スロベニアの国営スロベニア電力(GENエネルギア)は1月30日の記者会見で、クルスコ増設計画(JEK2プロジェクト)と小型モジュール炉(SMR)の開発に関する活動の現状と今後の取組みを発表。JEK2プロジェクトの技術的な実行可能性調査(TFS)の実施契約を米ウェスチングハウス(WE)社ならびにフランス電力(EDF)と締結したことを明らかにした。また、SMR発電所の設置については、1年以内に予備的なF/Sを実施するという。TFSはJEK2の建設と運転の技術的実行可能性評価を目的としており、具体的には技術的要件、欧州とスロベニアの法規制要件のほか、安全性やエネルギー、実施の側面から評価する。TFS実施の入札に参加したのは、米WE社とEDF。2社による見積総額は約830万ユーロ(13.3億円)で、TFSは今年の第3四半期に完了を予定している。WE社は、韓国の現代E&C(現代建設)社と協力してTFSを実施する。当初入札を予定していた韓国水力・原子力(KHNP)は、GENエネルギアに対し、このTFSへの入札に参加せず、JEK2プロジェクトの建設入札にも参加しないと通知。KHNPの決定は、現在の事業環境の評価と戦略的事業優先順位の変更に基づくものであるという。JEK2プロジェクトは、現在のクルスコ原子力発電所に隣接する場所で計画されている。2023年10月、最大240万kWeまたは2基の増設計画を掲げ、GENエネルギアは主契約者の候補として米WE社、仏EDF、韓KHNPの3社を挙げていた。クルスコ原子力発電所では現在、WE社製PWR、72.7万kWeが1基、1983年から運転している。WE社は運転と燃料供給のサポートを通じて、GENエネルギアと数十年にわたるパートナーシップを有する。GENエネルギアは2024年5月、出力100万kWe~240万kWe規模の増設プラントをスロベニアの電力システムへ接続した場合の安全性・安定性解析と経済性評価の結果を公表。電力網への影響の観点から、JEK2プロジェクトの最適な設備容量は最大130万kWeであり、同プロジェクトの建設コストは、100万kWeのプラント増設で93億ユーロ(1.5兆円)、165万kWe増設で154億ユーロ(2.5兆円)と見積もっている。GENエネルギアは、「質の高い透明性」を確保しながら、2028年までにJEK2プロジェクトの是非を問う国民投票を実施し、最終投資決定(FID)することを目指している。スロベニアでは当初、2024年11月に国民投票の実施を予定していたが、その合法性やプロジェクトの透明性を疑問視する環境団体や世論の批判を受け、国民投票の実施を中止している。同社は、EU各加盟国が策定する国家エネルギー気候計画(NECP)に基づき、2040年までに大型炉、2050年までにSMR(設備容量約25万kWe)の導入を想定。2025年中に、SMRプロジェクトの予備的なF/Sを実施し、候補となる炉型と設置場所を特定、技術プロバイダーとの協議を実施したい考えだ。スロベニアでは現在、クルスコ原子力発電所が同国の総発電電力量の約40%を供給している。同発電所はGENエネルギアと隣国クロアチアの国営電力会社のHrvatska elektroprivreda(HEP)が共同所有。スロベニアの電力需要は、2050年までに倍増することが予想されているが、2033年以降は総発電電力量の約3分の1を供給する火力発電所を閉鎖する計画だ。2043年にはクルスコ発電所の運転期間(60年)も満了する。
14 Feb 2025
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インドのN. シタラマン財務大臣は2月1日、2025年度(2025年4月~2026年3月)連邦予算を発表した。原子力発電設備容量を2047年までに少なくとも1億kWに引き上げるとともに、2,000億ルピー(約3,500億円)を投じて小型モジュール炉(SMR)の研究開発を推進する「原子力エネルギーミッション」を開始、2033年までに少なくとも国産SMR5基の運転開始をめざす方針を表明した。さらに、原子力法および原子力損害賠償法の改正を進め、民間部門との連携強化を図る考えだ。政府報道情報局(PIB)は2月3日、N. モディ首相名で同連邦予算における原子力発電に関する声明を発表した。声明では、原子力開発がエネルギーの安定供給確保や、化石燃料依存の低減に寄与すると述べ、自身が掲げる「先進インド構想(ヴィクシット・バーラト((バーラトは、ヒンディー語で「インド」の意味。)))」の目標に合致すると強調。長期的なエネルギー移行戦略の一環として、原子力を大幅に推進し、エネルギーミックスの主要な柱とする方針を示した。同声明のなかで、政府は今後、ヴィクシット・バーラトに向けた原子力エネルギーミッションを推進し、民間部門と連携して、以下の目標の達成をめざすとしている。- バーラト小型原子炉(BSR)の設置- バーラト小型モジュール炉(BSMR)の研究開発- 原子力エネルギーに関する新技術の研究開発このうち、BSRは22.0万kWの加圧重水炉(PHWR)で、従来のPHWRを民間向けに改良したものとされる。鉄鋼、アルミニウムなどのエネルギー集約型産業の拠点近傍に設置し、脱炭素化を支援する狙いがある。計画では、民間事業者が土地や資本等を提供し、インド原子力発電公社(NPCIL)が現行の法的枠組みのもとで設計や運転、保守等を担う。民間によるBSRの建設に向け、NPCILは2024年12月31日付けで提案依頼書(RFP)の募集を既に開始している。さらに新たな動きとして、インドのコングロマリットの「ナヴィーン・ジンダル・グループ(Naveen Jindal Group)」がこのほど、原子力企業のジンダル・ニュークリア・パワー(Jindal Nuclear Power)社を設立し、原子力分野への参入を発表したことが、複数のメディアで報じられている。それによると、ジンダル・ニュークリア社は、今後20年間で1.8兆ルピー(約3.2兆円)を投じて、BSRを含む先進技術を活用し、1,800万kWの原子力発電所を建設・所有・運転する計画だ。同社は、インドで初めて原子力発電分野に投資する民間企業となる。1962年原子力法は、民間部門による原子力発電参入を禁止しており、原子力省(DAE)傘下のNPCILとバラティヤ・ナビキヤ・ビデュト・ニガム社(BHAVINI、高速炉の建設と運転の事業者)の2つの国営企業に限定されていた。しかし、2015年の法改正により、インド国営火力発電会社(NTPC)のような政府系公社がNPCILと提携が可能となっていた。今回のジンダル・ニュークリア社の設立は、インドにおける原子力発電の新たな時代の幕開けを示している。
14 Feb 2025
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ベルギーでは、北部オランダ語圏の独立を主張する中道右派「新フランダース同盟(N-VA)」主導の5党連立政権による新内閣が2月3日、昨年6月の下院総選挙から7か月以上を経て発足。新首相に選出された、B. ドゥ・ウェイバ氏(N-VA所属)は2月4日、連立政権の組閣後に初となる議会(下院)での政府声明を発表。エネルギー供給強化の重要性から、再生可能エネルギーと原子力からなる新しいエネルギーミックスを追求し、原子力の段階的廃止政策の撤廃を表明した。合意された連立協定の中で、将来のエネルギーミックスにおいて重要な役割を果たすのは、カーボンニュートラルなエネルギー源としての原子力であると明記されている。具体的には、持続可能性、安全性、コスト最適化を条件に、電力ミックスにおける原子力の設備容量として400万kWを目指すとし、ベルギーで原子力産業を再興し、新規建設プログラムに着手するとしている。短期的には既存の原子力発電所を最大限活用し、長期的には新しい原子力発電の建設に投資するという。政府は、2003年1月31日付の法律が定めた2025年までの脱原子力と新増設禁止に関するすべての条項を廃止し、短期的な施策として、ドール4号機(PWR、109万kW)とチアンジュ3号機(PWR、108.9万kW)について、少なくともさらに10年の運転期間延長を掲げ、原子力事業者らとの協議を開始する考えだ。政府は、安全基準を満たした既存炉の運転延長に必要なあらゆる措置を講じ、10年ごとに定期検査を実施。この検査で問題がなければ、さらに10年の延長を実施する。加えて、原子力の安全要件に妥協することなく、新しい原子炉の建設を促進していくとしている。また、欧州原子力アライアンスの中でより積極的な役割を担うため、オブザーバーから正式メンバーになると表明。SMR導入については、欧州共通の型式認証の導入と許認可手続きの短縮を提唱し、原子力産業界と協力して、ベルギー初のSMRの開発、建設、試運転を支援するための具体的な計画を策定するとしている。ベルギーでは現在、ドール発電所で3基、チアンジュ発電所で2基、2サイトで原子炉が稼働中。いずれもPWRを採用し、計5基の合計電気出力は411.8万kWである。設備利用率は90%前後と良好であり、原子力発電量のシェアは約40%(2023年実績)。なお、脱原子力に関する法律に基づき、ドール3号機は2022年に、チアンジュ2号機は2023年に閉鎖されている。今回、運転期間延長の対象となる、ドール4号機とチアンジュ3号機については、両機とも1985年に運転を開始。40年目となる2025年に閉鎖が予定されていたが、エネルギーの安定供給に懸念が生じたため、政府は2022年3月にこれら2基の運転期間を10年延長し、2035年まで維持する方針を決定。事業者であるエンジー社とは2023年7月、運転期間の延長の最終合意に向けて交渉していくことで枠組み合意し、12月には、2035年11月まで運転期間を10年延長する計画の諸条件について最終合意に達した。これにより、両機は2025年に一旦運転を停止した後、最大20億ユーロを投じてバックフィット作業等を実施し、2025年11月の運転再開を目指すことにしていた。
13 Feb 2025
