工業高校卒業生が2040年に91万人不足する―。
経済産業省が2026年3月の産業構造審議会で示した「2040年の就業構造推計(改訂版)」で、そんな将来像が示された。
高卒(工業科)の人材は2040年、需要538万人に対し供給は448万人にとどまり、約91万人が不足する見通しだ。その規模は、不足が約96万人と見込まれる大卒理系に迫る。
報告書は「大卒・院卒理系は東京圏も含め全ての地域で大幅な不足となる。工業高校、高等専門学校についても不足が顕著」と指摘する。
細る人材の供給源
2040年は、まだ先の話にも見える。しかし、人材供給の縮小はすでに始まっている。
文部科学省「学校基本調査」によると、専門高校(工業に関する学科)の卒業者数は2015年度の約8万人から2024年度には約6万4,000人まで減少した。一方、大学の工学関係学科の卒業者数は同期間を通じて約8万6,000~8万8,000人で推移し、高等専門学校(高専)も約1万人で大きな変化はない。工業系人材の供給源の中で、卒業者数の減少が際立っているのが工業高校だ。
「少子化」だけでは説明できない
工業高校の卒業者数の減少は、少子化だけでは説明できない。
文部科学省・産業教育ワーキンググループの資料(学校基本調査を基に作成)によると、2006年3月卒業者と2024年3月卒業者を比較した場合、高校卒業者総数は18年間で21.6%減少したのに対し、工業科は32.8%減と、少子化を上回るペースで縮小している。

工高卒1人に31.9件の求人
一方、工業高校生に対する企業の採用ニーズは強い。全国工業高等学校長協会の調査によると、工業高校卒業生の求人倍率は2024年度、31.9倍。過去最高の数値だ。高校全体の4.1倍を大きく上回った。

全国工業高等学校長協会に聞く
☆インターンシップで実習に取り組む工業高校生(全国工業高等学校長協会提供)
全国工業高等学校長協会は、工業系学科を設置する国公立・私立高校約585校でつくる団体で、工業関係の検定や競技大会の実施、卒業者の進路・求人状況の調査などを行っている。事務局は、工業高校の生徒が減少している要因について、地域差も大きく、一概には言えないと説明する。少子化や進学志向の高まり、入試制度、私立高校を取り巻く環境の変化など、複数の要因が重なっているためだ。
工業高校卒の人材が2040年に約91万人不足するとの推計については、工業高校への関心を高める追い風と受け止める。しかし、現時点で生徒の増加には必ずしもつながっていない。事務局は、将来の需要の大きさが示されても、それが中学生や保護者にとって具体的な進路の選択肢としては見えにくいのではないかとみる。工業高校では、就職にあたって進路指導の教員がきめ細かく生徒を支援するが、こうした仕組みを含め、卒業後にどのような道が開かれているのかが十分に知られていないという。
企業から引く手あまたの工業高校生は、学校で何を学んでいるのか。
工業高校での学びは、実習で専門的な知識や技能を身につけることにとどまらない。現在は、課題研究など、答えのないテーマについて生徒自身が考える授業も行われている。実践的な学びを通じて、発想力や、現場のわずかな違和感にも気がつく感覚を養っているという。
原子力産業でも技能人材の確保難
原子力産業でも、技能人材の確保が難しくなっている。資源エネルギー庁が2026年3月に示した原子力サプライチェーン企業への調査では、溶接工、配管工、鋳造工について、人材確保が以前より困難になっていると回答した企業の割合が、それぞれ44%、57%、40%にのぼった。
アンケートを踏まえた企業へのヒアリングでは、技能職の人材確保を難しくしている要因として、工業高校などの卒業者減による「全体の供給力減」が挙げられた。企業からは、専門性を持つ工業高校卒に限らず、普通科を含む高卒人材全体の採用が難しくなっているとの声もあった。原子力発電所の建設や保守、機器製造などを支える技能人材。その供給源が細る中、産業界にとっても人材の「入口」をどう確保するかが課題となっている。
NEXT — 第2回
原子力企業の人材確保 10年の試行錯誤
工業高校生の減少は、原子力産業の採用現場にどんな影響を及ぼしているのか。次回は、10年前から人材確保に取り組んできた茨城県東海村の「原子力人材育成・確保協議会」と企業の現場を追う。



