ炉「eVinci」について、米ペンシルバニア州立大学は2月28日、ユニバーシティパーク・キャンパスの新しい原子力研究施設への設置に向け、米原子力規制委員会(NRC)に申請プロセスの最初のステップとなる意向表明書(LOI)を提出した。この取組みは、ペンシルベニア州立大学とWE社が2022年に開始した、マイクロ炉の研究開発協力が発展したもの。eVinciは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWのヒートパイプ冷却の可搬式原子炉で、軽水炉のような冷却ポンプは不要。キャンパス全体の研究施設や建物に電力を供給し、燃料補給なしに8年以上にわたり電力の安定供給が可能だ。同大学には、1955年に全米初の運転認可を取得した研究炉BNRがある。WE社のJ. ボールeVinciマイクロリアクター担当プレジデントは、「ユニバーシティパークの研究施設は、ペンシルベニア州を世界有数の原子力イノベーションハブとし、学生や研究者に原子力を活用する新たな方法を見つける機会を提供する」と重要性を強調している。
19 Mar 2025
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インドで建設中のラジャスタン原子力発電所7号機(PHWR、70万kW)が3月17日、送電網に接続し、送電を開始した。同機は、2024年9月19日に初臨界を達成している。インド原子力発電公社(NPCIL)は、計16基からなる70万kW級の国産PHWR建設プロジェクトを掲げており、ラジャスタン7号機が営業運転を開始すると、同プロジェクトではカクラパー3、4号機に次いで、3基目となる。ラジャスタン8号機、ゴラクプール1、2号機が建設中で、10基が計画中。すべて2031年までに運開予定であり、インド原子力省(DAE)は同年までに原子力発電設備容量を2,248万kWに増強する計画である。インドの原子力発電開発をめぐっては、N. シタラマン大臣が2025年2月、2025年度(2025年4月~2026年3月)連邦予算を発表。原子力発電設備容量を2047年までに少なくとも1億kWに引き上げるとともに、2,000億ルピー(約3,500億円)を投じて小型モジュール炉(SMR)の研究開発を推進する「原子力エネルギーミッション」を開始、2033年までに少なくとも国産SMR5基の運転開始をめざす方針を表明した。さらに、民間企業がこのセクターに参入するための大きなハードルとなっていた原子力法および原子力損害賠償法の改正を進め、民間部門との連携強化を図る考えを示している。インド政府で原子力や科学技術を担当するJ. シン閣外専管大臣は、3月12日付けの下院議会への答弁書で、バーラト小型モジュール炉(BSMR)の開発状況について説明した。既存のPHWRを改良したBSMR-200(20万kWe)は、バーバ原子力研究所(BARC)とNPCILが設計・開発したもので、鉄鋼、アルミニウム、セメントなどのエネルギー集約型産業向けの自家発電用や、閉鎖予定の火力発電所の代替、送電網が未整備で接続されていない遠隔地への配置を想定している。現在、概念設計が完了し、当局の承認待ちであるという。建設期間はプロジェクト認可取得後、60~72か月を見込み、機器および部品の製造と納入はDAEが開発した国内のベンダーを通じて実施される。また、出力5.5万kWeの先行2基のツインユニットを2033年までにDAEのサイトに設置することも明らかになった。
18 Mar 2025
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韓国国会は2月27日、高レベル放射性廃棄物管理特別法案を可決した。本特別法は、高レベル放射性廃棄物(使用済み燃料)の管理・処分方針を定めた韓国初の法律であり、高レベル放射性廃棄物を安全に管理するための施設整備とその操業に必要な事項を規定し、誘致地域などの支援策を具体化するもの。可決から15日以内に公布され、公布から半年後に施行される。本特別法では、高レベル放射性廃棄物を管理し、管理施設の設置サイトの調査及び選定に必要な業務を行う独立機関として、国務総理(首相)の下に「高レベル放射性廃棄物管理委員会」(委員会)を設置し、高レベル放射性廃棄物の管理事業者を韓国原子力環境公団(KORAD)とすることを定めている。同委員会は、サイト適合性調査を策定、管轄市・郡・区の申請を受けて基本調査を実施後、深地層調査の対象サイトを選定、当該サイトを対象に同調査を実施する。その結果を評価し、住民投票などを経て管理施設のサイトを最終選定することとしている。また、サイト選定前に、研究専用の地下研究所をサイト内の地下環境に建設・操業し、地質学的特性など、処分施設の安全性に係る性能を研究・実証することとなっている。