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カナダのJ. トルドー首相は1月28日、ポーランドのワルシャワを訪問し、ポーランドのD. トゥスク首相と原子力協力協定に調印した。カナダ企業が原子力技術、燃料、サービスを提供することで、ポーランドのクリーンエネルギー部門を支援し、石炭火力発電の段階的廃止を加速させ、地域全体のエネルギー安全保障を強化することが期待されている。また、両国に高レベルの雇用機会を創出するとともに、原子力協力、不拡散、安全、安全保障に対する両国共通のコミットメント強化にも貢献するとしている。2023年2月、両国の原子力規制機関である、カナダ原子力安全委員会とポーランド国家原子力機関は、小型モジュール炉(SMR)に関する協力覚書を締結し、SMR技術に関連するベストプラクティスと技術レビューに関する交流を深める道を開いた。ポーランドはまだ商業規模での原子力発電を行っていないが、大型炉とSMRの両方を建設する計画である。カナダ輸出開発公社は2024年12月、ポーランド北部ポモージェ県のルビアトボ–コパリノに建設を予定する同国初の原子力発電所のプロジェクト向けに、カナダのサプライヤーによる製品およびサービスの提供への支援を目的とした、最大14.5億米ドルの融資可能性の意向書を発行した。加オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は同社のダーリントン・サイトで、2029年末までにGE日立製のSMR「BWRX-300」の営業運転の開始を計画している。ポーランドもBWRX-300の導入を計画しており、カナダの状況を注視している。カナダ原子力協会(CNA)のJ. クリスティディスCEOは、「原子力エネルギーは、世界のエネルギー安全保障に対するカナダのコミットメントの礎。本協定締結は、カナダが経済成長とイノベーションを促進しながら、強靭で低炭素なエネルギーシステムを構築するために同盟国をどのように支援できるかを例示するもの」と述べ、カナダの原子力技術の輸出を促進し、両国における高レベルの雇用創出と原子力産業へのさらなる投資の可能性に期待を寄せた。
13 Feb 2025
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英政府は2月6日、K. スターマー首相の掲げる「変化に向けた計画(Plan for Change)」の一環で、原子力を活性化するというマニフェスト公約を実現すべく、英国の新規原子力発電所の建設に向けた規制緩和の方針を発表。イングランドとウェールズで多くの原子力発電所の建設が承認される見通しとなった。今回の規制緩和により、小型モジュール炉(SMR)を英国で初めて建設する道を開くとともに、何千もの新たな高レベルの雇用を創出、英国全土にクリーンで安全かつ低コストのエネルギーを供給し、経済成長を実現させる計画。スターマー首相は英国を原子力エネルギーの世界競争に復帰させると、意気込んでいる。英政府による最近の計画法の改正、インフラプロジェクトに係る司法審査の現在の3回から1回への制限、環境規則への常識の適用に続き、成長を優先させるため、時代遅れの規則を破棄し、NIMBY((公共に必要な施設だということは認めるが、それが自らの居住地に建設されることには反対する住民やその態度を意味する。))にノーを突きつける動きと評価されている。サイズウェルC(SZC)を含め、英国の主要なインフラプロジェクトは計画決定に際し、地元の反対運動家などによる訴訟の結果、訴訟費用と不確実性の増加に見舞われていた。今回の発表では、「英国は長きにわたり、決定が『困難すぎる』とか『長期にわたる』という理由で、遅延や妨害に悩まされてきた。英国は世界初の原子炉開発国であるが、1995年のサイズウェルBの運転を最後に原子力発電所の建設は行われておらず、よりクリーンで安価なエネルギーの利用をめぐる世界的な競争において、遅れをとっている」と言及。「英国の原子力産業界は、規制によって息の根を止められ、投資は崩壊。現在建設中の発電所はヒンクリーポイントC(HPC)のみ。企業が計画許可を取得するために3万ページに及ぶ環境アセスメントを作成するなど、不必要な規則によって何年も遅延が生じた」「投資家たちは、信頼性が高く安価な原子力発電所の建設を急ぎ、英国の野心的な計画を支える重要な近代的なインフラ、例えばスーパーコンピューターなどを支援したくとも妨げられてきた」と、これまでの状況を説明している。英政府は、全国的に原子力発電所の建設を容易にするために計画規則(Planning Rules)を改正し、雇用を創出、長期的には電気料金の引き下げ、そして国民に多くの収入をもたらす方策として以下を掲げる。計画規則に初めてSMRを含め、企業が必要とする場所で建設を可能にする。原子力発電所の建設は既存の8サイト限定を廃止。原子力発電所はイングランドとウェールズであれば、どこでも建設が可能に。原子力発電所の計画規則の有効期限を撤廃。プロジェクトが期限切れにならず、長期的な計画が可能に。首相直属の原子力規制タスクフォースを設置。より多くの企業が英国に原子力発電所を建設できるよう、規制の改善を主導する。スターマー首相は、「英国では何十年も原子力発電所が建設されていない。我々は失望させられ、取り残されてきた。英国のエネルギー安全保障は、プーチン(露)に長きにわたり人質に取られ、彼の気まぐれで英国のエネルギー価格が急騰してきた。この状況に終止符を打つ。原子力発電所の建設を支援するルールに変更し、安価なエネルギー、成長、雇用というチャンスへの長きにわたる妨害者たちにNoを突きつける」「現政権は変化をもたらすために選ばれた。英国を現状維持の眠りから引きずり出し、変化に向けた計画を加速させるために必要な抜本的な決断を下す」と強調した。英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のE. ミリバンド大臣は、「建設、建設、建設(Build, build, build)が英国のクリーンエネルギー計画のすべて。英国民は長い間、世界的なエネルギー市場で脆弱な立場に置かれてきた。唯一の解決策はクリーンな電力の新時代を築くことだ」と語った。英国では現在、原子力発電所の建設が8サイトに限定されているが、これは2011年以降見直されていない時代遅れの計画規則の一部。更新される計画枠組みは、投資プロセスを合理化し、開発業者がプロジェクトに最適なサイトを特定、より幅広い選択肢からの開発を可能にするもの。開発業者は、計画プロセスの事前申請段階でできるだけ早く候補地を提示することが奨励され、全体的なスケジュールが早まることが期待される。また、初めてSMRなどの先進技術が盛り込まれ、AIデータセンターなどのエネルギー集約型産業施設との併設に柔軟性をもたらすとしている。SMRは従来の原子力発電所よりも建設費が安く、工期も短い上、必要なサイト面積も狭いため、より多様な場所に建設できる。但し、人口密集地域や軍事エリアによる制約、地域社会の関与、高い環境基準などの立地に関する厳格な基準も引き続き維持するとしている。英国は現在、原子力発電所の建設に最もコストが掛かる国のひとつと考えられている。立地プロセス改革と並行して、タスクフォースが高い安全基準とセキュリティ基準を確保しながら、投資を促し、新しい原子炉設計の承認の迅速化と、開発業者と規制当局との関わりの合理化を目指す。具体的には、英国を国際パートナーとより緊密に連携させ、海外で承認された原子炉設計の迅速な承認するほか、高コストな変更を最小限に抑制し、重複する問題を扱う複数の規制当局が存在する場合、重複を減らし、プロセスを簡素化する方法を検討、規制上の決定が安全かつ均衡のとれたものとする作業が含まれる。この作業は、ヒンクリーポイントC(HPC)などのプロジェクトが直面している問題の解決に役立つという。HPCでは、欧州の3つの規制当局が原子炉設計について異なる評価を下したことが遅延とコスト増の原因と指摘されている。スターマー首相とミリバンドDESNZ大臣は2月6日、ランカシャー州にある英国立原子力研究所(NNL)のプレストン施設を訪問。新設を加速するという政府方針を受け、研究所員らと意見交換を行った。NNLは民間国立研究所として、英国全体に原子力発電のメリットを確実に届け、英国をクリーンエネルギー大国にするために貢献したいと表明した。原子力発電による経済効果英EDFエナジー社は1月27日、英経済コンサルタント会社による、既存8サイトの原子力発電所による経済的影響の調査報告を公表。これまでに英国経済に1,230億ポンド(約23.4兆円)の貢献をしてきたことを明らかにした。1976年から現在にかけて運転している、改良型ガス冷却炉(AGR)を有する7サイトの発電所と、1995年に運転開始した加圧水型炉(PWR)の1サイトの発電所が調査の対象。総額1,230億ポンド(粗付加価値:GVA)は、発電電力や年31,000人もの直接・間接雇用、50年近くにわたるサプライチェーンへの投資の結果である。サプライチェーン支出の90%以上が英国内を拠点とする約1,500社に向けられており、国内サプライチェーンへのプラスの影響を強調している。また、これらの原子力発電所の稼働により約2.1兆kWhを発電し、11億トンのCO2排出の回避に貢献したと言及。これは英国の自動車からの16年間のCO2排出量に相当するという。EDFエナジー社によると、2024年の英国の原子力発電電力量は373億kWhで安定しており、少なくとも2027年までこのレベルを維持したい考えだ。同社は2024年12月、4サイトで運転中の8基の改良型ガス冷却炉(AGR)すべてを運転期間延長することを決定している。SZCプロジェクトが順調に進捗EDFエナジー社がイングランド東部サフォーク州で建設を計画するSZCプロジェクトの共同マネージングディレクターらが、国会における“Nuclear Week”の期間中の1月28日、SZCプロジェクトの進捗状況を国会議員に報告した。EPR-1750(172万kWe)を2基建設するSZCプロジェクトはその大半を政府が所有し、現在はサイト内で土木工事が進行中である。ディレクターらは、コンサル会社のプロジェクトに対する独立評価が、EPR建設プロジェクトにおける大幅なスケジュールおよびコスト超過につながった落とし穴を回避できる可能性が高いと結論づけたことを報告。また、同プロジェクトが予定通り予算内での完成が予定されていることや、HPCの設計の複製により、これまでに10億ポンド(約1,905億円)の開発コストを削減し、英国全土の290のサプライヤーと25億ポンド(約4,762億円)相当の契約がすでに合意されていること、最終的に英国全土で7万人以上の雇用の創出や建設費の70%以上が英国企業に支払われ、ライフサイクルを通じて英国への1,000億ポンド(約19.1兆円)以上の経済効果が予想されていることなどを報告した。
12 Feb 2025
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海洋分野の原子力利用プロジェクトを進める英国のコアパワー社は1月29日、米国の船舶設計および海洋工学コンサルタント会社であるグロステン社と、米国の港湾に導入する浮揚式原子力発電所(FNPP)の開発で提携したことを明らかにした。コアパワー社が考案したFNPPのコンセプトは、港湾のインフラシステム。バージ船をベースとする原子力発電所、バージ船のサポートサービス、送電網との接続、運用チームなどを含んだ一括パッケージだ。燃料補給なしで長期間稼働し、運用現場への輸送が容易であり、モジュール工法のため、迅速な規模の拡大が可能であることを特徴とし、発電電力量は年間1.75億kWhを想定する。FNPPを港湾に係留し、停泊中の船舶、ターミナルクレーンや設備、港湾車両に対してゼロエミッションの電力供給を可能にするものだ。コアパワー社は、FNPPの運用コンセプトの開発と浮揚式施設の設計をグロステン社に委託。このほか、グロステン社はバージ船の規制関係の対応、サイト位置承認の取得、FNPPの製造・組立て・輸送・設置のためのサプライチェーンの開拓も行う。このFNPPプロジェクトは現状、コンセプト段階であり、米国南部にある未特定の港を対象として設計されている。コアパワー社とグロステン社は、原子炉搭載のバージ船のリスク評価を行い、安全性を最大限に高めるほか、実用性を考慮して全体的な調整をしているところだ。グロステン社のM. ファンバーグCEOは、「コアパワー社のFNPPは、海事産業の脱炭素化という大きな潮流の中で、効果的かつ現実的な手段。当社の役割は、コアパワー社のビジョンを、港湾施設に信頼性の高い、ゼロエミッションの原子力発電を実現する実用性のある設計にするとともに、複雑な規制環境に対応し、規制当局の承認を得るための明確な道筋を示すこと」と語った。海洋での原子力利用の歴史は古く、原子炉は1950年代から軍用および民間船舶に搭載され、初のFNPPである「スタージス(Sturgis)」は、1968年~1975年までパナマ運河に配備、1万kWの電力と浄水を供給している。コアパワー社のM. ボーCEOは、「原子力発電は、温室効果ガスを排出せずに、安全かつ確実に、必要に応じて膨大なエネルギー源の利用が可能。陸上での原子力発電コストの80%以上は土木工事費であり、原子炉や電力システムに係わるコストは20%未満である。FNPPは造船所で製造され、組立てられるため、納期の迅速化と低コストを実現する」と指摘し、「FNPPは港湾における電力供給の問題を解決し、地域のエネルギー安全保障を確立する」と強調した。コアパワー社は2024年11月、米ウェスチングハウス(WE)社とWE社のマイクロ炉「eVinci」を搭載した、FNPPの設計と開発に関する協力協定を締結。WE社のeVinciとヒートパイプ技術を用いて、FNPPの設計を進めるほか、FNPPの認可取得に向けた規制対応における協力を目的としている。
12 Feb 2025
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カザフスタンのK.-J. トカーエフ大統領は1月28日、政府閣僚や主要都市の自治体長、国立銀行総裁、国営企業の幹部らが出席する政府の拡大会議で演説。エネルギー不足に直面する中、ソ連からの独立後、初となる原子力発電所の建設を加速する考えを明らかにした。同大統領は、2060年までのカーボンニュートラルの達成に向け、既存の天然資源を合理的に活用し、旧式の石炭発電所を新世代の石炭火力発電所へリプレースする一方で、カザフスタンの経済発展と生活の向上には原子力発電が必要であると強調。包括的な分析を行い、将来の原子力発電所建設のサイトと最新かつ安全な採用炉型を特定する必要があるとし、政府とエネルギー関係の政府系投資ファンド「サムルク・カズィナ国家福祉基金」に対し、原子力産業の発展に向けた長期計画の策定を指示したことを明らかにした。また、政府と議会による、将来的に新たな原子力発電所のサイトについての提案を期待していると発言した。カザフスタンのエネルギー省は2023年8月、カザフスタンの原子力発電新設に関する進展状況を公表。同国初の原子力発電所となるサイトについては、アルマティ州のジャンブール地区にあるバルハシ湖西南に位置するウルケン村を選定。炉型については、建設と運転経験で実証済みの以下の炉型を候補に挙げている。・中国核工業集団公司(CNNC)製「華龍一号(HPR-1000)」(100万kW級PWR)・韓国水力・原子力(KHNP)製「APR1400」(140万kW級PWR)・露ロスアトム製VVER-1200(120万kW級PWR)またはVVER-1000(100万kW級PWR)・フランス電力(EDF)製EPR-1200(120万kW級PWR)カザフスタンでは昨年10月、原子力発電所建設を問う国民投票が実施され、原子力発電所建設に7割が賛成した。化石燃料資源が豊富なカザフスタンでは、総発電電力量の7割を石炭火力で、2割を天然ガス火力で供給している。電力設備の多くが旧ソ連時代から稼働しており、資金不足などから近年は改修や近代化作業がほとんど行われていない。そのため、毎年増加する電力消費に対応できず、停電が頻繁に発生している。さらに、送電インフラの老朽化や送電ロスの影響で、特に南部で電力不足が深刻化している。電力不足の解消とカーボンニュートラルの達成に向けて、原子力発電の開発のほか、再生可能エネルギー、ガス発電の拡張を計画し、石炭火力発電のシェアの低減を目指している。なお、旧ソ連時代にはカスピ海沿岸のアクタウに建てられた熱電併給・海水脱塩用の高速炉「BN-350」(15万kWe)が1973年から1999年まで営業運転していたが、現時点で国内で稼働する原子力発電所はない。
10 Feb 2025
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米国のBWXテクノロジーズ(BWXT)社の1月27日の発表によると、同社は加オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)のピッカリングB原子力発電所の30年間の運転期間延長に向けた改修プロジェクト、ならびにOPG社のダーリントン・サイトにおける小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」の建設プロジェクトに係る、総額10億カナダドル(約1,058億円)のコンポーネント製造契約を締結した。BWXT社は、ピッカリングB発電所(5~8号機、CANDU炉、各54万kWe)の30年間の運転期間延長に向けた改修プロジェクト向けに、オンタリオ州ケンブリッジの原子力機器製造工場で48台の蒸気発生器を製造する。製造期間7年で、エンジニアなど250人以上の高レベルの雇用を創出するという。カナダのエンジニアリング会社であるアトキンス・リアリス社、建設大手のエーコン社の合弁企業であるCanAtom社からの受注。ピッカリングB改修プロジェクトには、各原子炉とその関連機器(圧力管、カランドリア管、フィーダーパイプ、および蒸気発生器を含む)の主要コンポーネントの取外しと交換が含まれる。OPG社は本改修プロジェクトによる高レベルの雇用の維持と確保を含め、カナダのGDPにおいて406億ドル(約4.3兆円)の経済効果を見込む。5~8各機は1983年~1986年にかけて営業運転を開始し、計4基でオンタリオ州の電力需要の約10%をまかなっている。改修作業の完了は2030年代半ばと予定されている。なおピッカリングA(1~4号機、CANDU、各54.2万kWe)の2、3号機はすでに閉鎖、2024年10月に1号機、12月に4号機が閉鎖し、全機閉鎖されている。当初、ピッカリングBの2024年12月31日以降の商業運転は許可されていなかったが、オンタリオ州政府は2025年以降の運転を支持し、OPG社は2023年6月、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に2026年末までの運転期間延長を申請。CNSCは公聴会を経て、2024年10月に同機の2026年12月31日までの運転認可を発給した。OPG社は2026年末の運転を停止後、改修作業を開始する。オンタリオ州政府は2024年1月、OPG社によるプロジェクトの開始段階において、エンジニアリングや設計作業のほか、長期調達部品の確保のため、20億カナダドル(約2,116億円)の財政支援をすると表明。OPG社は、ダーリントン原子力発電所1~4号機やブルース・パワー社が進めるCANDU炉の改修プロジェクトから得られる知見をピッカリングにも反映するとしている。またBWXT社は、GE日立・ニュークリアエナジー(GEH)社とBWRX-300(BWR、30万kWe)初号機向けの原子炉圧力容器(RPV)の製造契約を締結した。RPVは炉心、冷却材、支持構造を含む、BWRX-300で最大のコンポーネント。BWXT社は、GEH社製BWRX-300のサプライヤーグループに初めて参加した企業であり、GEH社と2023年3月に、RPV関連のエンジニアリング解析、設計支援、製造および資機材調達の準備契約を締結している。ダーリントン・サイトでは事前のサイト準備作業は完了しており、OPG社はCNSCからの建設許可取得後、初号機の建設を2025年後半に開始、営業運転を2029年末までに開始したい考えだ。同サイトには合計4基のSMR建設を計画している。BWXT社は2024年4月、オンタリオ州ケンブリッジの原子力機器製造工場に8,000万カナダドル(約85億円)を投資すると発表している。オンタリオ州を含む、世界的な原子力発電需要の拡大を見込み、同工場の大型原子力機器の設計・製造施設を拡張、製造能力を増強する作業が進行中である。
07 Feb 2025
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英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のM. シャンクス政務次官は1月24日、声明を発表。原子力廃止措置機関(NDA)と協力し、セラフィールド原子力施設に保管された英国所有分の民生用の分離プルトニウムを、転用を防ぐために形態を固定化し、地中に最終処分する方針を明らかにした。同政務次官は声明の中で、「無期限の長期保管は、将来の世代に安全保障上のリスクと拡散の懸念への負担を残す。政府の目的は、この物質を手の届かない場所に置き、貯蔵中の長期的な安全とセキュリティの負担を軽減し、地層処分施設(GDF)での最終処分に適した形にする(固定化)ことである。英国の原子力遺産に対処し、将来の世代のために環境をより安全なものにするために、プルトニウムの長期的な解決策の実施は不可欠である」と述べた。英国の民生用の分離プルトニウムは、60年以上にもわたる原子力発電所の使用済み燃料の再処理から発生したもので、セラフィールド・サイトには約140トンの分離プルトニウムが貯蔵されている。この内、約22トンは日本の電力会社が英国に使用済み燃料の再処理を委託して発生したものであり、今回発表の固定化措置の対象外となる。保守党政権は2011年2月の公開協議の後、プルトニウムを混合酸化物(MOX)燃料として再利用を追求するものの、プルトニウム管理の代替提案にはオープンのままという予備的な政策見解を形成。なお同年8月、セラフィールド・サイトにあったMOX燃料製造工場(SMP)は十分な処理能力を発揮できなかったことや福島第一原子力発電所事故の余波を受け、閉鎖している。英国には現在、MOX燃料製造工場は存在していない。その後NDAは、固定化と再利用のオプションを含む長期にわたる処分について最適なオプションを特定するために、技術的、経済的な観点から詳細な分析を行ってきた。この作業の結果、最も早く、確実に、プルトニウムを手の届かないところに置くための最適な方法として固定化を推奨した。今後、研究開発を継続して、最適な固定化技術を選択する。この作業の実施に関与する組織には、NDA、特にその傘下のセラフィールド社と原子力廃棄物サービス(NWS)社に加え、英国立原子力研究所(NNL)、およびより広範なサプライチェーンが含まれるという。その後、プルトニウム処理に関する主要なプログラムへの政府承認を得て、10年後頃には、NDAとセラフィールド社がプルトニウム処分インフラの大規模な建設プログラムを開始することが期待されている。このプログラムでは、数十年にわたる設計、建設、運用期間中に数千人の熟練した雇用を創出するだけでなく、地域のサプライチェーンを大幅に強化し、インフラプロジェクトへの投資の促進が見込まれている。NDAは長期的な固定化に向けた作業を進める一方で、セラフィールド・サイトに、プルトニウム在庫を再梱包する新たな貯蔵施設を建設中である。