なお委員会は、管理施設のサイト選定、建設及び操業などに関する許可の申請前には、安全性確保のための規制に関する事項について原子力安全委員会の意見聴取を行うことが義務化されている。同一サイト内に建設される高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵施設は2050年までに、処分施設は2060年までの操業開始をめざしている。現在、韓国の原子力発電所の運転に伴って発生する使用済み燃料は、すべて発電所サイト内のプールや乾式貯蔵施設に一時貯蔵されている。2024年末までに合計540,924体の使用済み燃料集合体が貯蔵されており、2031年の古里原子力発電所とハンビット(霊光)原子力発電所を皮切りに、サイト内の貯蔵施設は徐々に飽和状態になると予想されている。2021年12月、閣僚級会合である原子力振興委員会で、高レベル放射性廃棄物管理基本計画(第2次)が承認されていたが、原子力産業界は、特別法の制定により計画を明確にし、サイト選定と主要課題、日程などの手続きを拘束力のある法律に詳細に盛り込む必要性を求めていた。KORADのチョ・ソンドン会長は、「特別法が国会本会議を通過したことは、高レベル放射性廃棄物管理のための第一歩を踏み出した歴史的な出来事」とし、「KORADは国家放射性廃棄物管理専門機関として高レベル放射性廃棄物管理事業を適時に推進していく」と語った。KORADは、今回の特別法と政府の高レベル放射性廃棄物管理基本計画を基に、高レベル放射性廃棄物管理のための、①研究用の地下研究施設を活用した実証技術の適時確保、②円滑な事業推進のための人材育成、③透明で合理的なサイト選定手続きの策定、④韓国の実情に適した安全基準の策定、⑤地域住民と国民の合意形成による受容性の確保、などに尽力するとしている。
18 Mar 2025
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仏オラノ社は3月10日、欧州投資銀行(EIB)と、フランス南部のトリカスタン・サイトのジョルジュ・ベスⅡ(GB-Ⅱ)濃縮工場の拡張プロジェクトにおいて、投資の一部である4億ユーロ(約648億円)の融資契約を締結したと明らかにした。この融資は、顧客からの高まる濃縮役務への需要に対応するため、オラノ社がGB-Ⅱ工場のウラン濃縮能力を30%増強するために行っている約17億ユーロ(約2,756億円)の総投資の一部を賄うもの。EIBのエネルギー部門の融資政策および欧州委員会(EC)のREPowerEUプログラムに従い、低炭素電源への移行を加速すると同時に、欧州のエネルギー主権とエネルギー安全保障を強化する欧州戦略の一環である。この融資により、欧州の電力生産の約25%、低炭素電源のほぼ半分を占める原子力発電への支援に貢献するという。仏オラノ社は2024年10月、GB-Ⅱ工場の拡張工事の定礎式を開催した。既存の14基の遠心分離モジュールに4基を増設し、生産能力を30%以上、2,500tSWU/年規模を拡張する。オラノ社は欧州の技術を採用する設備に資金を提供し、大部分はフランスのサプライヤーを利用する。増設した遠心分離機による生産開始は2028年、フル生産は2030年の予定。GB-Ⅱ工場は2011年に遠心分離による生産を開始、2016年には7,500tSWU/年のフル生産能力に達した。なお、ジョルジュ・ベスI工場は、ガス拡散によるウラン濃縮を実施していたが、2012年に閉鎖されている。この拡張プロジェクトは、2023年9月にユーラトム条約に基づく通知の対象となり、ECは2024年10月に肯定的な意見を発表。プロジェクトが同条約を遵守しており、欧州におけるエネルギー安全保障に貢献していると強調した。EIBはREPowerEUプログラムの一環として、エネルギー移行を促進し、エネルギー安全保障と競争力のカギとなる、欧州の自律性の強化に向けたプロジェクトを積極的に支援している。2024年、EIBは欧州のエネルギー安全保障の強化に過去最高の310億ユーロ(約5兆円)の融資を行っている。これにより、再生可能エネルギー、送電網との相互接続、エネルギー効率とエネルギー貯蔵に合計1,000億ユーロ(約16.2兆円)以上の投資を動員することが可能になった。オラノ社は3月6日、ウクライナの原子力発電事業者であるエネルゴアトム社と、2040年までの濃縮役務の提供に関する長期契約を締結した。同社は、ウクライナのエネルギー自立を支援し、欧州のエネルギー安全保障に貢献するという当社のコミットメントの顕れ、としている。
17 Mar 2025
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