06 Feb 2025
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米上院は2月3日、C. ライト氏の第17代エネルギー省(DOE)長官就任を承認した。賛成59票、反対38票、棄権3票だった。ライト長官は、長官就任後に声明を発表。「トランプ大統領は、アメリカのエネルギー支配を回復するための大胆で野心的なアジェンダを示した。このビジョンの重要な要素は、米国がエネルギー開発とイノベーションにおいて世界をリードすること。DOEは、官僚的な形式主義を排除、常識的な解決策を優先し、米国人の創意工夫を育てることによって、これらの目標を達成していく」「米国民の増大するエネルギー需要を満たすため、米国の潤沢なエネルギー資源を開発し、グローバル・パートナーシップを強化し、新技術を進歩させることによって、エネルギーにおけるリーダーシップを強化する」「アメリカのエネルギーを解き放ち、人々の生活を向上させる」と抱負を語った。長官就任前の1月15日、上院のエネルギー・天然資源委員会でC. ライト長官候補に対する公聴会が開催された際に同氏は、「私の人生の情熱は、人々の生活をより良くすることであり、人々を貧困から救い出すためのエネルギー源に私のキャリアのすべてを費やしてきた。トランプ(次期)大統領はエネルギーに対する私の情熱を共有しており、長官として、手頃な価格で、信頼性が高く、安全なあらゆる形態の米国のエネルギーを活用して、彼の大胆な政策を断固として実施するために尽力する」と宣言。「エネルギーの優位性を回復するために、国内外で米国のエネルギーを解き放つ」「技術革新で世界をリードし、国際競争に勝つため商業用原子力や液化天然ガスを含むエネルギー生産を拡大し、エネルギーコストを削減していく」「そのためには、官僚主義の排除、民間投資の促進、家庭や企業にとってエネルギーをより手頃な価格にするために必要なインフラの構築を優先し、その際に障壁となる許認可プロセスを見直していく」と強調していた。なお同氏は、米国の長期的競争力の確保、エネルギー自立、および国家安全保障のために、原子力エネルギーと先進的原子力ソリューションの研究や新規原子力発電所の建設は不可欠と強調。データセンターや人工知能による電力需要が急増する中、原子力のような大規模なベースロード電源はエネルギー需要を満たし、重要な役割を果たすと指摘。その上で、DOEの先進原子炉実証プログラム(ARDP)の目標と、海外の敵対国の影響力増大に対抗する国内での濃縮ウラン生産の増強やHALEU燃料供給に係わる取組みを支持すると述べた。気候変動問題については、現実的かつ地球規模の課題であるとの認識を示し、異常気象に対処するための最善の道は、低コストで信頼性があり、安全な低炭素エネルギーを提供できるエネルギー技術を大幅に改良することであり、DOE傘下の国立研究所や民間セクターによる最先端の研究によって推進される絶え間ないイノベーションが必要と訴えた。ライト長官は、自らを科学オタク、技術オタク、生涯エネルギー起業家と紹介。マサチューセッツ工科大学で核融合を学び、カリフォルニア大学バークレー校の大学院で太陽エネルギーとパワーエレクトロニクスを研究したという。2011年にリバティ・エナジー社を創設し、石油、天然ガス、次世代地熱発電に取組み、次世代原子力エネルギーおよび新バッテリー技術の分野でも業務提携の経験を有する。マイクロ炉「オーロラ」と核燃料リサイクル開発を進めるオクロ社の取締役も務めた。長官就任を機にこれら民間企業の職は辞すという。なお上院は1月30日、D. バーガム氏の内務長官就任を承認した。同氏は、トランプ大統領にエネルギー政策の司令塔として新設された「国家エネルギー評議会(NEC)」の議長に昨年11月に指名されている。また、トランプ大統領は1月20日、D. ライト氏を米原子力規制委員会(NRC)の委員長に指名した。トランプ大統領は、バイデン前政権が進めた気候変動対策の重視から、化石燃料の積極開発へとエネルギー政策を大転換。大統領就任初日の1月20日に発令した多くの大統領令のうち、エネルギーや気候変動問題に関連するものでは、国内のエネルギー生産の増加と気候・環境規制の縮小の方針が示された。 「国際環境協定における米国第一主義」と題する大統領令では、気候変動に関する国際連合枠組条約に基づくパリ協定からの米国の再離脱を指示。米政権は1月27日に国連に通知しており、1年後に正式脱退となる。このほか、グリーン・ニューディールの終了と称し、気候危機への取組みに係る前政権の多くの大統領令や規制措置の撤回や改訂がなされ、2022年インフレ削減法のエネルギーインフラ規定の実施もその対象となっている。
05 Feb 2025
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米テネシー州のテネシー峡谷開発公社(TVA)は1月23日、テネシー州オークリッジ近郊にある同社のクリンチリバー・サイトにおける小型モジュール炉(SMR)の建設プロジェクトの初期計画と評価にあたり、米国のベクテル社とサージェント&ランディ社、およびGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社をパートナーに選定し、スケジュールとコスト見積りを共同で作成することを明らかにした。作業期間は1~2年以内と見込んでいる。建設にあたっては、作業プロセスの統合を促進させる、統合プロジェクトデリバリー(IPD)モデルを採用する。TVAの技術協力パートナーである加オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社も、IPDモデルを発電プロジェクトに採用し成功を収めており、オンタリオ州のダーリントン・サイトにおけるSMR「BWRX-300」建設プロジェクトでも同モデルを活用しているという。TVAクリンチリバー・プロジェクトのB. ディーシー上級副社長は、「目標とする予算とスケジュール遵守のために企業間で協力し、リスクを共有、コストを削減していく」と語った。TVAはクリンチリバー・サイトについて2019年12月、米原子力規制委員会(NRC)より、SMR建設用地として事前サイト許可(ESP)を取得済み。TVAは合計電気出力が80万kWを超えない2基以上のSMRを同サイトで建設することを想定し、2016年5月にNRCにESPを申請していた。またTVAは、GEH社のBWRX-300(BWR、30万kWe)がSMRの中でも最も実現性が高いと判断。2022年8月にGEH社とクリンチリバー・サイトでBWRX-300を建設するための計画策定と予備的許認可を支援する契約を締結。さらに、2023年3月、BWRX-300の建設を計画している加OPG社、ポーランドのシントス・グリーン・エナジー社とともに、GEH社が世界中で同炉の建設プロジェクトを円滑に進められるよう、BWRX-300の標準設計を開発することで合意、GEH社と3事業者間で技術協力契約を締結した。なおTVAは1月17日、ベクテル社、BWXテクノロジーズ社、デューク・エナジー社、電力研究所(EPRI)、GEH社、アメリカン・エレクトリック・パワー社(AEP)傘下のインディアナ・ミシガン・パワー社、サージェント&ランディ社などから構成されるパートナー連合を結成し、米エネルギー省(DOE)の第3世代+(プラス)小型モジュール炉プログラムから8億ドル(約1,242億円)の助成金を申請したことを発表している。ただしTVA理事会は、クリンチリバー・サイトでのSMR建設を承認する決議をまだ行っていない。理事会の承認とDOEの助成金交付により、BWRX-300建設の初期活動の加速化が期待されている。またGEH社による同日17日の発表によると、デューク・エナジー社とBWRX-300の標準設計ならびに許認可を進める活動に投資する契約を締結した他、AEP社がインディアナ州スペンサー郡にあるインディアナ・ミシガン・パワー社のロックポート石炭火力発電所サイト内にBWRX-300を設置する可能性について表明したという。DOEの助成金プログラムは2024年、米国内の原子力産業を強化し、米国初のSMR配備への支援、先進原子力技術のサプライチェーンの確立を目的に創設された。TVAのJ. ライアッシュCEOは、「この助成金が交付されれば、クリンチリバー・サイトでのSMRの建設が2年前倒しされ、早ければ2033年に営業運転が開始される」「この資金調達により、国内のサプライチェーンの確立を支援し、コストとリスクを軽減するための教訓とベストプラクティスを共有することで、より広範なSMR展開への道が開かれる」と指摘した。
04 Feb 2025
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ベルギーのエンジニアリング会社であるトラクテベル(Tractebel)社は1月23日、同社が主導し、欧州原子力共同体(Euratom)が資金提供するPULSAR研究プロジェクトが、月宇宙探査向けのプルトニウム238(Pu-238)を用いた、放射性同位体発電システム(RPS)の概念設計を2024年末に完成したと発表した。研究プロジェクトには、欧州委員会の共同研究センター (JRC)、ベルギー原子力研究センター(SCK CEN)、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)、蘭Incotec、仏・独ArianeGroup、Airbus Defense and Space、ブルゴーニュ大学Franche-Comteなどが参加し、コンソーシアムを形成。PULSARコンソーシアムは、太陽エネルギーが不十分な環境で宇宙船に電力を供給するために不可欠な、Pu-238を用いたRPS技術の確立を目指している。研究成果として、月面での用途に合わせたRPSの概念設計の他、欧州でのPu-238生産の実現可能性調査、宇宙用途を超えたダイナミックパワーシステムの可能性を探る市場分析を実現したという。放射性同位体発電システム(RPS)は、Pu-238などの同位体の崩壊を通じてエネルギーを生成し、熱を使用可能な電力に変換する。トラクテベル社によると、この技術は、月面などの低照度環境での宇宙ミッションに不可欠だという。PULSARコンソーシアムのRPSは、100~500 Weを必要とする月面ローバーや貨物船をサポートするように設計されている。フランス領の南米ギアナにあるギアナ宇宙センターからの打上げのための安全対策が組込まれており、中央に配置されたPu-238熱源を動力源とする2基のスターリングエンジンを搭載。モジュール式の設計により、モーターの故障に対する回復力を確保。期待される熱電変換効率は20%だという。トラクテベル社では、構造健全性チェック、放射線量評価、熱分析、機械アセンブリ開発を含む包括的な工学研究を実施。研究チームは、月の状態をシミュレートするための3D機械的および熱的モデルを開発し、将来の設計反復とより高度な技術成熟度レベル(TRL)の土台を作った。この研究は、欧州宇宙機関(ESA)が開発を進める無人月着陸機アルゴノート(Argonaut)のミッションを支える重要な基盤になるという。
04 Feb 2025
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米大手電力会社でフロリダ州に本拠地のあるネクストエラ・エナジー社は1月24日、2024年第4四半期の決算説明会の中で、経済性を理由に永久閉鎖したデュアン・アーノルド原子力発電所(BWR、62.4万kWe)の運転再開に向けて、米原子力規制委員会(NRC)に許認可の変更を要請したことを明らかにした。同発電所は保存状態も良好で、運転許可が復活すれば、早ければ2028年末に運転を再開できるとしている。なお同説明会の中で、J. ケッチャムCEOは、小型モジュール炉(SMR)の導入可能性についても言及。社内でSMRに特化したチームを立ち上げたが、SMRはいまだ技術開発や許認可の面で不確実性が高く、大規模な実現は2030年代後半になるだろうとの見通しを示した。米国のアイオワ州にあるデュアン・アーノルド発電所は1975年2月に運転開始、45年以上の運転の後、2020年8月に永久閉鎖した。2034年2月まで、運転が認可されていたが、2018年7月、発電所所有者のネクストエラ・エナジー・リソーシズ社は顧客の電力会社であるアライアント・エナジー社と既存の電力購入契約の5年間短縮に合意し、2020年10月の閉鎖を決定した。さらに、同年8月の暴風雨で冷却塔などが損傷。原子炉自体に損傷はなかったものの、予定より2か月早く閉鎖した。デュアン・アーノルド発電所の永久閉鎖後、2022年4月までにすべての使用済み燃料がサイト内の乾式貯蔵施設に移された。廃止措置方式は遅延解体(SAFSTOR)を採用しており、設備を安全に保管し、残留放射能の崩壊後、2075年に最終的な解体および除染活動を開始し、2080年までに作業を完了させる予定だった。ネクストエラ・エナジー社は、傘下にフロリダ・パワー・アンド・ライト社ならびにネクストエラ・エナジー・リソーシズ社を所有。これら傘下企業を通じ、フロリダ州でターキーポイント3、4号機(PWR、各82.9万kWe)とセントルーシー1、2号機(PWR、各105万kWe級)、ニューハンプシャー州でポイントビーチ1、2号機(PWR、各64万kWe)、ウィスコンシン州でシーブルック発電所(PWR、129.6万kWe)を運転している。米国では電力需要の増大と無炭素電源への関心の高まりから、閉鎖した原子炉を運転再開させる動きが広がっている。経済性を理由に2022年5月に閉鎖されたパリセード発電所(PWR、85.7万kW)は、現在の所有者であるホルテック・インターナショナル社が政府の融資保証の支援を受け、NRCへの運転認可の再交付申請を含め、運転再開の準備を進めている。コンステレーション・エナジー社はマイクロソフト社のデータセンターへの20年間の売電契約締結により、2024年9月、同じく経済性を理由に2019年9月に閉鎖したスリーマイル・アイランド1号機(PWR、89万kW)の運転再開を決定、NRCへの手続きを開始している。
03 Feb 2025
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韓国水力・原子力(KHNP)は1月23日、ノルウェーとスウェーデンで小型モジュール炉(SMR)の導入を目指す各企業と協力体制を構築し、自社開発のSMR「i-SMR」で欧州市場へ参入する方針を明らかにした。KHNPは1月20日に、ノルウェー・オスロで新興エネルギー企業であるノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社と、1月21日には、スウェーデン・ストックホルムでプロジェクト開発企業のシャーンフル・ネキスト(KNXT)社とそれぞれ業務提携の了解覚書(MOU)を締結し、SMR分野で緊密に協力することで合意。ノルウェーやスウェーデンの自治体では、SMRの導入による地域経済の活性化やエネルギー自立に向けた取組みを検討しており、KHNPは両社と連携し、i-SMRの導入に向けた情報共有、建設候補地の予備的実行可能性調査(F/S)、スマートネットゼロシティ((i-SMRと太陽光や風力などの再生可能エネルギーを組み合わせて、エネルギーの安定供給とCO2排出ネットゼロを実現する都市構想。))の開発に取り組んでいくとしている。ノルウェー国内では原子力発電導入に向けた調査に率先して取組む自治体の数が急激に増加。ノルスク社はSMRの建設、所有、運転を目指し、国内の複数のサイト候補地で各自治体や電力集約型産業と連携したSMRの導入検討や建設可能性の調査を実施している。ノルウェー政府は2024年6月に、原子力発電導入を検討する委員会を設立した。ノルウェーには発電炉の開発、運転、規制、許認可プロセスの経験はなく、同委員会は原子力発電所建設の将来的な可能性について多様な側面から幅広く検討・評価し、2026年4月までに政府に報告書を提出することになっている。一方、スウェーデン政府の原子力発電所新設計画に沿って、KNXT社はスウェーデン南東部の予備的なサイト調査を完了し、SMR開発に注力している。スウェーデンは脱原子力政策を撤回し、大規模な原子力発電開発に向け、大きく舵を切っている。2022年の総選挙によって誕生した中道右派連合の現政権は、40年ぶりに原子力を全面的に推進しており、2023年11月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップを発表した。同ロードマップには、2035年までに少なくとも大型炉2基分、さらに2045年までに大型炉10基分を新設することなどが盛り込まれている。KHNPは、独自開発したSMRと、国内外におけるこれまでの建設・運転経験に基づき、欧州のSMR市場での地位を確立・強化する考え。KHNPのJ. ファンCEOは「今回の合意はKHNPが欧州のSMR市場に参入する重要な機会になる」とし、「KHNPの技術ノウハウに基づき、世界のカーボンニュートラルの実現に貢献し、持続可能なエネルギーの未来をリードする」と語った。i-SMRは、電気出力17万kWの一体型PWRで、概念設計と基本設計は2023年末に完成。大型炉に比較して大幅に工期を短縮する、モジュール工法を採用している。KHNPは2020年、i-SMR開発プロジェクトに着手。同プロジェクトは2023年に国家研究開発プロジェクトに位置付けられ、韓国政府のバックアップの下でプロジェクト全体を管理するi-SMR開発機構が発足。KHNPや韓国原子力研究院(KAERI)のほか、韓国電力技術(KEPCO E&C)、韓電原子力燃料(KNF)や斗山エナビリティなど、韓国の主要原子力関連企業が参加している。
03 Feb 2025
852
米国サウスカロライナ州営の電力会社であるサンティー・クーパー社は1月22日、同州ジェンキンズビルに建設された、バージル・C・サマー原子力発電所(PWR×1基、100.6万kW)の増設に向け提案を求めるプロセスを開始した。米国では、増大する電力需要を満たすため、新規原子力発電所に注目が集まっている。サンティー・クーパー社は、米投資銀行のセンタービュー・パートナーズ社と協力して提案依頼書(RFP)の募集を実施。同発電所サイトで建設が中断されている2、3号機のうち1基または両機の完成、あるいは両機の代替用途の追求に関心のある企業を探している。募集締め切りは2025年5月5日。サンティー・クーパー社のJ. ステートンCEOは、「新規の原子力発電所を稼働させるには長いリードタイムを要する。信頼性が高く、クリーンな電力を短期で供給可能な、V. C. サマー発電所の2、3号機とその関連資産のオプションを模索する好機である」と強調した。また、サンティー・クーパー社が2、3号機を所有や運転する計画はない、と明言。「RFPを通じて顧客に利益をもたらし、経済発展を支援する実行可能な利用計画を示し、サウスカロライナ州に新たな価値を提供するだろう」と期待を示した。サンティー・クーパー社がRFPプロセスを開始することを決定した要因に、データセンターの急激な成長、先進的な製造業への投資意欲、火力発電所の閉鎖に伴う、新たな発電設備の必要性に加え、原子力発電プロジェクトの工期短縮のために、すでに運転を終了、閉鎖された原子力発電所の運転再開などへの大きな関心がある。また、アルビン・W・ボーグル原子力発電所3、4号機のウェスチングハウス(WE)社製AP1000×2基の運転開始や、税額控除や融資保証の提供を含む、原子力発電所の建設に対する連邦政府の支援制度の存在も大きい。なお、2、3号機の建設プロジェクトが中止された時点で、工事進捗率48%(2号機)であり、増設に伴う冷却水、送電インフラの準備もされており、増設には優位性がある。建設プロジェクトの過半数(55%)を所有していたスキャナ(SCANA)社傘下のSCE&G社(2019年1月にドミニオン・エナジー社が買収)は、2、3号機(WE社製AP1000)の建設・運転一括認可(COL)を、2008年3月に米原子力規制委員会(NRC)に申請。COLは2012年3月に発給され、2013年3月に2号機、2013年11月に3号機が着工した。同炉型を採用したA. W. ボーグル3、4号機の着工とほぼ同時期である。長年にわたる大規模でコストのかかる工事の遅延と、その後に続く2017年3月のWE社の破産申請を受け、SCE&G社は建設プロジェクトの残り45%の所有者であったサンティー・クーパー社とともに、2017年7月に2、3号機の建設中止を決定した。SCE&G社はその後、2018年12月に資産の権益をサンティー・クーパー社に譲渡している。なおNRCは、SCE&G社とサンティー・クーパー社の合意により、2019年3月にCOLを失効させた。新たに建設と運転を希望する購入者は、再申請が必要である。
31 Jan 2025
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米国で先進炉と核燃料リサイクル開発を進めているオクロ社は1月17日、常用電源および非常用電源のプロバイダーであるRPower社と覚書を締結し、オクロ社が開発中の高速炉「オーロラ」発電所の電力とRPower社の天然ガス発電を組み合わせ、データセンター向けの電力供給モデルを展開していくことを明らかにした。RPower社は2021年に設立。重要インフラ企業に電力を提供することに特化しており、データセンターや石油・ガス産業を含むエネルギー集約型産業へのサービスに重点を置いている。オクロ社の顧客基盤は拡大しており、現在の受注残は1,400万kWに達しているという。オクロ社はRPower社と協力して、当面および長期的なエネルギー供給の問題に取り組む。将来的には天然ガス発電への依存から脱却し、拡張性のある持続可能な運用を可能にするとともに、原子力との組み合わせによって大規模容量の電力を必要とする既存のユーザーの他、新規の顧客も獲得したい考えだ。またオクロ社は1月28日、先進的な核燃料技術開発企業である米ライトブリッジ社と、燃料製造施設の共同建設に向けた実行可能性調査を実施、ならびに先進燃料リサイクルに関する協力を模索するための覚書を締結したことを明らかにした。両社は、オクロ社が開発する商業用燃料製造施設にライトブリッジ社の商業用燃料製造施設を併設することで、先行資本支出と継続的な運営費の両面で大きな相乗効果をもたらすことで合意。両社の持続可能な原子力エネルギーソリューションへの取組みは共通しており、先進的な燃料リサイクル技術開発において協力することによる新たなフロンティアの開拓に意気込みを示した。オクロ社は米エネルギー省(DOE)からアイダホ国立研究所(INL)敷地内に液体金属高速炉のマイクロ炉の「オーロラ」を建設するサイト使用許可を取得。INLから燃料材料の提供を受け、DOEおよび傘下の国立研究所と協力して先進的な燃料リサイクル技術の開発に取り組んでいる。ライトブリッジ社も二酸化ウランではなく金属ウラン合金を使用したLightbridge Fuelを開発。DOEの「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」プログラムから過去数年にわたり、Lightbridge Fuelの開発を支援する助成金の交付を受ける他、マサチューセッツ工科大学とテキサスA&M大学におけるDOEの原子力エネルギー大学プログラムを通じて、大学主導の研究に参加している。
31 Jan 2025
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英国で2021年に設立された先進炉開発企業のニュークレオ社は1月15日、スロバキアの主要な原子力企業であるJAVYS社とVUJE社各社と締結した枠組み協定の内容を明らかにした。同協定によると、閉鎖されたスロバキアのボフニチェ原子力発電所(V-1)1~2号機のサイトにおいて、ニュークレオ社が開発する第4世代の鉛冷却高速炉「LFR-AS-200」(20万kWe)を最大4基建設する計画。コストは32億ユーロ(約5,178億円)と試算されている。スロバキア国営のバックエンド企業であるJAVYS社との協定では、使用済み燃料管理を実施する合弁会社「使用済み燃料利用開発センター(CVP)」設立に向けた条件を設定。JAVYS社が51%、ニュークレオ社が49%の株式を保有する。ボフニチェ原子力発電所(V-1)の1、2号機(VVER-440、各44万kWe)はそれぞれ2006年、2008年に閉鎖され、現在JAVYS社が所有、廃止措置を実施中である。ニュークレオ社は、JAVYS社が所有・操業する施設で貯蔵されている使用済み燃料を、フランス政府の協力を得て、再処理する。その後ニュークレオ社がフランスで計画しているMOX燃料製造施設で燃料加工の上、CVPが開発・建設するLFR(鉛冷却高速炉)で再利用する方針である。深地層処分を必要とする放射性廃棄物の量を減らし、スロバキアにおけるクローズド・燃料サイクルの確立に貢献したい考えだ。スロバキアの大手原子力エンジニアリング企業であるVUJE社との協力では、VUJE社の数十年にわたる原子力発電所での経験、特に原子炉の建設と試運転、および高速炉技術開発分野での豊富な経験を活用。CVPが実施する初期の実現可能性調査とその後の活動への参画など、LFR開発に共同で取組むこととしている。ニュークレオ社のS. ブオノCEOは「原子力分野での50年にわたる経験と既存の原子力インフラを持つスロバキアは、先進的モジュール炉(AMR)の新技術の開発、試験、実用化において、非常に重要で戦略的なパートナーである」「本プロジェクトは、他の欧州諸国でも実施可能であることを例示するもの。使用済み燃料の再利用は、欧州の今後数百年のエネルギー自立を保証し、競争力のある安定した価格で、EU産業の競争力を高めるために必要なステップである」と述べ、スロバキアの産業にとっての機会であるだけでなく、欧州原子力エネルギー部門全体のパラダイムシフトであると強調した。欧州委員会が立ち上げた「欧州SMR産業アライアンス」は2024年10月、ニュークレオ社のLFRを、環境に優しく、安定し、コスト効率の良いエネルギー源の確保に役立つとして支援対象とする、9件のSMRプロジェクトの一つに選定している。ニュークレオ社は2023年以来、スロバキアの原子力産業および政府の主要企業と積極的に接触。同年12月には、スロバキア経済省およびJAVYS社と、協力機会の模索とAMR開発を目的とする覚書を結んでいる。2024年7月には、スロバキアのVUJE社と、スロバキアにおけるAMRと先進的な燃料サイクルの開発の協力強化で合意していた。
29 Jan 2025
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オンタリオ州政府は1月15日、同州のポートホープ自治体とファースト・ネーションズからの要望に応え、州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社に、ウェスリービル(Wesleyville)サイトでの原子力発電所建設の可能性を探るよう要請した。ウェスリービル・サイトはオンタリオ湖のほとりにある、1,300エーカー(約5.26㎢)の敷地。OPG社の前身であるオンタリオ・ハイドロ社は、1970年代後半に石油火力発電所の建設を計画したが、1979年のオイルショックと不況のためにプロジェクトは中止。OPG社は、オンタリオ州での新設需要に備え、サイトを維持していた。ウェスリービル・サイトはすでに電源開発地に分類されており、既存の送電網、鉄道、道路インフラに近接している。OPG社の初期評価によると、サイトでは最大1,000万kWeの原子力発電所の建設が可能である。OPG社のN. ブッチャーCEOは、「新たな原子力発電の可能性を探るにあたり、透明性を徹底したプロセスと、多くの意見する機会、ホストコミュニティとこの土地を伝統的な領土とするファースト・ネーションズ(先住民族の一部)との強力なパートナーシップの構築を約束する。関係するすべての利害関係者と権利所有者の意見に耳を傾け、彼らの明確な支援によってのみ開発を進める」と語った。現在、原子力はオンタリオ州の電力の半分以上を供給する。オンタリオ州のS. レッチェ・エネルギー・電化相によると、オンタリオ州のエネルギー需要は2050年までに75%の増加が見込まれている。主に州の人口の急激な増加、新しい産業施設、人工知能(AI)向けデータセンター、産業の電化、電気自動車の充電エネルギーによる需要増だ。今後OPG社はオンタリオ州とともに、自治体とファースト・ネーションズがサイト評価プロセスに参加するための必要なリソースと資金を確保。炉型を選定し、環境影響評価を実施する。新規原子力プロジェクトを進めるためには、影響評価を含む規制当局の承認を完了する必要があり、連邦政府の手続きでは数年かかる可能性があるため、早ければ2025年内に影響評価を開始する予定だ。カナダ産業審議会は、原子力発電開発はその設計、建設、運用、保守を含む推定95年間の全期間を通じて、オンタリオ州のGDPに2,350億カナダドル(約25.4兆円)の経済効果をもたらすと試算する。また、ポートホープでの1,700人の新規雇用を含め、州全体で10,500人の雇用創出の可能性に言及。地元地域に最大20%の雇用増加を見込んでいる。オンタリオ州政府は2024年11月、増大する電力需要を対応するためOPG社に対し、ウェスリービル・サイトを含む3つの既存のサイトについて、権利保有者および自治体側が新規の発電所開発に関心があるか評価するように要請。ウェスリービル・サイトについては、ポートホープ議会とファースト・ネーションズがOPG社と協力して新規原子力発電開発への意思を示した。OPG社は、残る2つのサイトのあるナンティコーク(Nanticoke)ならびにラムトン(Lambton)のコミュニティとも話合いを続けていくとしている。
28 Jan 2025
895
スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)は1月15日、フォルスマルクにある使用済み燃料最終処分場を、R. ポルモクタリ気候・環境相の立会いの下で着工した。最終処分場は2030年代に処分開始、2080年代に坑道の拡張完成を予定する。SKBは、スウェーデンの原子力発電所を所有・運転する電力会社が共同出資して設立した会社。SKBは2024年10月、国土環境裁判所から、フォルスマルクに使用済み燃料の最終処分場、ならびにオスカーシャムに地上の使用済み燃料封入プラントを建設・操業を可能にする、環境法に基づく許可を取得。年明けにフォルスマルクで初期作業の開始を可能とする施行令も受けていた。使用済み燃料最終処分場の建設には、処分が開始されるまでに10年を要し、その後、長期にわたって徐々に地下の坑道を拡張する。現在は、樹木の伐採、サイト掘削、岩石貯蔵スペースの建設、水処理施設、冷却水路に架かる橋の建設などの2年間にわたる地上での準備作業を開始したところであり、その後に地下の坑道掘削工事に取り掛かる。なお、岩盤の掘削工事を開始する前には、スウェーデン放射線安全局(SSM)による安全解析報告書(SAR)の承認が必要となる。使用済み燃料は現在、SKBの集中中間貯蔵施設CLABに一時貯蔵されている。使用済み燃料封入プラントはCLABに隣接して建設され、完成すると両施設合わせてCLINKと総称される。発給された環境許可は、スウェーデンの12基の原子炉(現在、6基が稼働中)からの使用済み燃料に適用され、計画中の新設炉には適用されない。SKBは、約12,000トンの使用済み燃料を含む約6,000体のキャニスターを最終処分場で処分する。最終処分場の操業期間を約70年と計画するが、既設炉の運転期間延長に応じて、延長される可能性もある。最終処分場の地表部分の総面積は0.24㎢。使用済み燃料キャニスターは19億年前の地下岩盤約500mの深さに定置され、2080年代の坑道完成時の全長は66km、地下の占有面積は3~4㎢を想定する。建設にあたり、230万㎥の岩石が掘削される見込みである。SKBは1月23日、フォルスマルク原子力発電所の沖合3kmの海底で操業する、短寿命の低中レベル廃棄物処分場(SFR)の拡張工事を正式に開始し、海底下45mの岩盤を掘削した。既存の貯蔵施設にはスウェーデンの原子力発電所から発生するフィルター、工具、衣類などの他、医療、産業、研究分野から発生する廃棄物が処分されている。拡張工事は将来的に、原子力発電所の廃炉に伴う廃棄物を処分するためのもの。1988年に操業を開始した既存の処分施設は、水深約5mの海底から約60mの岩盤内に設置され、処分容量は6.3万㎥。拡張施設は、海底から120〜160mの深さに設置。ドーム状の6エリアから構成され、処分容量は11.7万㎥。SFRの処分容量は最終的に18万㎥となり、年間3,000㎥の廃棄物受入が可能になる。2075年に閉鎖予定。拡張工事は岩盤掘削作業に3年、拡張施設の設置に3年の合計約6年を見込む。スウェーデン放射線安全機関(SSM)は2024年11月、SFRの拡張工事を認可していた。
27 Jan 2025
865
米国の先進原子力エネルギー会社である、ナノ・ニュークリア・エナジー(NANO Nuclear Energy)社は1月14日、新たに取得したモジュール式マイクロ炉(MMR)をKRONOS MMRに名称変更した。同社は、MMRを開発していた米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)社から、原子力技術資産の一部を取得した。USNC社は2024年10月、米国破産法第11章第363条に従い、自社技術の売却プロセスを実施することを発表。競売により、NANO社がUSNC社の原子力技術資産の一部を現金850万ドル(約13.3億円)で買収、手続きが1月13日に完了した。USNC社のMMRは、ヘリウムを冷却材に使用する第4世代の小型モジュール式高温ガス炉。5エーカー(0.02㎢)未満のコンパクトな設置面積で、最大4.5万kWt(1.5万kWe)の出力で柔軟に動作するように設計されている。燃料は、低濃縮ウラン(LEU)またはHALEU燃料を使用する。NANO社のJ. ユー会長は、「MMRは、カナダ原子力研究所(CNL)および米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)で開発され、カナダ原子力安全委員会(CNSC)の許認可の審査段階に入った最初の原子炉。当社は、MMRの規制当局への許認可手続きと最終的な商業化の取組みを継続する」と語った。NANO社は、カナダ初のマイクロ炉であるMMRの建設と実証運転を目的としたグローバ・ファースト・パワー(GFP)社のプロジェクトの一環として、CNLのオンタリオ州にあるチョークリバー研究所に設置、実証する計画を継続する方針である。GFP社は加オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社とUSNCが設立した合弁事業体。チョークリバー研究所でのMMR建設に向けて、2019年3月にSMR開発プロジェクトとしては初めて、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。またNANO社は、UIUCとの既存の協力を延長し、同大学におけるMMRの稼働を計画。加えて、NANO社は米原子力規制委員会(NRC)とのMMR許認可プロセスを継続するとしている。UIUCは2021年6月、USNC社製MMRを将来学内で建設するため、NRCに意向表明書(LOI)を提出している。NANO社は、MMRは開発段階が進んでいるため大幅な開発コストを回避しつつ、導入スケジュールを大幅に短縮することができると、今回の買収の意義を強調。今回新たに取得したMMRは、NANO社独自の可搬型マイクロ炉「ZEUS」ならびに「ODIN」(0.1~0.15万kWt)の設計開発を通じて確立した技術基盤を強化・補完するものであるとし、実証に向けた動きを加速したい考えだ。今後、大規模なデータセンターや人工知能(AI)センター、その他の製造およびインフラにおけるエネルギー集約型産業など、エネルギー需要の高い成長市場に幅広く対応をしていくとしている。また翌15日には、USNC社から併せて取得した可搬型の高温ガス冷却マイクロ炉「Pylon」をLOKI MMRに名称変更した。NANO社はLOKI MMRが10kWeから3,000kWeまで出力調整が可能な、着陸船に適した形状で設計されていることから、特に長期的な宇宙探査への原子力利用の取組みを補完したいとしている。NANO社は、米エネルギー省(DOE)の選定による、国立原子炉イノベーションセンター(NRIC)の基本設計・実験機設計(Front-End Engineering and Experiment Design:FEEED)を通じて、2027年までに米アイダホ国立研究所(INL)内でNRICが運営するマイクロ炉実験機の実証(Demonstration of Microreactor Experiments=DOME)用テストベッドでのLOKI MMRの試運転を目指している。
27 Jan 2025
949
エストニアの新興エネルギー企業であるフェルミ・エネルギア社は1月14日、経済通信省に、電気出力60万kWの原子力発電所建設に向けて、サイト調査手続きを開始する申請をした。同社のK. カレメッツCEOは「これにより安全性、環境影響、技術的実現可能性の要件を満たす、原子力発電所サイトの適地を見つけることが可能になる。手続き開始が原子力発電所建設とイコールではないが、近年の電力需要の増加により、エネルギーシステムの安定性を守り、今後数十年にわたって電力料金を引き下げるため、制御可能で信頼性の高いエネルギー源が必要であることは明白だ」と語った。本申請の準備に向けて、フェルミ・エネルギア社は過去6年間、住民を対象とした説明会を16か所の自治体で50回以上実施し、500人以上が参加した。西ヴィル郡ヴィル・ニグラ、ならびに東ヴィル郡リュガヌスの各自治体議会は、それぞれ2023年9月、2024年3月、サイト調査への参加を決定した。フェルミ・エネルギア社の考える原子力発電所の建設完了までの計画は以下のとおり。サイト候補地の事前選定(2025~2027年)候補地を評価するための関連調査と協議を実施。フェルミ・エネルギアが実施した予備調査によると、候補地は、西ヴィル郡クンダ近郊のヴィル・ニグラと、東ヴィル郡リュガヌセのアー村の人口の少ない地域に所在。自然保護区域は回避。サイト検証(2027~2029年)選定サイトと原子力発電所のサイト条件との適合性を確認するため、詳細な調査を実施。プラントの建設段階(2029年~)計画プロセスの完了。エストニア議会(リーギコグ)による原子力規制法の採択後、2029年に建設許可申請を管轄の規制当局に提出。手続きが順調に進めば2031年に着工。2035年後半には初号機が運転開始。今回の申請は、6年間にわたる詳細な計画と分析の結果であるという。32ものパートナー機関・企業との協力を得て、71件の調査を総費用140万ユーロ(約2.3億円)をかけて実施した。エストニアの新興エネルギー企業のフェルミ・エネルギア社は、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)を2基を備えた原子力発電所の建設を計画している。エストニアの現在の電源は、化石燃料、特にオイルシェールが大半を占める。2050年までに排出量実質ゼロを達成することを掲げており、国内のオイルシェール利用の段階的廃止を開始する2035年までにエネルギー・ミックスを多様化するため、信頼性が高く低炭素な電源の選択肢として原子力発電に注目。小規模なバルト海電力市場、再生可能エネルギー、供給目標、欧州の水素市場の発展の可能性を考慮し、水素製造が可能なSMRの導入可能性を検討した。炉型の選択にあたっては稼働実績と燃料供給の安定性を重視し、2023年2月にBWRX-300を選定した。リーギコグは翌年6月、エストニアにおける原子力導入支援に関する決議を採択。これにより、政府は原子力安全法の起草、必要に応じて既存の法律の改正・補足、原子力の規制組織の設立、および専門家の育成を実施していくこととしている。
24 Jan 2025
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米ウェスチングハウス(WE)社は1月7日、米航空宇宙局(NASA)と米エネルギー省(DOE)から月面に原子炉を設置する「月面原子力発電(FSP)」プロジェクト向けのマイクロ炉の概念設計開発を継続する契約を獲得したことを明らかにした。FSPプロジェクトは、NASAが米DOEとアイダホ国立研究所(INL)と協力して実施。月面や将来的には火星でも使用も想定する、信頼性の高い電力供給源となる小型の発電用核分裂炉の概念設計の開発に重点を置いている。INLから獲得した今回の新契約は、フェーズ1でWE社が完了した設計作業をベースに、FSPシステムの設計と構成を最適化し、重要な技術要素の試験を開始するもの。NASAはフェーズ1の契約を延長して更に情報を収集、リスクの低いシステム設計をするための要件を設定し、フェーズ2で月面実証の最終的な原子炉設計の依頼を計画する。FSPプロジェクトの継続的な進展により、NASAが掲げる今後10年以内の月面実証という目標の達成が期待されている。NASAによると、FSPシステムは比較的小型で軽量なほか信頼性も高く、日射量等の自然条件や場所を選ばずに継続的に電力供給が可能。月面でFSPシステムの能力を実証し、火星等への長期ミッションに道を拓きたい考えだ。WE社は月や火星、その他の惑星軌道上にある宇宙探査機への電力供給や地表面での設置を目指して、マイクロ炉「eVinci」の小型版を開発している。eVinciは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWのヒートパイプ冷却の可搬式原子炉で、軽水炉のような冷却ポンプは不要。近いうちにINL内で国立原子炉イノベーション・センター(NRIC)が運営するマイクロ炉のテストベッドで試験を行う予定である。月や火星、その他の惑星軌道上にある宇宙探査機への継続的な電力供給や地表面での設置において、設計がシンプルな同炉は、信頼性の高い自動稼働式の低質量発電システムを月面や人工衛星等に構築する技術として理想的であると、WE社は指摘する。また、この頑丈な炉は可動部分が非常に少なく、故障箇所を減らすことでミッションに応じて柔軟に対応可能。また、操作が簡単で、過酷な宇宙環境にも耐える高い信頼性を実現するとしている。WE社は2022年6月、宇宙用原子力技術の開発で協力中のNASAとDOEから、月面で稼働可能なFSPシステムの概念設計の提案企業に選定された。NASAの主導により有人宇宙飛行、月面着陸および持続的な探査活動を目指す「アルテミス計画」では、2020年代末までにFSPシステムを月面に設置するため、NASAとDOEはこれに間に合うようWE社を含む3社を選定。当初の仕様には、月面環境下で少なくとも10年間連続稼働する電気出力40kWであることのほか、システムが直径4メートル、長さ6メートルの格納シリンダー内に収まること、システムの総重量が6トン以下であること、月面着陸船のデッキまたは別の移動システムからの自律運転が可能であることなどが含まれていた。3社はシステムの初期概念設計を開発するため、INLと12か月契約を締結、各社に約500万ドルが支払われた。WE社は2023年6月、月着陸船やローバーの設計や配備を行うアストロボティック社と、NASAと国防総省(DOD)の宇宙開発技術プログラムでの協力可能性を探る了解覚書を締結している。
23 Jan 2025
1308
国際エネルギー機関(IEA)は1月16日、報告書「原子力エネルギーの新時代への道(The Path to a New Era for Nuclear Energy)」を発表した。報告書は、世界的な電力需要の急増を背景に、政策支援や投資、小型モジュール炉(SMR)の技術開発などが原子力発電の成長を後押しする一方、コスト超過、プロジェクトの遅延リスク、資金調達などの課題に対処する必要があると指摘している。IEAは原子力について、24時間供給可能で大規模展開できる、クリーンで実証済みの電源・熱源であると評価、再生可能エネルギーを補完するとともに、エネルギー・セキュリティや排出量削減に寄与するエネルギー源であるとしている。<原子力発電の現況>2023年現在、原子力発電は世界の総発電電力量の約9%を占め、30か国以上で410基以上が運転中。水力発電に次ぐ第2位のシェアを誇る低排出電源である。IEAによると、現在、原子力3倍化に向けた取組みなど、40か国以上で原子力発電の利用拡大に向けた支援が行われており、原子力への関心は、1970年代の石油危機以来最高水準に達している。現在建設中の原子炉は63基、発電設備容量は7,000万kWを超え、1990年以降で最高水準の一つとなっている。また、ここ数年では、新規建設や既存発電所の運転期間延長の取組みも活発化しており、2025年には原子力発電量が過去最高を記録する見通しである。さらに、新規建設と既存発電所の運転期間延長の両方を合わせた、原子力への投資額は、2023年には約650億ドル(約10兆1,000億円)に上昇し、10年前のほぼ2倍の水準となった。一方で、IEAは、現在運転中の原子力発電所の70%以上が先進国に集中しているものの、平均運転年数が36年以上と比較的古く、原子力シェアも減少傾向にあると指摘。世界の原子力市場の勢力図が、中国をはじめとする新興国へと変化しつつあり、2017年以降に建設が開始された原子炉52基のうち、48基が中国(25基)またはロシア(23基)の設計であると分析した。また、現在建設中のプロジェクトの大半が中国で行われており、中国が2030年までに原子力発電設備容量で米国と欧州を上回るとの見通しを示している。IEAはまた、燃料供給に関するリスクにも言及しており、特にウラン濃縮については、世界の濃縮能力の40%をロシアが占めている現状を問題視。将来へのリスク要因であるとし、燃料分野におけるサプライチェーンの多様性を高める必要性を強調した。また、近年の米国やフランスなどでの大型炉建設における大幅な遅延やコスト超過などの課題も克服すべきとした。<原子力投資の見通し>IEAは、世界の原子力投資は今後増加すると予測しており、大型炉が主要な投資対象となる一方で、SMRが急成長する可能性に言及している。現行のエネルギー政策に基づく「公表政策シナリオ」(STEPS)では、SMRの発電設備容量が、2050年に4,000万kWに拡大すると予測。また、各国政府による誓約目標が期限内に完全に達成されることを想定した「発表誓約シナリオ」(APS)では、政府の支援強化により、2050年までに1,000基以上のSMRが導入され、総発電設備容量は1億2,000万kWに達するとの見通しを示した。これに伴い、SMRへの投資額も大幅な伸びが予想され、現在の50億ドル(約7,800億円)から2030年には250億ドル(約3兆9,000億円)を超え、2050年までに累計投資額は6,700億ドル(約104兆円)に達する見通し。IEAは、データセンター(DC)の拡大等を背景に、安定的で低排出な電源としてのSMRへの関心が高まっていると分析している。現在、DC向け電力供給として合計最大2,500万kWのSMR建設計画が進行中であるという。また、近年では10%未満にとどまっていた先進国の設計を採用する大型原子力プロジェクトの割合が、欧州や米国、日本での新規着工により、APSでは2030年までに40%に増加、その後は半数を超えると予測した。さらに、SMRの広範な導入により、2050年までに新規建設の60%以上が、米国または欧州の設計が採用されるとの見方を示した。但し、IEAは、SMRの成功と導入のスピードは、2040年までにコストを大規模水力や洋上風力と同水準にまで引き下げられるかどうかにかかっているとも指摘している。<原子力プロジェクトへのファイナンス>IEAは、APSでは、2030年までに原子力への年間投資額が1,200億ドル(約18兆7,000億円)にのぼると見ており、この投資の規模を考えると、公的資金に依存するだけでは不十分であり、民間投資の促進が不可欠であるとの見方を示している。一方で、原子力プロジェクトは、その規模の大きさや資本集約性、長い建設期間、技術的複雑さから資金調達が難しく、コスト超過や工期遅延が頻発しており、投資家にとって大きなリスク要因となっている。こうしたなか、IEAは、政府の支援が商業銀行による資金提供を後押しするカギと強調。予測可能なキャッシュフローの保証や建設リスクの政府負担が、プロジェクトの資金調達を容易にするとした。また、長期の電力購入契約や差金決済取引(CfD)、規制資産ベース(RAB)モデルといったリスク軽減策が、安定した資金調達を支える仕組みとして重要性が増しているとした。さらに、IEAは、新規の大型原子炉建設プロジェクトは、建設段階での資金調達が難しいとされる一方、既存発電所の運転期間延長プロジェクトは、運転中の資産を対象とするため、銀行からの資金提供を受けやすいと指摘。また、SMRについては、その規模の小ささから建設期間が短く、投資回収期間が従来型プロジェクトの半分程度に短縮される可能性があることから、投資コスト全体の大幅削減につながる可能性があるとした。また、昨今のグリーンボンドなどの環境金融商品が、新たな資金源として注目を集めており、原子力への資金調達の幅を広げる可能性も併せて指摘している。また、IEAは、原子力事故のリスクに関して、影響を十分に補償する体制を確保するとともに、原子力事業が持続可能に運営できる仕組みの重要性を強調。日本の原子力損害賠償法に言及し、例外的な事象による原子力事故を除き、原子力事業者に損害賠償責任を無制限に課す現行制度について、「大きな財務的テールリスク((統計的な分布における「尾(テール)」に該当するリスクを指す。発生確率は非常に低いが、発生した場合には甚大な影響を及ぼす可能性があるリスクを指す。))を伴う」と指摘した。 ※図表の入った詳細版を、こちらで公開しています
22 Jan 2025
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米商務省の産業安全保障局は1月15日、インド原子力省(DAE)傘下の3研究開発機関・公営企業を貿易取引制限リストから削除した。エネルギー安全保障のニーズと目標を共有する両国間の共同研究開発や科学技術協力などの先進エネルギー協力への障壁を減らし、原子力の平和利用協力および関連する研究開発の推進がねらい。同リストから削除されたのは、DAE傘下のインディラ・ガンジー原子力研究所(IGCAR)、バーバ原子力研究所(BARC)およびインド希土類公社。米国のJ. サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官は1月6日、インド工科大学デリー校で講演。インドの主要な原子力機関と米国企業との間の民生用原子力協力を実質妨げてきた長年の貿易規制を撤廃するための必要な手続きが最終段階に入っていることを明らかにしていた。サリバン大統領補佐官は、「J. ブッシュ前大統領とM. シン前首相は20年前に民生用原子力協力のビジョンを打ち出したものの、我々はまだそれを完全に実現できていない」「平和的原子力協力への取組みを共有する戦略的パートナーとして、これまでの協力の歩みを継続していく」と述べ、貿易規制撤廃による両国間の民生用原子力協力促進への期待を示した。貿易規制の背景にはインドによる1974年の核実験の実施がある。核実験実施を契機にそれまで初期のBWRやCANDU炉の導入に協力してきた米国やカナダなどが原子力協力を停止。さらに国際的な輸出規制のための原子力供給国グループ(NSG)が設置されたため、インドは原子力関係の資機材や技術の輸入ができなくなり、ウラン燃料、重水、原子炉関係機器などの調達から、建設・運転・保守の技術に至るまで国産で賄わざるを得なくなった。その後、インドが核実験モラトリアムの継続をはじめ、核不拡散に協力する姿勢を見せたため、米国は大規模な原子力開発計画を持つインドでの商機を狙い、2005年に対印原子力政策を転換。2008年8月には国際原子力機関(IAEA)理事会が保障措置協定案を承認、同9月にNSGは核不拡散条約(NPT)未加入のインドに対する民生用原子力協力を容認(インド例外措置)し、翌10月に米印間で原子力協力協定(通称123協定)が締結され、原子力協力が進められてきた。なお、インドの原子力損害賠償制度は、海外の原子炉ベンダーにも一定の賠償責任を盛り込んでおり、技術協力の障害となっていたが、インドは2016年2月に原子力の損害賠償の補完的補償に関する条約(CSC)を批准し、海外ベンダーのインド進出が容易になった。同年5月、インドはNSGへの加盟を申請。米国はインドのNSG加盟を支援している。これらの動きを受け、インド東海岸のアンドラ・ブラデシュ州のコヴァダが米ウェスチングハウス社(WE)製のAP1000×6基の建設サイトに選定され、現在、サイトの準備作業とWE社との建設計画の協議が進行中である。
21 Jan 2025
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